フラア・ネフティス編2 追手
いよいよ戦闘のお時間です。
馬車は市街地を抜け、
申し訳程度の舗装がしてある荒れ地が近づいてきた。
日も昇り、空も明るくなっている。
こんな日に雨なんて降らないよな?
時折、道の脇に行き先表示が見受けられる。
次の村まではそんなに遠くなさそうだ。
出来ればそこで、地図のようなものでも入手できればいいが・・・。
試しに聞いてみたが、
ザジルはやはり地理には詳しくないらしい。
何食わぬ顔でケロッとしているが、
落ち着いてみると、
どう考えてもザジルの計画は最初から無理がありすぎる。
ツナヒロの持っている旧世界の科学力をあてにするにしても、
それらで何ができるか把握してからの行動ではない。
こんな奴と一緒に動いて大丈夫なのか・・・。
ツナヒロには当然の疑念だが、
今までの事を思い起こしてみて、背中が少し寒くなった・・・。
ここまで来れたのは、偶然の結果・・・。
だが、
偶然ってのはどこからどこまでだ・・・?
あの宴席の帰り道に、怪しげな建物に興味を持ったこと?
それか、イズヌ出身のボードリール司祭に出会ったことか?
はたまた宇宙船フォーチュナーが九鬼帝国近海に不時着したこと?
それとも・・・
オレ達の船が時空を超えてやってきたことか・・・!?
それら全て、偶然と片づけていい話なのだろうか?
風が強い・・・。
雑木林が激しく揺れ始めている。
民家がまばらなのは相変わらずだが、
その分、林が増えてきて視界を妨げ始めている。
追われている方からすれば、
それだけ敵にも発見されにくいという事でもあるので、
悪い材料ではないはずだが・・・。
しかし、ザジルは異変を感じとったようだ・・・。
あからさまに周りを警戒しはじめている。
「どうした、ザジル?」
「様子がおかしい・・、
風の音に混じって何か別の物体の音が聞こえる・・・。」
「何だって!? それはっ・・・」
「伏せろ、ツナヒロっ!!」
半ば強引にザジルに引っ張られたツナヒロだが、
確かに背中の辺りで何らかの物体が通り過ぎたような気配を感じた。
慌てて首だけ起こすと、
視界の端に何か、異様な物体が木々の間に消えて行った。
「な・・・なんだ、いまの!?」
「・・・追手だな・・・。」
「お? 追手っ!?
人でも馬でもないのか!?
何だよ、今のっ!?」
ザジルはすぐには答えず、
その間、何とか馬を抑えて、
馬車はゆっくりとスピードを緩めた・・・。
車輪の音が緩やかに・・・
しかし逆に目立って大きく聞こえ始める・・・。
「そう、慌てるな、ただの人だよ・・・。
ただ、少々物騒なものを持ってるからな、
オレが相手する。
ツナヒロは昨夜のバーナーでも何でもいい。
馬車の中で、何か身を守れるものでも持っていろ・・・。」
「ひっ、人っ!? 空飛んでなかったかっ!?」
「いいから、自分の身だけ守れ。」
ザジルは立ち上がった。
またもや両の指先を一本ずつ曲げ始めた・・・!
小指、薬指、中指、人差し指・・・そして今度は逆に戻して全ての指を反りかえさせる。
静かに、
腕はゆったりと垂らし、
いかなる方向から敵が襲ってきても即座に対応するつもりなのだろう、
彼はその目と耳・・・
そして気配を感じることにのみ、自分の神経を集中させ始める。
瞬間!
ザジルのカラダが弾けるように反応した!
ツナヒロが気づいた時には、
馬車の幌の上に何かが飛び乗っている。
ザジルはそのまま振り返りながら、
幌の上を見上げている・・・。
追手とやらは、
今、この馬車の上に存在しているのだ!!
「キーィッヒッヒッヒッヒ! ザジル!!
お前、気でも狂ったのかぁ!?」
ツナヒロには馬車の上は見えないが、
いつの間にか、前方のザジルの左肩が切り裂かれている。
攻撃されたのか!?
だが、ザジルは痛がるそぶりも動揺も見せず、
幌の上の男に向かって話しかけていた。
「オルトス・・・お前が追ってきたのか、
確かに、馬車のスピードとこの距離で追いつけるのは貴様だけだろうが・・・。」
「キェッヘッヘッヘ、ザァジルゥ!
お前はぶっ殺していいってよぉ!
前からてめぇは気にいらなかったんだぁ!
この機会に切り刻んでやるぜぇっ!!」
「フー、ツナヒロ、聞こえたか・・・、
あの館にはこんなのばっかりだったんだ・・・。
もっとも、自分が生き延びるために、
他人を殺すことを義務付けられた者たち・・・、
心性がねじ曲がらない方がどうかしているのかもしれないが・・・。」
ツナヒロには、
ザジルの声も当然、聞こえているが、
ここは自分が会話に参加すべきではない、と判断する。
今、この場で行われるのは、
間違いなく殺し合い・・・!
なら、自分はおとなしく見守るだけ・・・。
一方、姿は見えないが、
オルトスと言う名の追手は、ますます興奮しているようだ。
「そぉのっ!
お高くとまった態度が気にいらねぇってんだよぉ!!
いいか! お前にオレは殺せねぇ!
お前の武器ぐらい知ってるぜ!
お前の手刀が斬れるのは人間だけっ!
・・・そりゃあ、武器持ち込み禁止の会場に潜り込むには便利だろーがなぁ!
実際の戦いじゃ何の役にも立たないぜぇ!!」
幌の天辺から大きな音がした!
途端に前方のザジルが派手なアクションを起こす!
・・・もう幌の上にはオルトスはいない・・・。
ツナヒロが次に前方を見ると、
左の木々の間に、
一人の・・・全身にボロボロの布切れを巻きつけた異様な風体の男が、
一本の木の枝にしがみついている。
ぼろ切れのせいで、
その顔すら見る事は出来ない。
そして異様なのはそれだけではない。
その両の手から先には、
鋭い小刀のようなものが括りつけられていたのだ!
「なんだ、ありゃぁ!?」
またもや、男は幌の上に飛び移った。
この位置はお互い、間合いの外なのだろう。
今の衝突では互いにダメージを与えるには至らなかったようだが、
確かにこの状況ではザジルが不利なのではないだろうか?
ザジルは幌の上に向かって話しかける。
「なるほど・・・、
オレの指に触れられるのを恐れて、その小汚い格好と言うわけか。」
「ヒャハッ! お前の指に触られなければ、
撫でられたぐらいにしか感じねーってもんよっ!
だがな! 間違いが一つあるぜっ!!
別にお前を恐れちゃなんかいねーよっ!
むしろ嬉しいのさっ!!
お前みたいな出来そこないをぐちゃぐちゃにできるのがなっ!!」
フラア・ネフティス編は、
主人公が普通の女の子だけに、あまり戦闘シーンがありません。
あ、それと、ツナヒロ&ザジルの話もそろそろ終わりが見えてきました。