フラア・ネフティス編3 仲良く帰宅
フラアは真面目な顔して兄の指摘を真に受けた。
「あっ、そっかー、
じゃあお兄ちゃん、つけてみる?」
そう言いながら、フラアは兄の背後に立ち、
されるがままのピエリの頭に羽飾りをデコレートしてやった。
・・・少なくとも、
酔っぱらって顔が真っ赤のピエリには似合わない・・・。
ギャァハッハッハッハッハーっ!!
一同、大爆笑だ。
さて、
怪我の功名という表現が正しいかどうかわからないが、
ピエリはまだこの場で友人たちと騒ぎたいと思っていた。
しかしながらかわいい妹を、
群がる男どものいいようにさせるわけにもいかないので、
今のタイミングを契機と考え、不機嫌そうに席を立つことにした。
「・・・ホ、ホラホラ、おめーらぁ、笑ってるんじゃねーよぉ、
だーからっ、それ以上、妹に触れるなって!!
おーい、フラア、もう行くぞー?」
兄のピエリが伸ばした手を、フラアは恥しそうに掴む。
「えへへ・・・。」
「えへへ、じゃねーってよぉ、もう・・・、
えーっと、飲み代はいくら置いとけばいい?
とりあえず・・・こんだけありゃいーか、
デボア、足りなかったら明日また言ってくれよ、
お前ら、そんじゃな~?」
「ピエリよ、
金はいいから、フラアちゃん置いてけ~!」
「フラアちゃん、またね~、
今度一緒にデートしようね~?」
誰もピエリの事など眼中になく、
もう片ほうの手を振って店を去る笑顔のフラアに見とれていた・・・、
ピエリの友人たちも、周りの席の大人たちも・・・。
そして彼女は、
兄のピエリに手を引かれて、この酒場を後にした。
ちょうど、太陽が西の山々の裾に隠れきったようだ・・・、
辺りは薄暗くなり始める。
ピエリは後ろの妹の顔を覗き込んだ。
ああ、
・・・確かにこいつ、かわいくなったなぁ・・・。
勿論、フラアは兄の不思議な表情に気づく。
「な、何、お兄ちゃん?」
「ん? ああ、いや、
パレード、どうだった?」
「うん!、王様、すごいカッコ良かったよぉ、
ビシッと決まってて、
シャンパンゴールドのスーツにおっきな宝石を散りばめて・・・!
でもね・・・。」
「うん? でもどうした?」
「まーた、コーデリアと喧嘩しちゃった・・・、
あいつ、自分が人気ないからってあたしにあたるのよ?」
コーデリアと仲が悪いのは、いつもフラアからグチを聞かされてるので、ピエリも知っている。
「ははっ、まぁ、適当にあしらっとけ、
そういうヤツはいずれ、みんな離れていくよ。」
「だよねー、
もう、女の子の集団ってそーゆーのが多いわよ、
デボアさん達とか、男の人たちと一緒にいた方が楽しいかも?」
いいや、それは兄が許さない!
「ま・・・待て待て、フラア、
そっちはそっちで危険だ・・・!
男の品定めはオレがしてやるから、
言いよって来る男に気を許すんじゃねーぞ!!」
そう言って顔を前方に戻したピエリを、
フラアはしばらく無言で見詰めていたが、
「うん!」と大きな声を出して、
握っていた兄の手を一度、ほどき、
頼もしい彼の腕に自分の腕をからめた・・・。
そして二人は家路を急ぐ、
お兄ちゃん、酒臭いけど・・・。
実を言うと、
この日は別に何が起きたという話はこれ以上ない。
家には、やはり酔っぱらいやすい体質の、
くたびれた感じの父と、
太っているとまでも言わないほどの、
小柄で肉付きのいい母がいる。
コーデリアがフラアに罵詈雑言浴びせたように、
この家庭は、昔からラシに住んでいたわけではない。
フラアの足が立つか立たないかのうちに、
東の田舎町から越してきたのだ。
父親の職業は、
装身具やアクセサリーを作っては店頭で売る職人だ。
下町に根付いたことからも窺えるように、
そんなに高価な物を扱うわけでもない。
ただ職人のレベルとしては、まぁまぁ確かなもので、
中産階級のよりアッパーゾーンの女性たちも、
たまに「何か掘り出し物はないかしら?」と覗きに来ることぐらいはある。
頼まれれば指輪の装飾を施したり、
持ち込みの宝石にふさわしい台座を作ることもある。
宝石や、高価な石を直接売買することなどないので、
わずかな原材料費に技術料を上乗せで、
薄利多売で何とか食っていけるのだ。
平和です・・・。