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フラア・ネフティス 編3 天使の謎

 

本来、

天使は地上の出来事には干渉してはならない、

と言われているそうだ。

それが地上で国を興し、

あまつさえ、もう一人の天使アスラと戦争を始めるなどとは、

その天使としての契約を完全に無視した行為とも言える。

当時、いかなる密約が交わされたのか・・・、

それとも何らかの陰謀のようなものがあったのか、

人間にそれを知る術もなければ、抗議する手段すらない。


創り上げられた歴史や神話には、

矛盾などいくらでも出てくるものだが・・・、

やはり「天使」だ「神」だなどと言った話は、

後代に着色された夢物語なのだろうか?


力なき、か弱き娘には、

そんな想像や心の中で訴えを上げる事しかできない。

その意味で、まだ彼女は、

幼く、そして追い詰められているとまでは言えない状況だったのかもしれない。

ここにいるのは、

あくまでも普通の年若き少女にしか過ぎないのだから・・・。

 

 

だが、

既に一度その理性のタガを外してしまっ者・・・

取り返しのつかない後悔を心に抱える兄・・・ピエリ。

既にカラダはボロボロだが、

心は一つの決意をたぎらせていた。

彼の震える手は、

自らの太ももに伸びていた・・・。

そこは先日のリンチで、地面にふっ飛ばされた際に裂傷を作り、

包帯でぐるぐる巻きになっていた。

今朝・・・、

法王庁の人間に連行されるギリギリの直前、

仕事の彫り込みで使う、10センチほどの長さのビュランを隠し入れていた。

自分が助かることなんて考えちゃいない。

家族を・・・

たった一人の可愛い妹を裏切る行為をしでかしてしまった贖罪・・・。

 フラアだけでも助けねば・・・。

先ほど聞こえたフラアの悲鳴は、

兄の身を気遣うものであったが、

自分のことなどどうでもいい。

ピエリに聞こえたのは、

子供のころも何度か聞いた、「妹の助けを求める」声だったのだ。


この王都ラシに越してくる以前の記憶なのだろうか?

ピエリの幼少の記憶に、

まだ若き父親の言いつけが今でも時々思い起こされる。

いや、今は鮮明にそれを思い出していた。

  

 ピエリ!

 お前はもうお兄ちゃんなのだから、

 どんなことがあっても妹のフラアを守るんだよ・・・!


その時、自分がどんな反応を見せたかなんて事までは、

流石に覚えちゃいない。

だが、新しい街でフラアがいじめられた時、

ケンカに負けようが泣かされようが、

全力でフラアの為に拳をあげた。

自分の後を、

とことこ黒い髪を垂らして笑いながらくっついてくる妹フラア・・・。

成長してもあの笑顔だけは変わらない。

事もあろうにそれを奪ってしまったのは、誰でもない自分・・・。

なら・・・オレがすべきことは・・・。


人はちょっとした思い込みや衝動で、

多くの悲劇や取り返しのつかない事態を招いてしまう。

これまでに散々見てきたことだ・・・。

 

だが、

例えば前章で取り上げたアルヒズリのランディのように・・・、

冷静に、合理的に考えすぎたために、

一生癒えない心の傷を自分に与える例もある。

安全や保身に走るあまり、何もできなくなり、

全てが手遅れになってしまうことも・・・。


客観的に見た場合、今ピエリの考えてる事は、

無茶・・・無謀以外の何物でもない。

しかし時として、強すぎる「心」・・・

一つの思い込みによって突き動かされた行動の結果、

未来が切り開かれていくのだとしたら・・・。


天使が「理解」することのできない恐ろしい武器・・・

天使シリスが・・・

人間の世界に混じることによって、

家族や・・・友人・・・愛する者を得て・・・、

初めて味わったあの絶大なパワーを秘めたエネルギー・・・。

それが今、この哀れな兄妹の上に訪れ、

運命の歯車はまたも廻り出すのである・・・。


 

さて一方、

先ほど、この審問所を訪れていたディジタリアスは、

自らの居室に戻り、カラダを休めていた。

 ゴホッゴホッ・・・!

今も薬を手放せず、

長時間の運動にカラダが耐えられない。

子供のころは二十歳まで生きられるかどうかすら心配されていた。

日常生活だけならそんなに不便はないが、

やはり、主治医も傍に控えていなければならない生活を送らざるを得ないのだ。

先ほどから行動を共にしていた老人は、

王統府から派遣されていた付き人だが、

もう長いことディジタリアスの面倒を見ていて、

今も、この場でディジタリアスの具合を心配している。

 「ディジタリアス様、無茶はなりませんぞ。

 それにあのような汚らわしい場所に王族の者が立ち入るなど・・・。」

 「ゴホッ、

 ・・・はは、どうせ私は日陰者さ、

 何をしでかしても誰の気にも留めまい・・・それより。」

 「はい、何か?」

 「宮廷の宝などに詳しいのは、

 やはり宝物殿の係りの者か?」

 「はて? まぁ・・・そうでしょうな、

 目録的なものなら、各省庁のそれぞれにあるでしょうが、

 ディジタリアス様の言われるのは、

 デザインとか謂れとかそのようなことで?」

 

 「うむ・・・先ほどの少女が持っていたと言う髪飾り・・・。

 何か気にかかる・・・。

 というよりどこかで見たような気がする・・・。

 どうしても思い出せないので、

 宝物殿の重鎮の者なら何か分かると思うのだが・・・。」

 「それでは呼びにやりましょうか?

 しかしこんな時間ですから、明日にした方が・・・。」

 「うむ、それでは済まないが、

 朝にでも用があることを伝えてくれないだろうか?」

 「わかりました、

 しかし、明日はアジジ先生の診察も控えております。

 まずはそちらを優先させていただきますよ?」

 「・・・うむ、わかっているとも・・・。」

宮廷内で不当に低い評価を与えられているディジタリアス・・・。

既に、賢人の域にいると言っても過言ではない彼の知識、洞察力を知る者など宮廷にはいない。

それでもやはり、

彼も不完全な人間なのである。

あの時、もっとよく宝石のデザインに目を凝らせていれば・・・、

もっと早く、

あの哀れな家族を救うことができたのかもしれない・・・。

 




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