フラア・ネフティス編3 王弟ディジタリアス
今回登場するのは、ツナヒロ編で、夜中に星空を見上げていたおっちゃんです(20代)。
「おい!お前ら審問をストップしろっ!」
その声は、審問室の扉の外から聞こえてきた。
途端に審問吏二人のカラダが固まり、
何事かと、フラアのカラダから離れた。
いぶかしがる彼らの前に、扉を開けて現れたのは、
法衣を着た教会関係者・・・いや、
審問吏も教会関係者には違いないのだが、
いわゆるこの法衣の男は事務方か・・・彼らの上級職にある者か・・・。
「審問室長、何か・・・?」
あまり前例のない審問室長とやらの態度に、
黒いフードの審問吏は怪訝な顔をする。
自分たちの楽しみを邪魔されたから機嫌が悪いのかもしれない。
法衣の中年男性は、裸同然のフラアの事など気にもせず、
やや興奮し気味に男たちに指示を与えた。
「今からここに、
王弟閣下ディジタリアス様がお見えになる、
『迂闊な』行為や言動は控えるのだぞ・・・!」
王弟閣下ディジタリアス!?
「はっ!? な、なんですと?
アイザス王の弟君であるディジタリアス様が?
な、何ゆえ、こんな場所へ!?」
「わしにも分からん、
普段、政にも参加できないあの方が、
こんな場所に来てどうしようと言うのか・・・!
お前たち、無礼なマネはするなよ?」
「し、審問室長、しばしお待ちを!
ディジタリアス様とて、
ここへの口出しなど出来はしないはずでは?」
「勿論だ!
ここの管轄は我ら法王庁にある。
だが、王族の立ち入りだけなら、我らも拒むこともできん・・・。
いいか?
体よく挨拶して、追いかえすだけでいいのだぞ!」
アイザス王の弟ディジタリアス・・・。
年齢20代半ばを過ぎた彼は、生まれつき体が弱く、
国民の前に姿を現すことなど滅多にない王族である。
アイザス王が即位した現在では、
王位継承権第一位にいるのは間違いないが、
その病弱さから来る陰気な態度・・・
結局それが社交性の欠如となり、
これまで大臣や官僚からは、かなり低い扱いを受けていた。
勿論、ただの平民であるフラアが、
これまでディジタリアスなどという王族の顔など、
見た事なんかあるわけもない。
カラダが弱いと言うことと、名前ぐらいしか聞いたことがないのだ。
それがこんな所でお目にかかれる?
いや、今は驚くよりも、
これをチャンスと出来はしないものだろうか?
この部屋にやってくるのであれば、
今自分が受けている非道な扱いから救ってくれる事も?
そんな事を考えてるうちに、
腕を抑えつけられていた革の拘束具が片方外され、
申し訳程度の不潔な衣服を与えられた。
上半身裸よりはましだろう、
それにあのアイザス陛下の弟なら、
さぞかし、美形の・・・
そこでフラアの思考はストップした。
廊下から2~3人の足音が聞こえてきたからだ。
フラアが衣服をつけると、
すぐにまた、手首を締め付け直され、
態勢は先ほどとほとんど同じくなった。
今、こちらに近づいてくる足音は、
間違いなく、そのディジタリアスとやらだろう。
ならば、口を封じられない内にアピールを・・・。
「助けて下さい! 私は無実です!
ここの審問吏に非道な振舞いを受けています!
彼らは・・・ング!」
そこで猿ぐつわを噛まされた。
この扱いまでは合法と言うことか、
だが望みは捨てはしない。
フラアは救いを求める目で部屋の扉を見やる。
ついに足音は扉の前で聞こえなくなった。
ゆっくりとドアノブは回され、
その隙間から出てきた黒い影は・・・部屋の明かりに照らされ、
静かに姿をあらわにした・・・。
その瞬間、フラアは衝撃を受ける。
現れたのは、
どう見ても30代半ばは過ぎているだろう、小柄で不健康そうな体格の、
目の下にクマが浮き上がった病人のような男が先頭にいたからだ。
じゃあ後ろの?
いや、後ろの一人はホントに老人・・・
王統府の付き人のようだ、
更にもう一人背後にいるが、こちらは審問所の案内人だ。
部屋が狭いので、後ろの二人は部屋の外で待機している。
では先頭の人相の悪い男が王弟閣下ディジタリアス!?
ハンサムでにこやかな顔を絶やさないアイザスとは程遠い雰囲気だ・・・!
先に部屋に入っていた審問室長は恭しく頭を下げる。
「これはディジタリアス様、
このような不浄の地へようこそ・・・と言いたいのですが、
正直戸惑っております。
いかなる理由で王族のあなた様が、
このヤズス会マグナルナ派の施設に、
こんな非公式の形でおいでいただいたのか・・・?」
素人目にも、
それは王位継承権第一位の者へ取る態度でないのはわかる・・・。
それだけ法王庁の権力が増大し、
さらに王権への尊重が薄れていると言うことなのだろう。
これらを見れば、
神聖ウィグル王国の内部がいかに腐り始めているのかよくわかる。
それにしても・・・
そんなことはフラアにとってどうでもいいことだが、
本当にこの人がアイザス王の弟なのだろうか?
むしろさっきから自分を弄ぶ、
こいつら審問吏の親玉だと言っても不自然ではないぐらい人相が悪い。
だが、救いの綱はここにしかないはずだ。
フラアはやけになってバタバタ暴れて自分をアピールした。
何とか意志を伝える手段はないものか・・・。
いや、あったとしても、この審問室長の態度では、
ディジタリアスが何を言っても聞く耳を持たないのかもしれないが・・・。
当のディジタリアスは、
フラアを舐めるように観察した後、
部屋の隅々や、散らかされてる拷問器具を、
汚いモノでも見るかのように眺めていた・・・。
陰気なおっさんは、
フラアを助けてくれるのでしょうか?