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フラア・ネフティス編3 悪夢の夜 

 

ピエリが家に帰ってきたのは、

時計の針が12時を回ったころだった・・・。

いつもピエリが飲みに行く時でも、

大体12時前には帰宅している。

父母は「遊びたい盛り」のピエリが、

ここのところの憂鬱な事態に、ハメを外しているのだろうと、

とっとと寝室に入っていた。

フラアにしても、

この時間には自室でベッドに潜り込んでいるはずだが、

何故か、今夜に限って眠れない・・・。

変な胸騒ぎがする・・・。

なかなか寝付けない時は、些細な音でも気になるものだ。


風が強くなっている。

昼間はそれ程じゃなかったのに。

雨戸が微かに揺れている・・・。

雨でも降るのだろうか?

兄のピエリもまだ帰ってこない。

酒には弱いピエリだが、酔いつぶれることなど滅多にない。

万一そんなことになっても、

デボアさん達と一緒なら送ってきてもらえると思うのだが・・・。

 

 

 ゴロゴロ・・・!


 あ・・・雷?

 こんな夜更けに?

 雨でも降るのかしら?

 お兄ちゃん、降られる前に帰って来れればいいのだけど・・・。


そんな時、家のハナレの方からガタガタ音が聞こえ始めた。

 雷の音じゃない・・・

 お兄ちゃんが帰ってきたんだ、

 まったく、こんな時間まで・・・。


どうせ酔っぱらっているんだろう、

フラアは「どーせ眠れないし」と思い、

兄の部屋まで水でも持っていってやろうと考えた。

まぁ、その前にすぐに眠っちゃうかも・・・。

 


 

 「お兄ちゃん? 今頃帰り?

 いくらここのところ、ヒマだからと言って、お寝坊は・・・

 うわっ、

 真っ暗じゃない?

 明かりぐらい・・・。」


工房の先のピエリの寝室は真っ暗だ。

鍵は普段も掛っていないので、中に入るのは問題ない。

ピエリの部屋は、窓の閂が外れており、

時折、煌めく稲光が、

部屋の中を瞬間的にではあるが明るくしていた・・・。

ピエリは既に布団の中に潜り込んでいるようだ。


 うっわ! 酒くさっ!!

 まぁいつもの事だけど・・・。


どうやらピエリはボコボコにされた後、

どこかで飲みつぶれていたようだ。

馴染みの飲み屋には顔を出せないので、

面識のあまりない酒屋で、

瓶ごと買って、一人で飲んでいたのだろう・・・、

顔中、傷だらけ痣だらけ鼻血べっとりで、よく普通に買えたものだ。

 


 

そしてもちろん、

フラアはこれまでの経緯も知るわけもない。

窓からの光で、ナイトテーブルを見つけたフラアは、

そこに水差しを置きながら、まだ寝入っていない筈の兄にもう一度声をかけた。

 「お兄ちゃん、ここにお水置いとくよ?

 全く、お酒弱いのに、そこまで飲みつぶれることもないでしょ?」


兄は布団の中で寝がえりを打つ・・・。

 「・・・うるせーなぁ・・・、

 お袋みてぇな事を言うんじゃねーよ・・・!」


いつもなら言い返すところだが、

兄の声が変だ・・・、

お酒のせいでもなさそうだし、

声が潰れるほど、歌でも歌ってきたのだろうか?


無造作にかけられてる毛布を直してやろうと、

フラアが一度、毛布の裾を掴んでかけ直した時、

・・・ちょうど、窓からの光がピエリの顔を照らしていた・・・。

 「きゃ!?

 な、なに、お兄ちゃん、その顔は!?」

 「・・・うるせーつってんだろっ!!」

 

 

再び寝室は暗くなったが、

もう事実を隠す事もごまかす事もできない。

ほんの一瞬しか見えなかったとはいえ、

ピエリの顔面が変形するぐらい腫れあがっていたことだけは、

フラアにもはっきりとわかった。

 「なに? お兄ちゃん、まさかケンカでもしてきたの!?

 ちょっと待ってて!

 薬箱とってくる!!」


その間、ピエリは貪るように水を飲んでいた・・・。

酩酊状態に近いものがあり、判断力・思考能力は低下しているかもしれない。

これからの事など何も考えたくなかった・・・。

いずれ、向き合わなければならない現実の事など、せめて今だけは・・・。


そしてフラアが戻ってきた。

まずは部屋のランプの種火をつけてから、手当の準備を始めるようだ。

外は、雷と相まって、

粒の大きい雨音も聞こえ始めている。

彼女の慌てている姿を、ピエリは静かに眺めていた。

相変わらず、フラアは口を閉じることなく、

心配しているのだか、お小言だか区別できない言葉をさえずり続けている。

 


 

ピエリはフラアの言葉を全て流していた。

一々、彼女の言葉に真っ正直に答えていれば、

今夜のいざこざの原因を明かしてしまいそうだったから・・・。

だが、ピエリが何も喋らず、

ほとんど瞬き以外の動きを見せなくても、

フラアは一心不乱に兄の怪我の手当てを続けていた。


フラアの柔らかい指先がピエリの頬に添えられ、

傷の消毒を行う・・・。

フラアの細い腕がピエリのカラダを通り越し、

怪我した右腕の包帯を巻いていく・・・。

その間、ピエリの顔の上を、

フラアの膨らんでいる胸元が揺れている・・・。


その内に・・・ピエリの心に、

これまで湧き上がったことのない圧倒的で・・・

しかも抗する事のできない、強烈な衝動が首をもたげてきた・・・!

 


 

ピエリの思考は、

普段では決して思い浮かべないような短絡的な感情を暴走させる。


 何でオレは、こんな目に遭ってるんだ・・・!

 今も体のあちこちが悲鳴を上げている!

 誰のせいで!?

 ・・・フラア!?

 オレは真面目に生きているし、未熟とはいえ仕事にも精を出している!

 なのにこいつは働きもせずに、女友達と遊び呆けて・・・

 その結果、「魔女」なんてレッテルを貼られちまったのに・・・。

 なんでお前はそんな他人事のようなツラしてるんだ!!


一般的に、ウィグルの青少年の教育は15歳までだ。

その上から働き始めるのがほとんどとはいえ、

基本的にその年から働きだすのは男子の話。

女性は花嫁修業で家事手伝いが主な慣習である。

勿論、ネフティス家の場合、

フラアを店頭で接客させても不自然はない。

単純に父親が、

優先順位で先にピエリを一人前にしてからと、思っていただけである。

 

 

ピエリもそれでいいと思っていた・・・、

今この時までは・・・。


自分だけが不当な目に遭っているという不公平感・・・、

それは怒りに転化してゆく。


 思い知らせてやるべきだ・・・!


そして・・・

この地域の男子にしては珍しくないのだが・・・

彼はこれまで女性体験というものがない。

普通に淡い恋愛経験ぐらいは持っているが、

直接肌を触れ合う行為など・・・。

これは負け惜しみと思われるかもしれないが、

普段から男子ナンバーワンの人気を誇る妹に見慣れていると、

そうそう、仲良くしたいと思えるだけの女性には中々お目にかかれない。


そこまで光っている妹・フラアの存在を改めて見るに、

多くの男が虜となるのも頷ける気がした・・・。

そしていま、

妹は無防備な姿を自分に晒している・・・。

手を伸ばせば、

 「それ」 が手に入る・・・!

 


・・・。

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