第5話
『もしもしぃ? ヒ~ウ~ラ~?
それでどうしたのぉ?』
夜更けに沁みるマーゴの声。
彼女は声だけでも魅力的だ、
気を抜くと、さしもの義純でもメロメロになりかねない。
騎士団は元々カトリック系の厳格な流れを汲んでいる。
こんな女性が騎士団内を大手をふって歩いているのはある意味犯罪だ。
「む~、遅くなってすまない。
結論から言うと県議会議員の時と同じ、
生存者はいるが目撃者はいない。
恐らく目撃したものは全てバッサリ。
ただ殺されたのが誰なのかは、
僕が警察に聞かれた段階では判別つかないとの事。
ま、幹部で消息が判明してる人はいないそうだから、
被害者は・・・容易に想像できるけどね。」
『えぇ? ヒウラは大丈夫なのぉ!?
あなたは一瞬でも姿を見てるんでしょお!?』
「やめてくれよ、脅すのは。
(それから甘ったるい声もやめて!)」
『だって、いくら貴方が戦闘のプロでも、
相手が人間でなければ勝手が違うわ、
危険よ。』
「待ってくれよ、
まだその『メリー』がやったと決まったわけでも、
相手が人形と決まったわけでもないだろう?」
『・・・んーそれはそうだけど~、
心配は心配だしぃ~。』
「いずれにせよ、
明日また警察に行かなきゃなんない。
勿論、騎士団や依頼内容は伏せとくけど、
恐らくその猟奇殺人のファイルはまた一件、
情報が追加されるかもな。」
『・・・最近、多いわ。』
マーゴの駄々っ子のような喋り方はまだ続く。
「・・・多いって、
猟奇殺人や大量虐殺のことかい・・・?」
『ええ、そう、
元々私が昼間の電話で(日本は夜)"メリー"の話を思い出せたのも、
私がしばらく異状殺人のことをかかりっきりで調べていたからよ。』
それは義純にとって初耳だ。
「・・・そうだったのか?
それは世界規模で・・・?」
『ええ、犯人が見つからない、
手口が異常、
殺害手段が不明・・・。
そういうのを中心にね。』
「おいおい、それも怖いなぁ、
日本にもそんなグローバルな殺人があるのかい?」
『あるわよぉ、
代表的なのは、妻子ある働き盛りの男性が殺される事件・・・。
共通するのは家族構成のみ、
殺害方法は、
体中の血液を抜かれていたり、
頭部を存在し得ないはずの歯型を持つ生き物に噛み砕かれていたり、
体中の骨を折られていたり・・・。』
なんだ、そりゃ!
思わず義純の背中に冷たいものが走る。
「うぇっ、そんな事件あるのかい?
全く知らなかった。」
『まぁ、ニュースでは残虐な手口については伏せるでしょうからね、
ちなみにこれらは、
件数そのものは少ないけど、かなり昔から報告されているわ。』
「騎士団の監視対象になっている・・・?」
『ううん、まだ、そこまでは。
ただ私は注目している。
そのうちヒウラに調査頼むかも?』
「あんまり関わりたくないな・・・、
それに今はこちらがメインだしな・・・。」
『そうね、
何度もいうようだけど、身の周りには気をつけてねっ?
・・・あ、やだ、
私、大事な事言うの忘れてた!
県議会議員の事件の時だけどね、
現場に居合わせたルポライターの住所と名前、調べておいたわ、
東京西部だから、あなたの事務所から遠くはないと思う・・・。
メールで送っとくわね。』
「お、さすがは『ウェールズの・・・』、
いや、何でもない!
とにかく仕事が速いね。
ありがとう。
今度会ったらランチをおごろう!」
『え~ランチぃ~!?
グレード落ちる~ぅ・・・でもいいわ、
嬉しいッ ありがとう!』
まぁ、それぐらいなら彼女の毒にはあてられまい。
しかし、確かに仕事のパートナーとしては有能だ。
彼女の力量は騎士団の誰もが認めている。
勿論、専門分野は限られているが、
「魔女」と呼ばれるだけあって、
特に薬物・化学・心理学・に関しては、
騎士団内で多大な功績をあげている。
最高責任者の娘という肩書きだけで通用するほど、騎士団はぬるい存在ではない。
「それじゃあ、マーゴ、
こっちはもう真夜中だから失礼させてもらうよ、
今後ともよろしくね。」
『ええ、ヒウラ、おやすみ!
会えるのを楽しみにしてるわッ
じゃね~っ!!』
もう義純は眠くてしょうがなかった・・・。
受話器を置くと、
ソファに倒れるようにして眠り込む。
後はもう明日だ・・・。
・・・さて、
ここまで、
騎士団極東支部支部長、日浦義純の行動を皆様にお見せしてきた。
しかし、皆様には申し訳ないが、
彼の物語はここで終了する。
いつかまた彼に会う事があるかもしれない・・・。
これより先のページは、
翌日の物語ではあるが、
『彼女』の、記憶を辿るという形で、
このカルト教会壊滅の経緯を供述しよう・・・。
今回、短いですが、キリが悪いので二話に分けます。