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フラア・ネフティス 編3 家族

 

初日のフラアの取り調べが終わった・・・。

背中が熱を持ってビリビリするし、

手足を縛られていた部分も痛い・・・。

暴れすぎて、長時間興奮状態であったためか、手足が棒のようだ・・・。

吐き気もする・・・。

これでもマシな事はフラアには十分わかるが、安心などしていられない。

明日から本格的な拷問を受けるのかと思うと、生きた心地すらしないし、

そして・・・お父さんやお母さんは・・・。


一時的に審問室を出されたフラアは、

鉄格子の入った囚人室に入れられる。

そこにたどり着くまで、

何メートルかの廊下を通るわけだが、

不意に、眼前の別の扉から、

自分と同じように捉われていた拘禁者が連行される場面に出くわした。

 

・・・あれは・・・

まさか !?


 「お兄ちゃん!?」

ピエリ?

・・・いや、顔が・・・ああああ、

まさか・・・でもあの体格はピエリに違いない。

酷過ぎる・・・!

ただでさえ怪我が治っていなかったのに、

さらに顔面を殴打され瞼が腫れあがり、

片目などは眼球が隠れてしまっている・・・。

既に一人で歩くのもつらそうだ・・・!

だらしなく垂れ下った腕は鉛色に変色し、

ようやく血が止まった状態のいくつもの傷口が・・・。


 「お兄ちゃん! 大丈夫!?」

拘束されてるのはフラアも一緒だ。

カラダの自由を抑えられ、

首だけ兄に向けるも、ピエリは妹の声に反応するだけでやっとの状態だった。

 「・・・フ・・・フラ・・・ア?」

 

ついにフラアの瞳から大粒の涙が・・・。

 「いやああ! 放して!!

 あたしのお兄ちゃんになんてことをするのよぉぉっ!?

 やめて!! けがわらしい!!

 ねぇっ! お兄ちゃん!?」


どんなに暴れようとも、

二人の兄妹に自由など与えられはしない。

つい先頃まで・・・、

フラアは兄と目を合わせることも、

口をまともに訊く事も拒絶していたのだが、

こんな酷い状況に陥った今では、

「あんな」事など、もはやどうだっていい・・・。

そしてピエリにしても、

残った気力で思考できたのは・・・、

 「フラアが比較的元気な事への安堵感」 

いや、そしてそれ以上に、

 「自分のせいで、

 妹や家族を最悪の状況に陥らせてしまったこと」

その罪悪感だけがピエリの心を埋め尽くしていたのだ。


 「フラア・・・フらぁ あ・・済 まn・・・い」


オレのせいで・・・

 

 

もうそれ以上、

彼の口から何か発せられることなどない。

2人の兄妹は、

たった一瞬、再会した後、再び引き離され、

互いの独房へとそれぞれ閉じ込められる。

堅い床に突き飛ばされ、倒れるように崩れるフラア・・・。

さらに扉の鍵を閉められるとき、

うつむくフラアに向かって、

審問吏の侮蔑的な言葉が、頭上から浴びせられた。

 「フン・・・どうやら今の反応を見ると、

 兄妹で一線を越えてしまったのは事実のようだなぁ?

 全く、ケダモノみたいで醜く汚らしい兄妹だよ・・・!」


 何をバカな・・・!

 家族なら当たり前の反応じゃないっ!


もう、

そんな反論を叫ぶ気力もない・・・。

兄のピエリがあんな状況なら・・・

お父さんやお母さんはどれ程酷い目に遭っているのだろう・・・。

この後、私たちはどうなってしまうのだろう・・・。

もう、彼女の心は、

完全に絶望のみで埋め尽くされていた・・・。

それ以外の思考など・・・何も・・・。

 



空は煌々とした月の光で明るい。

上弦の月は傾き始めているが、

広場に出れば本ぐらいは読めそうなお空だ。

独房の窓からその月が見える・・・。


 月・・・

 ウィグルの開祖「月の天使シリス」・・・。

 あなたが本当に天使なのかどうかは知らないけれど・・・、

 何故、自分の子孫の国に、

 こんな恐ろしい慣習を植え付けたの!?

 無実の私たちを痛めつけて苦しめて・・・

 それが天使と呼ばれるあなたが作った国なのっ!?

 

 もし私たち家族を救ってくれるなら、

 この先、生涯あなたを敬い、

 その人生を教義に捧げてもいい・・・、

 でも私の家族を一人でも奪ったなら・・・、

 それこそ・・・

 魔女と呼ばれようが悪魔と罵られようが、絶対、あなたを・・・

 ウィグルを・・・

 私たちを迫害したあいつらを許さないっ・・・!

 町の人間も・・・法王庁も・・・そして王室さえも!!

 


 

 天使シリス・・・!

 私の心が届かない?

 あなたは今もなお、この空のどこかで生きているのっ!?

 答えなさいよっ!

 ねぇ!

 お願い・・・この声が届いたなら・・・

 シリス・・・お願い・・・!




400年も前の時代の歴史を記した「ウィグル王列伝」・・・。

それによれば初代国王シリスの死は確認されていない。

信じがたい事だが、

ウィグル王国二代目の、老いたカラドック王の前に最後にシリスが姿を現した時も、

そのシリスの容姿は、二十歳前後の青年の姿にしか見えなかったと言う。

シリスが完全にこの世界から消えた時、

彼に最後までつき従っていた者の話によれば、

その最後は煙のように消えてしまったとしか言えないそうだ。

(その話は正史には伝えられず、

 ウィグル王列伝の注釈において、一説として記されてはいる)


では、今もなお、シリスが生きて、

・・・例えば天空の彼方にでも還って行ったのであろうか?

 

 




お忘れないように。


メリーさん編で出てきた「少年」、

そして天使シリス編の主人公「斐山優一」、


彼らは人格こそ違いますが同一人物です。

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