フラア・ネフティス編2 逃避行
ツナヒロは、
「はなれ」で寝入ってた下女を起すと、
高圧的に彼女にユェリンの看病をするよう命令した。
もしかしたら、この下女も監視者かもしれないと疑いながらだが、
年齢もそれなりにいってるので、
まぁ、いきなり襲ってきたりはしまい。
現状認識さえできていないだろう。
そしてその後もグズグズしてはいられない。
馬車を操る御者をたたき起すと、
これも急いで出発の準備をさせる。
もう、ザジルもこの場にやって来ていたので、
彼がちょっと脅かしたら、御者はあっという間に素直になった。
さて、準備が終わるや否や、
すぐにツナヒロとザジルは馬車の中に乗り込み、この館から出発する。
「・・・それでザジル・・・
どうやって、ここから出て行くんだ?」
「いま、改築中の城門がある・・・。
警備はもちろんいるが、そいつらを除けば馬車はスムーズに通れるからな、
そこをまずは突破だ・・・。
衛兵は全てオレが片付ける。」
どっからそんな自信が湧いてくるんだ・・・?
確かに先ほどまでの動きを見れば、
信じられないぐらいの戦闘能力を持っているようだが・・・。
馬車はゆっくりと改築中の城門に近づいた。
真夜中とはいえ、
いや真夜中だからこそか、
当然、警戒中の守備兵は不審に思う。
「おい、止まれ!
なんだ、貴様?
こんな時間に馬車が通ることは聞いてないぞ!?」
しどろもどろに対応する御者の陰から飛び出すザジル!
彼の能力は、
相手に悲鳴すらあげさせずに命を狩ることが可能だ!
暗闇の中に、
そこを守っていた守備兵はバタバタ倒れこむ・・・。
だが、勿論守備兵など、
そこにいる者だけが全てではない。
すぐに異常を察した周辺の兵隊達は緊急配備につく!
「だ、大丈夫なのか、ザジル!?」
「・・・さぁ、どうだろうな・・・。」
「お、おい!」
「途中、いくつか橋があるからな、
そいつを落とせば後続を断てるんだが・・・。」
「お前の、あの技、橋も落とせるのか?」
「んっ?
無茶な事を言うな、できるわけないだろ?」
「じゃあ、あの技はどんなカラクリなんだ?」
「無事に逃げおおせたら教えてやるよ・・・。
そら、最初の橋だ。」
本来、宮城の周りの橋は、
敵が大勢で攻めてこれないように、細く作られている。
ちょうどこの馬車一台でやっとだろう。
それを見てツナヒロはあることに気づいた。
「そうだ! アレが使える!
宇宙船修理用に備え付けてあった高出力バーナー・・・!」
橋を渡り終え、馬車を止めさせる。
ツナヒロが用意したのは、
暗闇に激しく青い光を発する超高温のバーナーだ。
大木でできている橋のようだが、
橋を支えてる部分は大した大きさでもないので、切断はあっという間だ。
体勢がきつくなる所ではザジルに支えてもらう。
追いつこうとする騎馬の群れの音は、段々大きくなって聞こえて来るが、
それまでには片がつくだろう。
暗闇の中で初めて見る激しい青い光に、
ザジルも御者も一言も口を開けず、手で目を覆う事しかできない。
ツナヒロは手慣れた動作で、橋の土台を確実に焼き切っていった・・・。
橋はすぐに傾き始め、
崩れ落ちるとまではいかなくても、
片側の重みで、どんどんその高さが片端から離れ、
堀の下へと落ちて行く。
「よっし、いくぞー!!」
さすがにザジルも驚嘆せずにはいられない。
「・・・これが旧世界の武器か・・・。」
「武器じゃねーよ!
本来、金属でできた物を製造しやすくしたり、
修理したりするものだよ!
言っとくがオレは武器なんか持ってねーからな!!」
すぐさま彼らは馬車に乗り込み、
首万里城を後にすべく急いで車を走らせ始めた。
追いすがる騎馬隊は、
不安定な橋の片側にまで追いすがるが、
今度はその騎馬の重みでさらに下へと傾いていく。
馬だって跳べやしない。
「も・・・もどれ!
他の橋から追うのだぁ!!」
実際、首万里城の中では九鬼側の攻撃手段は薄い。
本当にやばいのは首万里城から出た後だ。
大きな城門を出た瞬間から、上からの弓矢の餌食となる。
「ひゃあああっ!!」
地上の兵はザジルが蹴散らすものの、
御者がその矢を浴びてしまった。
命を落としたかどうかまではわからないが、
馬車から振り下ろされてしまう。
「ツナヒロ! 馬を御せ!」
「あああああ? 無茶言うなぁ!
オレはそんなもんやったことねぇ!!」
「今は道なりに走らせろ!!
大きな道ならそのまま走ってくれるはずだ!!」
「でぇえええええええっ!!」
御者がいなくなるとはいきなりトラブルだ。
弓矢の射程距離外に出たら出たで、
今度は大勢の騎馬隊に追われることになる。
「ツナヒロ! 他に武器になるようなものは!?」
「だから武器はないって・・・あ!!
ガソリンがあるぞ!!」
「それはなんだ!?」
「百聞は一見にしかず!!
危険だからザジルは見てろ・・・!
・・・ってやっぱりお前が馬を見ててくれよ!」
「ツナヒロ・・・オレだって馬の扱いは知らないんだ・・・。」
「・・・てめぇ・・・っ。」
問答をしている暇はない。
ツナヒロはガソリンタンクを見つけると、
再び狭い道幅になるところに見計らって、
馬車の後ろからガソリンを垂れ流し始めた。
・・・それにこの後には・・・いいものがある。
照明弾だ!
こいつを真後ろにぶっぱなせば・・・!
「ザジル! 後ろを振り向くな!!」
ドッヒュルルルル・・・ン!
暗闇の中で、
乾いた音ともに光の筋が後方の騎馬隊に向かって伸びてゆく・・・!
・・・引火した!!
途端に激しい爆音と光とともに爆風が馬車にまで押し寄せる。
当然、二頭の馬たちも興奮して暴れはじめるが、
なんとか、ザジルが拙くも手綱を引いて、
辛うじて馬たちを抑える事に成功した・・・。
ようやくザジルも、
後ろを振り向く余裕ができて、その首を動かしたとき、
その彼の眼には、恐怖と驚愕がありありと浮かんでいる・・・。
無理もない、
後続の騎馬軍団が全滅しているのだ・・・。
運よく、爆発から逃れた者たちも馬に振り落とされ、
馬たちは馬たちで、
遥か彼方に逃走して行ってしまっている。
辺りは炎の海に包まれ、
とばっちりで周りの民家も炎上し始めているようだ・・・。
宮城ってルビ要らないかな?
どうもそのままだと
「みやぎ」って呼んじゃいそうで…。
逆に首万里はありそうで検索しても何もヒットしない。