フラア・ネフティス編3 ピエリの願い
今回、ラストに、
ピエリが幼い頃の、まぶたに残っていた記憶の一コマを入れときました。
・・・なんとか間に合った・・・。
帰宅して速攻、VRoid起動して、フラアの衣装変えて、Vワールドで草木植えてから背景撮って・・・。
「お兄ちゃん、どうやって!?
この周りの騒ぎは!?」
そんな事聞いている余裕はないのだが、
聞かずにいられる事でもない。
「は、は、看守から奪った鍵で、
独房全部の部屋の鍵を開けてやったのさ!
いまんとこ5、6人だが・・・、
フラアやおふくろ達がどこにいるか分からないからな、
か、片っ端からだよ。
それより・・・フラア・・・お前は無事か?
酷いこと、さ、されてないか!?」
十分酷い事をされた自覚はあるが、どうみたって兄の方が酷い有様だ。
「あ、あたしは今のところは・・・!?
で、でもどうやってここから逃げるの!?
それにお兄ちゃんこそ・・・ああ、こんな痛そうな傷で・・・。」
「オ・・・オレはまだ動ける・・・。
それよりな、この独房にはないが、
お前の取り調べを受けた部屋にカーテンはついていたか?
あそこに戻って、カーテンを結べば結構な長さになる・・・。
窓から降りれば、外の刑場を駆け抜けて・・・。」
「無茶よ!
フェンスの外になんか行けっこないわよ、
それに見張りの兵だって、城壁や城門に配置されてるし、
もちろん、家にだって帰れないでしょう!?」
「そ、それでもだ、フラア!
ここにいたら絶対に魔女扱いされちまう!
仮に全てデタラメの供述して、自分が悪魔崇拝者だと認めたとしたら、
拷問はなくなるかもしれないが・・・
知ってるだろう・・・、
そのまま待っていたら、下の刑場で火炙りだ!!」
「でも・・・!」
確かにピエリの言うことももっともだ。
八方ふさがりとはこの事を言うのだろうか?
待っていても逃げても最悪の結果しか予想できない。
自分はただの女の子・・・逃げたって、男の足に敵わないし、
勿論抵抗することもできない。
出来るとしたら、次の拷問までの時間稼ぎ?
フラアがためらっていると、
ピエリは強い態度でフラアの腕を掴んだ・・・!
「お兄ちゃん、痛・・・!」
彼女の顔が痛みで歪んだ時、
ピエリの脳裏に、あの悪魔の夜の出来事が浮かび上がる。
だが、もう今はそんな事に囚われている場合じゃあない。
いや、というよりあの過ちの償いを果たすのは今しかないのだ。
「フラア! 時間がないんだ!
可能性だ! このまま逃げれば・・・わずかに可能性が生まれる!
それは理解できるだろ!?」
「そ、それはそうだけど、お父さんやお母さんも・・・」
ほんの数秒、ピエリは黙っていたが、
やがて妹の手を放して立ち上がる・・・。
「そうだ、もちろんだ・・・、
オレが二人を解放する。
だから、オレを信じてお前は先に逃げろ・・・。」
「そんな! 第一どこへ!?」
・・・考えてなかった。
ここから逃げる事、妹を助ける事だけに集中して、その後のことなどまるで想定していなかったのだ。
ピエリは必死に考える。
友人も隣人も、頼れるものなど、もう何処にもいない。
なら・・・
「それは・・・そうだな、
フラア・・・
北の城門の外に古代の街の遺跡があるの知ってるよな?
幽霊が出るって言うんで有名な・・・
あそこなら・・・
ああ、そこで落ち合おう・・・。」
「あんなところへ!?
でも・・・確かにあそこなら・・・でも遠いよ!?」
「フラア! 問答してる暇はない!
今が最後のチャンスなんだ!
頼む! オレのためにも早く逃げてくれ!」
オレの為にって・・・わけわかんない!?
ピエリの言葉に当惑も起きるが、
確かに今はそんなことはどうでもいい。
二人はすぐに審問室の鍵を開け、
カーテンを外して机の端に結び目をつける。
暗いけど、これで外に降りられれば・・・。
窓を開けると冷たい風が入り込んできた。
月はそろそろ落ち始めているが、何とか視界は・・・。
それでも地面からの距離がどれくらいなのか、測るのは難しい・・・。
「お兄ちゃん・・・。」
不安を瞳に浮かべ、兄を見やるフラアに、
ピエリは腫れあがったまぶたの下から、
強い意志の光をもって妹の手を握り締めた・・・。
「大丈夫だ!
