フラア・ネフティス編3 脱獄
ぶっくまありがとうございます!
・・・あれ? 評価者が減ってる・・・。
評価って消せるの?
その日の真夜中、
・・・ピエリは行動を起こした。
悩んだりしている暇はない。
今後、もっと酷い拷問を受けるかもしれないのだ。
ピエリが足りない頭で絞った作戦を実行する。
毛布のカバーシーツを破って、ひも状に加工し、独房入口の覗き窓の鉄格子にひっかける。
紐の先端は頭が入る大きさだ。
・・・首吊り?
だが、その高さは通常の身長の者よりやや低めに作られているので、
ここにその「ひも」をひっかけても、
足を床につければ首が絞まる恐れはない。
だが、強い意志で足を地につけない事が出来れば、
自ら命を絶つ行為も理論的には可能である。
そしてピエリはそれを実行した。
勿論、死ぬつもりはさらさらない。
壁にカラダをぴったりとつけ、
両腕を扉にガンガン打ちつけて、
苦しそうなうめき声をあげる。
看守たちにしてみれば、
夜中に騒ぐ者など珍しくもないし、
仮病で脱獄を試みる者も過去には何人かいた。
故にそのような場合は、近くまで行き、
適当に怒鳴りつけたり、警棒で殴りつけたりして囚人を黙らせてきた。
ところが今回は、
扉に紐が吊るされ、囚人の頭らしき物が揺れているのも分かる。
実際、ピエリは臨場感を出すため、
足を床から何度かあげて、
ある程度本当に首を絞まらせていたので、
本物のうめき声をあげていたのだ。
ましてピエリがどんなに弱っていたかも看守は承知していた。
彼は完全に油断したまま、
あわててピエリの独房を開いたのである。
その場に看守は二人いた。
ピエリは、半分本気で口から泡を吐き、
顔色も紫色に変色しかけていた。
半分は拷問のダメージのせいなのだが、
うまくそれを利用したと言える。
一人の看守が他の仲間に報告をしようとその場を離れたのを見計らい、
自分の介抱をしようとしていた看守の目を・・・
彼は、
太ももに隠し持っていたビュランで潰して見せたのだ!
「ぎゃああああっ!!」
やっちまった!
もう後には引けない。
ただの職人見習いであるピエリは、
目の前でもがき苦しむ看守を、
ほんの一瞬、うろたえつつ見下ろしたが、
次の考えを起こすのに時間はかからなかった・・・。
こいつが反撃する前に・・・、
仲間を呼ぶ前に・・・!
すぐに片手で看守の首を抑える・・・!
当然、看守はその手を放そうとするが、
彼も右手は自分の傷ついた眼球を抑えたまま・・・。
そして、もう片方の手でビュランを握りしめたままのピエリは・・・
彼は・・・ピエリは息を飲み、
看守の後頭部にそれを・・・!
仲間の悲鳴を聞き逃す筈もない。
報告に行こうとしたもう一人の看守は、
すぐに一端、引き返そうとした。
「何があった!?」
悲鳴が仲間のものかどうか、
実を言うと判別できてはいない。
勿論、その可能性を考慮しつつ、
警戒しながら戻れば大丈夫だろう、
そんな考えで戻ったのである。
報告に行くにしても正確に現状を把握してから・・・、
そんな判断を選択してしまったのだ。
廊下を戻ると、
なんとピエリが倒れている。
仲間の看守の姿は・・・?
首を左右に振ると、
独房の開いた扉の向こうに・・・
仲間が、あ?
ボガッァ!!
全力の容赦ないピエリの一撃!
先の看守のカラダから警棒を抜き取り、
今の今まで腹の下に隠していたのだ。
冷たい床にのたうち回る看守に、
憐みの目を向けることももうない・・・。
一人も二人も一緒だ・・・。
目的はただ一つ・・・。
妹を・・・フラアを・・・!
そしてピエリは二つ目の罪を犯す・・・。
一方、フラアは背中の痛みも麻痺してきたのか、
眠ると言うか、意識もおぼろげになっていた。
ただ、頭の中に、外からの雑音が入りこんでいる・・・。
何かあったのかな・・・。
次の瞬間、
彼女の危機本能は意識を覚醒させ、扉の外に注意を向けさせた。
騒がしい・・・!?
何人もの人の声や廊下を走る音、
何かの金属にぶつかるような音・・・、
幾つもの音が重なって聞こえてくる・・・。
それにこれは・・・
この匂いは!?
焦げ臭い・・・! 火事!?
フラアの独房の前を、
何人かの人間が足早に去っていくのがわかる。
だが、覗き窓は小さいし、
廊下も薄暗いから、誰が通ったかなんてわかりゃしない。
彼女は部屋の真ん中で、
息を潜め、静かに外の様子に神経を集中させていた。
しかし、
かすかな音を立てて近づいてきたその足音は、
覗き窓から小さな・・・コソコソ怯えたような口調で、
部屋の中でじっとしていたフラアに話しかけてきたのである。
「ここに・・・いる のか、
フラア・・・!」
その声は・・・!
「お兄ちゃん!?」
「シーッ! 大きい声を出すな・・・。
いま扉を開ける・・・」
どうやってここへ!?
まさか脱獄を!?
期待と不安・・・いや、フラアにとっては不安の方が大きい。
この騒ぎを起こしたのはピエリなのか?
だったらもし審問吏に見つかったらどんな報復を!?
扉の鍵はあっという間に開いてしまった。
勿論、手先が器用なピエリならではの素早さだが、
どうやら看守から鍵の束を奪ってきたようだ。
ついにやっちまいました・・・。