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フラア・ネフティス編3 兆し


数日後、最初の兆候が現れる。


このアクセサリーショップに馴染みの客がやってきた。

相手は商家のアブリーさん。

父親は作業をストップして満面の笑顔で応対する。

ピエリは後ろの方で、控えめな愛想笑いを浮かべて頭を下げた。


 「いらっしゃいませ、アブリーさん、

 ご注文された奥様へのブレスレットは、

 予定通り月曜までに仕上がりますよ、

 自信をもってお勧めできる一品になりそうです。」


今回、既製品ではなく、このアブリーという男から、

オーダーメイドでの注文があったのだ。

製造の過程ではピエリも熱心に従事していた。

こういうお客は、

職人にとって自らの腕を高めることにもなる嬉しい客なのだ。

 

 

だが、

常に物腰低く礼儀正しいこのアブリーは、

今日はいつになく、真面目腐った顔で言葉数も少ないようだ。

勿論、父親はその違和感を感じ取る。

 「アブリー様、な、何か・・・?」

 「うむ、悪いがね、

 今回の注文はキャンセルさせてもらうよ。」


えっ、ここまで作りこんでるのに!?

 「はっ!? アブリー様、

 こ、これは奥様への誕生日プレゼントではなかったですか!?

 それとも私どもに何か!?」


だがアブリーには取りつく島もない。

 「本当にすまない、こちらの都合だ。

 家内の事は君に心配してもらう必要はない。

 また、いつか頼むことがあるかもしれないから、その時はお願いするよ、

 それでは失礼する。」


後ろからピエリが血相変えて飛び出してきた。

 

 

 「待って下さい、せめて理由を!

 それにキャンセル料が・・・」

 「黙れ、ピエリ!」


店側に原因がなければ、

キャンセル料を請求できるケースだ。

それは商人であるアブリーもよく分かっている筈。

だが、昔堅気の職人である父親はそれを良しとはしない。

それにこれまで上客だったアブリーに、

そんな真似を取れる訳もない。

ここは次回の注文を受け易くするためにも、

快くキャンセルに応ずるべきなのだ。

父親とピエリは黙って頭を下げ、静かにアブリーを見送った。


 「大丈夫だ、ピエリ、

 我々に問題はない、

 きっとアブリー様に何かあったのだ。

 それを他人に知られたくないのだよ・・・。」


実際、

注文された品が途中でキャンセルに遭うのは、

稀なケースではあるが、時に起こりうるケースだ。

父親は深刻に受け止めることもなく、

いずれ自分の跡を継ぐであろうピエリに、

こういうことも勉強の一環だと、

前向きに考えることにしていた。

 

 

だが・・・今後、

次第に「何かがおかしい」という感覚が、

ピエリのみならず、

父親にもはっきりと受け止めざるを得ない状況へと変化していくことになる。


 「・・・最近、売上が悪いなぁ・・・。」

それだけではない。

めっきり客足も鈍っている。

明るい母親は父親とピエリを元気づける。

 「何言ってるの、

 みんな王様の戴冠式の時にお金使い果たしちゃったのよ、

 もう少ししたら元に戻るわよ。」

 「ううん、でもなぁ、

 店に足を入れる客自体、減ってるんだけどなぁ・・・。」


しかも、店の前の人通りに変化はないような気はする。

周りの商店も特に寂れている気配もない・・・。

 

 

フラアは相変わらず、

呑気に女友達と遊びに出掛けたりして、

あまり、気にも留めてないようだったが、

こういう空気の時は、

気楽に父親たちを元気づかせようと健気に振舞う。

 「じゃあさ、

 友達の子たちに、宣伝してこようか?

 みんなお金ないけど、サクラにはなるでしょ!

 それにお姉さんや、家にお嫁さんがいる家だったら、

 安物でも買ってくれるかもしれないし!」


明るい笑顔を浮かべるフラアが言うと、

変にその気にさせられる。

何より、無邪気なフラアの態度が嬉しい。

父親は顔をくしゃっと曲げて、

娘に負けない笑い顔を作ろうとする。

 「ははっ、ありがとうよ、フラア、

 だが、心配はいらないさ、

 なぁに、結婚式の一つでもありゃ、

 みんなワシの作るアクセサリーが必要になって、客足も増えるさ!」

 

兄のピエリも負けてはいない。

 「・・・てことはよ、

 フラアには呼び込みより、どっか結婚しそうなカップル見つけてきてもらう方がいいんじゃねーか?

 それとも、彼女を作りたがってる野郎どもにプレゼント名目でおびき寄せるか・・・!」

 「あー!

 それはお兄ちゃんがやってよ!

 デボアさんとか、ケィデンスさんとか意中の子いないの!?」


元々、前向き思考の明るい家族で構成された家だ。

すぐに笑い声を取り戻す。

 「いや、・・・あいつら、

 それを勧めたら、間違いなくフラア、

 お前にプレゼントを渡そうとするぞ・・・!

 それって・・・何か違くないか・・・?

 フラア、お前は家のアクセサリーつけるだけなんだぞ、それだと。」

 「えへへー、それでもいいよー♪

 それで私は可愛いアクセつけて、

 街中、歩きまわればいいんでしょー?

 らくしょう、らくしょー!!」


・・・だが、容赦のない現実は、

どんな明るい笑顔を持っていようと防ぎ切れるものではない。

そしてそれは収入問題だけに留まらず、

生活に関わる対人関係においても・・・。

 


よくない空気になってきました。

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