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フラア・ネフティス編2 新たなる旅立ち


その時ザジルは、

ツナヒロが不安そうな視線を送っていることに気づいた。

だがそれに対し、

ザジルは一瞬、笑みを浮かべたように見える・・・。

 「ツナヒロ、そう怯えるな、

 所詮こいつは雑魚だ・・・。

 オレを倒すことなどできん・・・。

 コイツにできるのは、

 オレ達に追いつくことで精いっぱいだ。

 ま・・・ただの時間稼ぎに送られた捨て石だな。」


予想できたが、馬車の幌の上は大暴れだ。

 「ザジルゥ!! テメェふざけんなぁ!!

 その減らず口を永遠に塞いでやるっ!!」

言うが早いか、

再びオルトスはザジルに襲いかかった!

その攻防でどんなやり取りがあったのか、

もう、ツナヒロに認識できるレベルではない。

オルトスは再び木々の上に移り、

ザジルは攻撃を行ったと思われる態勢から、

身動きひとつ変えられずに固まっている・・・。

 これは・・・まさか・・・?

 


 

 「ザジルゥ!! 斬ってやったぜぇ!!

 まずはてめぇの肉からだぁ!!

 次は骨まで切り裂いてやるぅ!! 

 そして・・・その後は切り落としてやるぜ・・・、

 腕がいいか、足がいいかぁ!?」


あっという間に、ザジルの体二か所から血が噴き出した!

やはり攻撃されていたのだ!

オルトスの言うとおり、ザジルの攻撃が効かないのなら、

どう見たってこれは不利だろう!?


しかし、

未だザジルの表情は余裕のままである・・・。

 「オルトス、それで・・・お前はどうなんだ?」

 「はぁ!?

 てめぇはオレのカラダを撫でまわしただけだろう!?

 くすぐってぇんだよぉ!!

 全く、『お館様』に授かった力を、

 バカなことに使いやがって、

 この恩知らずがぁ!!

 てめぇはオレがゆっくりと裁いてやるからなぁ!!」

 


 

だが、ザジルはそれを聞いて、

嘲るような笑みを浮かべるだけだ。

 「ザジル!! 何笑ってやがるぅ!!」

 「いやなに、

 ・・・お前の方は二つ間違っているようだな・・・、

 まず一つ、

 オレの力は、生まれながらに身についてるものだ。

 まぁ、あの館でいろいろ試させてもらったのは確かだがな、

 お前らが『お館様』と呼ぶあの男や、

 組織に教わったものではない。

 それともう一つ・・・、

 『撫でまわしただけ』?

 そう、お前が感じたのなら、それは認識を間違えている・・・。

 自分のカラダを良く確かめるんだな・・・。」

 「な・・・なんだとぅ!?」


その時、ツナヒロは見た!

ぼろ切れに包まれているはずの男のカラダのあちこちで、

そのぼろ切れが赤く滲み始めたのだ!!

オルトスもその異変を察知したらしい、

慌てて自分のカラダに起き始めた現象にうろたえ始めた。

 

ザジルはそれを見て、

優しく・・・あまりにも丁寧に解説を始める・・・。

 「俺の右手の指は、

 まず、お前の左の胸元からみぞおちを過ぎ、右のわき腹に・・・、

 それは背中の肝臓の辺りまで到達している・・・。

 自分で感じたろう?

 そしてオレの左腕の指は、

 お前の右太ももから下腹部を通り越し、右肩まで触れた・・・。

 ・・・その『感触』は残っているだろう?

 オルトス・・・、お前は・・・

 いや、あの屋敷にいる連中は全て、

 オレの力を勘違いしている。

 オレの指は素肌に触れなければ使えない力じゃない!

 このオレに『斬られた』・・・!

 その認識さえあれば、

 どんな防具をつけてても、その上から切り裂くことができるのだ!」


オルトスのカラダは・・・いやその眼球すら不規則に震え始め、

今やカラダをガクガクと震わし、

身に纏うぼろ切れは、既に大量の出血で真っ赤に染め上がっている!

もう・・・意識を保っている事すら怪しいのではないだろうか・・・!?

 


 

そしてついにオルトスはその体勢を崩し、

当然の如く、

そのカラダは木の上から土の上へと、大きな音を立てて墜落した。

 ・・・その音・・・

まるでぬかるみの上で飛び跳ねたような「ビチャアッ!」っとした音・・・。

ぼろ切れの隙間から夥しい量の血が溢れている・・・。

人間のカラダにはここまで多くの血が流れているのか・・・。


 「・・・ザ・・・、ザジル、てめぇ・・・、

 オレに・・・こんなマネ・・・、

 九鬼にたてついて・・・!」

いまだオルトスはしゃべれるようだ、

しかし、これは間違いなく虫の息と言うやつだ。

そんな言葉に動ずることもなく、

ザジルはゆっくりと、

地面に這いつくばってるオルトスに近づく・・・。

 「破局前の『四人の使徒』も、

 最初はたった数人で世界的な組織に立ち向かったんだそうだぞ、

 何もそう大そうなことじゃない、

 それより・・・おまえこそ覚悟はいいか・・・?

