フラア・ネフティス編3 混乱
ぶっくま、ありがとんです!
フラアは精一杯の微笑みを浮かべて両手を差し出す。
「あ、あたしの知ってる事は何でも教えるから・・・、ね?」
まずは食料を恵んでもらわなければ!
ツォンは「仕方ないなぁ」とでも言わんばかりに、
解凍してから携帯用の小さなパックをフラアに渡す。
ついでに封の切り口と食べ方をジェスチャーで示した。
恐る恐るフラアが封を切ると、
中から茶褐色のペースト状の何かが・・・
お・・・美味しいの、これ?
だが贅沢は言っていられない。
おっかなびっくりで口にいれると・・・ん?
意外に美味し・・・いや!
この酸味は何だ! うげぇ!!
でも確かにこれは喰い物には違いない、
無理してでも食べないと・・・。
ツォンは冷やかに、フラアが食べつくす姿を観察している。
早く食べ終わって質問に答えろってことなのだろう、
ようやくフラアがそれに気づいて場を取り繕う。
「あ、う、・・・ゴクン!
それで、ウィグルのこの400年ね?
でも、変わったって言うか、
あなたが暮らしていた王朝は、
第三代ウェールズの治世の時に滅びたって言うわよ?」
あ・・・。
その言葉に衝撃を受けたのは、今度はツォンだ。
「何だって・・・?
今、なんて・・・滅びた・・・!?
どういうことだよ!
カラドック兄ちゃんやラヴィニヤねーちゃんはまだ生きてたはずだ!
誰に!? どっかの国に攻め込まれたって言うのか!?」
「ご・・・ごめんなさい、
あなたがその時代に生きてたのならショックよね・・・、
でも落ち着いて・・・、
どの道、400年経ったらみんな死んでるわ・・・!?」
「それでもだぃ!! ウィグルが滅びたって!?
そんな馬鹿な!!
ウィグルはスーサを倒し、南の反乱を起こした国も鎮めた!
この大陸の覇者になったんだ!!
恵介にーちゃんを罠に嵌めて、シリス様を殺そうとした裏切り者も、
おいらがこの船でやっつけたんだ!
ウィグルは最強にして不滅の国だぞ!?」
ツォンがショックを受けている事はフラアにもよく理解できる。
フラアは、
出来る限りの優しい顔をして、ツォンの表情を覗き込む・・・。
「私たちにも詳しい事はわからないの・・・、
ウィグル王列伝は、ウェールズ国王の治世中にいきなり途絶えてるし・・・。
一般に言われているのは、
何らかの天変地異が起きたようだってことよ・・・。
でも聞いて?
私たちのこの国は神聖ウィグル王国・・・。
400年前滅びたとしても、その王位の血筋の物が、
このラシっていう土地に再び築きあげた、かつてのウィグルを継承する国よ。」
そこでようやくツォンは落ち着いたようだ。
「神聖ウィグル王国・・・?
じゃ、じゃあ、ウィグルには違いないの・・・?」
「ええ、そうよ!
だからあなたと同じ言葉で会話もできるんじゃない・・・!
それに今、ウィグルの宗教は、ヤズス会マグナルナ派と言って、
天使シリスを奉じる宗教よ?
さっきの魔女云々ってのは・・・厄介な習慣だけど、
基本的には天使シリスが造り上げた、
過去の王国の栄光を取り戻そうとしている・・・。」
そこでツォンは頭を抱えて悩み始めてしまった・・・。
多少、母性本能をくすぐられる姿だが、
今はそんなことどうでもいい。
それよりも突っ込みたい事がある。
「ね・・・?」
「んん? なに?」
「一つ思ったんだけど・・・
何で・・・わざわざ400年も眠っていたの?」
その質問の答えが返る前に、
天井に浮かんでいる映像に変化が起きていた。
2~3人の男が、
この光る船(?)に興味を持ったらしく、この機体を覗き込んでいる。
フラアは自分の存在を覗かれているような錯覚に陥る。
これ、本当に向こうから見えてはいないの!?
しばらくツォンはその両方を見比べていたが、
やがて彼は一つの答えを出したようだ。
「なぁ、おねーちゃん、フラアねーちゃんて呼んでもいい?」
ツォンは自分より年上な筈だが、まあこの際どうでも・・・。
「あ、ええ、ま、まぁそれで。」
「おいら、シリス様がいなくなる直前・・・、
カラドックにーちゃんが王位をウェールズに譲る前なんだけど、
シリス様から言われていたんだ・・・。」
「な・・・なんて?」
「この船に冷凍睡眠装置を入れて400年後に目覚めろって・・・。」
「シリス様が?」
「うん、それで・・・
目を覚ましたら、おいらの力を必要とする人がそこにいるからって・・・。」
・・・え?
それって・・・
「え? ちょっと待って、ツォン君!
今の話って・・・。」
「まさか目を覚ました目の前にいるなんて考えもしなかったけど・・・
シリス様の言葉を正確に守るなら・・・。」
どういうこと?
400年前の天使シリスが、
今のあたしのこの状況を予知していたとでもいうの!?
第一、何で一介の細工師の娘の私の為にそんな事?
天使にはそんな力があるのだろうか?
だが、その後のツォンの言葉は、フラアの予想を否定する。
「でも、考えてみればおかしいんだよね?
シリス様には、
未来を予測しても、未来を予知する力はないって、
ご自分で常々言ってたのに・・・。」
そんなものフラアにだってわかるものか。
しばらく口もきけないでいると、ツォンはフラアを振り返った。
「フラアねーちゃん、ホントに似てるよね・・・。」
「え? だ、誰に?
あっ、さっき言ってたラヴィニヤって人・・・
もしかして、それってラヴィニヤ王妃の事!?」
「うん、髪の色とか、仕草とかは全然違うけど、
・・・顔のつくりはそっくりだよ。
おねーちゃん、親戚にウィグル王家の人でも?」
そんなことを言われたのは初めてだ。
もちろん、
ラヴィニヤ王妃の顔を知ってる人間なんか、いるわけないんだから当たり前だが。
天使には予知能力はありません。
「メリーさんを追う男」のどこかで書いたと思います。
あくまで高い知能により、予測する能力は人間以上です。
それに対し、
一部の人間たちに、近い未来、或いは限定的に、または「神」からの神託として、未来を知る力が与えられています。
あと、今回ツォンが語った内容の一部は・・・
やはり「メリーさんを追う男」のどこかに言及しております。