着地するとき、捻挫しないようにしろよ!」
「そ、そんなことより、お父さんやお母さんが・・・
それに早くお兄ちゃんも!?」
「わかってる、
お前が降りたら、このカーテンも燃やして、
火事のどさくさに逃げ出すさ・・・!」
既にピエリはフラアの部屋にたどり着くまでに、
廊下のランプで、燃やせるものを全てに火をつけてきた。
このまま火事になるか、鎮火してしまうかはどうでもいい。
要は他の見張りの行動を抑えさせればそれでいいのだ。
妹が逃げる隙さえできるのなら・・・。
もうフラアもすべきことは分かっている。
不安だ、自信がないなどとは言ってはいられない。
竦む自分の恐怖心を無理やり奮い立たせて、
カーテンの端にしがみつく。
自分の体重ぐらい・・・何とか・・・
自分の頭上は兄ピエリが見守ってくれている。
フラアは怯えながらも、
覚悟を決めてズザザザザーっと、
カーテンにしがみついたまま外の世界を目指す。
素早く・・・安心してぇぇぇ地面にぃぃぃぃぃ!
・・・ドスン!
あいたぁぁ~!
「フラア! 大丈夫か!?」
「あ、う、うん、何とか!」
「良し! じゃあさっさと行け!
オレはおふくろ達を探すから安心してお前は逃げろ!!」
「あ、う、うん!
・・・でもお兄ちゃん、無理しないでね!!」
その時、窓の下を見下ろすピエリの耳に、
自分がいる審問室のドアが破られる音が聞こえた・・・!
「お!? ここにいやがった!
おい! 脱獄者がここにいるぞぉ!!」
見つかった・・・、
すぐに振り向けば、フラアにも追手がここに来た事を気づくだろう・・・。
そうなれば、
フラアはここから逃げ去るのに躊躇するかもしれない。
かといって大声を出せば、
看守たちにフラアの存在を気付かれる・・・!
ピエリは何食わぬ顔で・・・、
後ろの看守たちなど気付きもしないようなそぶりで、
フラアが降りたカーテンに火をつけた・・・。
下手したら、自分に火が移るかもしれないのに?
「あっ! この野郎、火をつけやがった!
おい、バケツに水を用意しろ!
オレらはとっととコイツを始末するんだ!!」
地面に降りたフラアから見れば、
兄がカーテンに火をつけた行為は、
自分を見送る時間すら惜しく、
次の行動に移るためのアピールのように見えた。
なら最後にお兄ちゃんに・・・。
フラアは、
自分を見守るピエリの方を哀願するかの如く見上げる。
「お兄ちゃん! きっとよ!
きっと無事に逃げて来てね!!」
・・・兄はもう反応しない。
燃え始めるカーテンを手に取りながら、
静かにフラアを見下ろしていた・・・。
ほんの一瞬、フラアはこのまま逃げだすのを躊躇いかけたが・・・、
すぐに彼女は兄から視線を外し、
刑場の外へと走り出した。
よし、それでいい・・・
その姿に満足したピエリは、
振り返って武装された看守に囲まれている事を再確認する。
3~4人はいる・・・。
自分の持っている火種を警戒しているのかもしれないが、
どっちみち、このカーテンも攻撃手段にはなりそうもない。
なら・・・。
ピエリは燃えるカーテンを、
椅子やテーブルの下に無造作に突っ込んだ。
すぐに燃えるわけでもないのだが・・・。
当然、看守は慌てるも、
まずはピエリを抑えるのが先決だと判断し、
二人かかりでピエリを挟み込む・・・。
もう・・・
ピエリも分かっている・・・。
この状況で自分が助かる術などもうない・・・。
そして何よりも・・・
妹を逃がすことができた・・・。
それで十分だったのだ。
父や母の事は申し訳なく思うけども、
きっとフラアを逃がせた事に関してだけは、よくやったと褒めてくれるだろう・・・。
後はできるだけ時間稼ぎを・・・。
だが看守たちにしてみれば、既に2人の仲間の犠牲者が出ているのだ。
さらに複数の脱獄者・・・
館のあちこちから火の手が上がっている・・・。
これだけの事をしでかした男を、
ただ拘束して終わりにするわけなど断じて許せるわけもない。
彼らは怒号を発し、自らの剣を抜いた・・・。
ピエリにも、
その剣の光が何を意味するか瞬時に悟る。
・・・でもいい・・・。
オレはやり遂げた・・・。
後は、フラアに聞こえる事のないよう、
悲鳴だけはあげるまい・・・。
フ ラ ア
き っ と 幸 せ に・・・
さようならピエリ・・・。
彼はフラアの笑顔を守るために・・・。