 今まで敵味方かかわらず、大勢の人間を殺してきたんだ、

 ついに今度は自分の番になった・・・

 因果応報というやつだ。」

 


 

 「ふっ! ふざけんな・・・!

 てめぇこそ同じ穴の狢じゃねぇかっ!

 ハァ、ハァ・・・!

 いいか!

 お前がどんなにあがいても、お前は薄汚い殺し屋のままだっ・・・!

 殺し屋は殺し屋!

 カラダを売る女どもは薄汚れた便所のままっ!

 み、・・・身の程をわきまえやがれぇっ・・・!」


 「それが遺言だな・・・、

 あばよ、オルトス・・・。」

 「ち、ちくしょう! ちくしょうっ!!

 うっううああああ・・・」


こちらからは見えないが、

ザジルの目は、

この時、完全にあの冷たい氷のような目をしていたことだろう。

そして、彼の指はよどみなく、

まっすぐにオルトスの腰にあてがわれ、

そのまま背中、首筋へと一気に・・・!

瞬間、オルトスのカラダは海老のように反り返り、

完全に硬直したかと思うと、

しばらくピクピク痙攣し、眼球を見開いたまま、

それはゆっくりと地面に伏してしまった・・・。

 

 

ザジルはしばらく、オルトスの遺体を見つめている・・・。

その死を確認しているのか、

それとも、何か思う事があったのか・・・、

ツナヒロにはわからない・・・。

だが、ツナヒロに脳裏には、

オルトスの最後の言葉がこびりついていた・・・。

「カラダを売る女ども」・・・ユェリン・・・。

 



 「ザジル・・・!」

思わず、ツナヒロは声をかけた。

ザジルはゆっくり踵をかえす・・・。

 「終わったぞ、ツナヒロ、先を急ごう・・・。」

 「あ、ああ、殺したのか・・・?」

 「気にするな、

 オレ達は生きるか死ぬかしか教えられていない・・・。

 任務に失敗して、さらに深手を負った者など、

 あの屋敷に帰っても、

 他の若手の殺し屋のかませ犬にされるだけだ。

 それこそ、そんな事ぐらいしか役に立たないからな・・・。」

 

むごい・・・

いや、ザジルはそんな世界だからこそ、

この国を抜けようとしてるのか・・・。

だが、 今はそれより・・・。

 「なぁ、ザジル・・・、

 ユェリンは任務に失敗したら・・・。」


彼はゆっくり御者台に乗り込むと、

落ち着きはらいながら・・・、

いや、多少、馬の扱いに慎重に・・・おびえながら?

少しずつ、丁寧に馬車を発進させた・・・。

そこで初めて、ツナヒロに答える余裕ができたらしい。

 「・・・向こうはオレ達とは違う管轄だしな、

 彼女たちは性を売るのがまず第一だろうから、

 顔や肌を傷つけられたのでなければ、

 殺されはしまい・・・とは思う。

 まぁそれなりの罰か、仕置きぐらいはあるかもしれないが・・・。」

 「そうか・・・ユェリン・・・。」

ザジルは一度後ろを振り向く・・・。

 「ツナヒロ、お前、あの女の事は本気だったのか?」

  

 「・・・う、それは・・・」


 実際あの時、

 オレはたった一人ぼっちで心がくじけそうだった・・・。

 いつ、心がぶっ壊れてもおかしくなかった。

 そんな時に彼女が現れて・・・。

 だが、例え一時の心の迷いがきっかけだったとしても、

 あの、2人で過ごした時間は・・・。


ツナヒロは自分の心の迷いにケリをつけたようだ。

 「ああ、本気だとも!

 ザジル・・・、

 もし、オレ達がそのイズヌとやらに受け入れられて、

 戦争が有利になって、

 九鬼を倒すことができたら、ユェリンを解放できるかな?」

 「ツナヒロ・・・、

 お前の気持ちはわかった。

 だが、あまり甘い期待はするなよ・・・。

 彼女の身分はそれほどまでに低いんだ。

 オレも九鬼を倒すのが目的ではあるが・・・、

 そんな簡単に事が運ぶかどうか・・・、

 その時までに彼女が無事かどうか・・・。」

 


さらにザジルは言葉を繋ぐ。

 「そして何よりも・・・、

 お前がユェリンに対し慕情を持ち続けているのなら、

 それは九鬼の作戦が、

 まだ効力を持っているということだぞ?

