表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
302/676

フラア・ネフティス編2 ユェリンとザジル

 

 「・・・。」


ユェリンは答えない・・・。

代わりにザジルと呼ばれた男だけが、

振り向きもせずにツナヒロに答えた。

 「別に大した仲じゃないさ、

 物心もつかない子供のころ、

 たまたま同じ時期にあの屋敷に連れてこられただけだ・・・。

 オレは暗殺部隊・・・、

 この女は・・・わかるだろ?」


暗がりでもユェリンの表情がみるみる歪んでいくのが判る。

この顔は・・・悔しさ・・・

それとも悲しみ・・・?

何も言えないツナヒロを他所に、

ザジルはさらに説明を続ける。

 「大したもんだな、

 すぐそこまで気配を消すことができ、

 あっという間に臨戦態勢で武器を手にして・・・。

 なかなか高い教育を受けたようだな、ユェリン・・・。」


 「やめて!!」

ついにユェリンは叫んだ。

 「どうして・・・

 どうしてそんな事をここで言うの!?

 ザジル・・・あなたが何の任務でここにいるのよ!!」

 

 

今度はザジルと呼ばれた男が黙ってしまう。

 どうするつもりだ?

 いや、ここまでこいつの言動からしたら、やはりユェリンを・・・!?


 「ツナヒロ様!?」

ここでユェリンは、

その疑問をツナヒロに向けた。

 「ツナヒロ様、ど、どういう事なのです?

 いったい、あなた方は何を・・・!?」


ツナヒロの心中には様々な思いが錯綜する。

 ・・・二人は知り合い?

 ならこのザジルと呼ばれた男も無理はしないだろうか?

 いや、それより、二人は「大した仲じゃない」といったが、それは本当か?

 違う、そんなことは後回しだ、

 うまくいけばこのままユェリンを馬車に・・・!


 「ユェリン! こんな国は出て行こう!

 ・・・このままここにいたら、オレ達はいつか引き離されちまう!

 一緒にここを出るんだ!

 そうすれば俺たちはずっと・・・」

 

 

その時、

長い髪のザジルは横目でツナヒロを見下ろした・・・。

 「バカめが・・・。」


男に隙ができた!

ユェリンが飛び出す!

 「しまったっ!!」

これまでクールに振舞っていたザジルが初めてうろたえる。

・・・そして、ユェリンの攻撃対象は・・・

 「ユェリンっ!?」


彼女の細い腕から伸びる尖った針が、

ツナヒロの太もものを突き刺す!

・・・いや、彼女の事を注視していたおかげで、

すんでにツナヒロは身をよじり、

針は太ももの皮膚をかすめ、ズボンを切り裂いただけだった。

 「な、・・・何をするんだっ!?」


 「どうして・・・! ツナヒロ様・・・、

 あれほど言ったのに!!

 なんでそんな恐ろしい事を考えるのですか!?」


ツナヒロはユェリンの両腕を抑え込んだはいいが、

彼女の行動を理解することもできない。

二人の揉み合いを他所に、

・・・まさしく他人事のようにザジルは見下ろしていた。

  

 「なるほど、足を狙うか・・・、

 ツナヒロが翻意を見せたら、

 歩けなくしてでもこの国にいさせよという命令だな・・・。」

 「なっ!?」


聞きたくもない言葉が、

ユェリンの頭の向こうから聞こえてくる。

一方、ユェリンの顔は、

これまでの彼女とは別人かと思うほどの乱れた表情だ。


 「ユェリン・・・オレを騙していたのか・・・。」


彼女は答えない・・・。

代わりに口を開くのはザジルだ。

 「何、今さら言ってるんだ、

 昨夜オレが言っただろう?

 全部、お膳立てされてるんだよ・・・。」


腕力ではユェリンはツナヒロに敵わないのは当たり前だ、

彼女はここで大声をあげる。

 「衛兵! 衛兵!!」


ツナヒロにとっては、もはやそんなことはどうでもいい。

 「ユェリン!

 オレに言った言葉は全部でたらめなんだな!?

 オレに向けた笑顔も・・・表情も・・・

 オレの腕の中で甘えて見せたのも、みんな・・・っ!!」

 


だが、

彼女は眼を潤ませながらツナヒロを睨みつける。

 「あ・・・あなたはバカですっ!

 大バカですっ!!

 なんで・・・どうして!

 あのままなら幸せでいられたのに!

 それに私の・・・

 ユェリンの気持ちも信じてくださらないなんてっ!!」

 「ユ・・・ユェリン・・・?」


ユェリンの両腕は、

ツナヒロに抑えられてブルブル震えるだけ。

一方、あんな言葉は吐いたが、

いまだツナヒロの本心は、彼女を疑うことができなかった。

ユェリンの泣きそうな表情を見せつけられて・・・




屋敷の階下からドタドタ複数の荒い足音が登って来る。

だがツナヒロにそんなことを気にする余裕はない。

 「ザ・・・ザジルと言ったか!?

 こ・・・この彼女の表情を見ても演技だって言うのか!?

 見ろ!! 

 ・・・使命があったのは本当のようだが、

 彼女は・・・オレを・・・。」


ザジルは長い髪を揺らしながら首を振る。

両の指先を一本ずつ滑らかに曲げながら、

すぐにでも戦闘に移れる態勢をとっているようだ。

 

 「だからな、

 ・・・彼女の気持ちとかはどうでもいいんだよ、

 九鬼にとっての最重要課題は、

 お前をこの国に留まらさせて利用すること・・・。

 お前が彼女にぞっこんになれば、

 いろんな手が打てるんだ。

 婚姻をエサにする事もできれば、

 逆に彼女を人質に捉えて、お前をこき使う事もできる。

 それこそ、彼女を拘束して足の一本を切り落としでもしたら、

 お前はどうする?

 ユェリンを見捨てるかい? 

 それとも、彼女を救うために破壊兵器でも創り上げるか?」


階上に上ってきていた衛兵は、

丁度ザジルが口を開いている間に、

この場で何が起こっているのか判断に戸惑っているようだった。

そこへユェリンは首を曲げて指示を出す。

 「その男は裏切り者です!

 ツナヒロ様を国外へ逃亡させようとしています!!

 排除してください!!」


 「ユェリン・・・。」

その言葉に彼女は再び大きい瞳をツナヒロに向けた。

興奮しているためか、

唇は開かれ、奇麗に並んだ小さな歯と柔らかい舌先が見える・・・。

 


すいません、別に怪しい仲ではありませんでした。


そして次回、ついにザジルの指が・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRoid版メリーさん幻夢バージョン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