 彼女は人質として使えるんだ・・・。

 このことは・・・誰にも言わない方がいい。

 イズヌにスパイが入り込んでる可能性は山ほどある。

 オレとて、顔の知らない奴らはたくさんいるんだからな・・・。」

 「そ・・・そうか。

 そうだな・・・、

 だがよ、今度のことって、お前にとっては新しい世界に踏み出した、めでたい一歩なんだろう!?

 ・・・オレはもう、

 マナ板の上のコイと言うか、『好きにしろ』状態だが・・・。

 ならよ!

 もっと明るい顔しろよ!

 そんな暗い表情なら、

 どこいったって、お前は、あの男が言ってた通り、

 薄汚い殺し屋のままだぞ!

 それでいいのか!?」

 


もう、

とうにザジルは前方に注意を向けていたのだが、

ツナヒロにそう言われて、

ザジルはそのまましばらく考え込んでいた。

やがて、

ツナヒロの言葉に納得できたのか、

もう一度だけ、背中のツナヒロに語りかける。

 「なるほど、お前の言う通りだ、

 ならツナヒロ、

 ・・・オレに明るい顔というのを教えてくれ・・・。」


ぶっ!


 なんだ、こいつ?

 そんなもんもできねーのか!?

というか、

今まで生き死にの行為の連続で心を休める暇すらなかったが、

ツナヒロも、ようやくこの男の事を冷静に観察することができてきた。


 コイツ、

 実はただの「天然」じゃねーのか?

 


 

そう思うと、ツナヒロは、

自分に新しいおもちゃでもできたように感じ始めた。

あの指技は恐ろしいが、

うまくコイツと付き合えば、

退屈な日々を送ることもなさそうだ。


もっとも・・・まずはそのイヅヌ国とやらに受け入れられればの話だが・・・。

 まずはこの国を出て、東方教会へ・・・!

 やることは決まっている!

 新しい目標もできた!

 もうこの男、ザジルも信用できるか否かじゃあない。

 オレがその気になれば・・・、

 この男だけでなく、この世界全ての色を塗り替えれるのかもしれないんだ!


元々ポジティブな思考を持っているツナヒロは、

ようやく本当の自分を取り戻したようだ。

果たしてこの先、彼にどんな運命が待ち構えているのか?

安穏とした生活などは、

もう二度と得られないかもしれない。

これまで以上の、

過酷な世界が広がっているのかもしれない。

 


だが、もうそんなことを怯えることもない。

自分がこの世界に飛ばされたには、何か理由があるはず。

手を伸ばせば、その扉は開かれるだろう。

それを夢見ることのなんと愉快なことか。

そんな彼だからこそ、

ツナヒロは宇宙飛行士への道を選んだのだから・・・。


そして彼は叫ぶ。

 「いいか、ザジル!!

 明るい顔をつくる一番のコツは『ワクワク』することだ!

 何がこの先、待ちうけてるか知らねーが、

 自分の目の前に広がる新しい景色、

 それをありのまま受け入れるだけでいいのさ!

 それが楽しい人生ってヤツだよ!

 ザジル! 覚えとけっ!!」


ザジルにしても、

自分の決意がどんな結果を生み出すか、

完全に賭けでしかなかった。

その選択肢の中には、

ツナヒロを殺すことも本気で考えていたのである。

無益な殺生はしたくないが、

やむを得ない状況なら、他人を殺すことにためらいもない。

 


 

だが良かった。

ツナヒロを殺すこともなく、

今、二人で新天地への旅を始めた。

ツナヒロが見抜いたように、

彼は人付き合いや世間を知らない純粋培養の殺し屋なのだ。

それが、今後、

いかなる人物と出会い、

どのように変わっていくのか・・・。

それこそ、

呪われた技と環境に生まれ育ったザジルが、真に望む姿なのだから・・・。


そして二人は一路、イヅヌへ!


この後、彼らがどんな道を切り開くのか、

今はまだ誰にもわからない。

だが、これまで彼らがたどってきた運命の細い糸は、

やがて、だんだんと寄り集まり、

大勢の人間たちとその運命を共に繋ぐことになる。

そしてそれらが寄り集まることにより、

そこに何が導かれるのか・・・、

それは『彼ら』・・・


地上に舞い降りた天使・・・

そして大地に蘇えった天使・・・、

その二人だけが知っている・・・。



   第三部「フラア・ネフティス プロローグ」 ザジルとツナヒロ編終了

 


ツナヒロとザジルの活躍はここまでです。

そして明日の更新から、いよいよ主人公フラアの物語となります。


・・・その前におまけと、恒例人物紹介を。

こちらは他の媒体には載ってませんからね?

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