フラア・ネフティス編2 九鬼帝国の真実
ぶっくまありがとんです!!
そして20000PV到達しました!!
殺し合い・・・。
まだ年端もいかぬ子供たちが、
互いに武器を持ちながら、
自分たちでケンカ・・・いや、下手をしたら殺し合いをしているのだ!
床は彼らの血や体液でどんどん汚れていく・・・。
むごい。
倒れた子供は、
その汚い床でビクビク体を痙攣させていた・・・。
その内、カラダが動かなくなると、
周りの無表情な子供たちが、無造作に担架に運び去ってしまう。
そしてその後は、控えの子供たち・・・
彼らもまるで幼稚園児か小学生ぐらいの年齢か、
その子供たちがモップや雑巾で辺りを清掃していく。
それが終わるとまた戦いだ!
思わずツナヒロは振り返る!
「こ・・・ここは何だ!?」
狼狽えるツナヒロとは対照的に、男の眼は冷たいまま・・・。
「施設だよ。」
「だから何の・・・何のための施設だ!!」
「・・・戦争で身寄りのなくなった孤児・・・
親に捨てられた子供、
犯罪を犯しながら生きながらえてきた子供たちが、
ここに集められ、育てられる・・・。」
「育てられる?
殺されてるじゃないか!
しかも子供同士で!?」
「普段は訓練がメインだ、
今日はたまたま実戦の日でな・・・。
もちろん訓練でも大勢、怪我したり死んだりする。」
「なんで、そんなことを!?
普通の兵隊の訓練よりも過酷だろう、これは!!」
「そうだろうな、
この施設で育った者は、兵士よりも重要な役目を負うのだからな・・・。」
「兵士より重要? 何だそりゃあ!?」
「わからないか?
・・・暗殺だよ・・・。」
ツナヒロは動くことを・・・
いや、下手をすると呼吸すら忘れるほどの衝撃を受けた・・・。
「あ・・・暗殺?」
「勿論、それだけじゃない。
隠密活動や各種破壊工作、
目的のためならどんな汚いことでもやる。
敵国イヅヌに潜入して内部崩壊を企んだり、
或いは、
国内の不穏分子や、帝に否定的な意見を述べる重臣を毒殺したり・・・とかね。」
ツナヒロの耳には、
床下から聞こえてくる子供たちの怒号や悲鳴、
時には泣き声の多重奏に、
頭の中がグラグラまわり始めてゆく・・・。
ショックを隠せないツナヒロに、
男はさらなる追い打ちをかける。
「お前がなぜ、こんな国で破格の待遇を受けていられるか、
その意味を考えた事があるのか?
お前はこれから人殺しの道具を作らされるんだ・・・。
この下の奴らや軍隊が、
敵国の兵士や人民を一気に殺せるような奴をな。」
ツナヒロの目の前が真っ暗になった・・・。
予想できなかったわけではない。
ただ、考えないようにしていたのだ。
連日の楽しい宴会、
そしてユェリンとの甘美な一時・・・。
目の前の快楽に溺れすぎた結果、
自分の悩みや不吉な事を、
無意識のうちに遠ざけるようになってしまっていたのだ。
・・・落ち着いて考えれば当たり前だ。
科学文明が消失したこの世界にとって、
自分の知識がどれだけの影響力を持っているのか、
それは竹槍で殺し合いをしている時代に、
自分は、核爆弾をひっさげて現れたほどの破壊的な存在なのだ。
・・・どれぐらい固まっていたのだろう、
男は背後からツナヒロの肩に手を置いた・・・。
「もういいか?」
「・・・え、あ?」
「これがこの館の秘密だ。
他にも、いろいろ恐ろしい部署がいくつもあるが・・・、
今、お前が知るべきなのはここだけで十分だろう、
わかったら、帰るがいい・・・。」
「あ、ああ・・・。」
男はそのままツナヒロの前を歩いた。
もと来た道を慎重に窺いながら、
暗がりの外壁の上までゆっくり進む。
登ってきた場所まで来ると、
男はツナヒロを外の地面にまで下ろすのを手伝う。
跳び下りたのでは、音や動きが目立ちすぎるからだ。
ツナヒロはここまで自動的に体を動かしていたが、
最後にこの男に聞かなければならないことがあった・・・。
「なぁ・・・。」
男は塀の上でツナヒロを見下ろしながら答えた。
「なんだ?」
「なぜ・・・オレに見せた・・・。」
男はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開く。
「お前の反応を見たかった。」
「反応?」
「ショックを受けたか?」
「も・・・もちろんだ!」
「それで・・・どうするんだ?
この国の現状を知って・・・これから。」
今度はツナヒロが喋れない。
一度、塀の上の男の視線をかわし、うつむきながら自問する。
「・・・こんな恐ろしい事はやめさせる・・・?
バカな、オレの言うことなんか聞くわけない!
・・・じゃあ? お・・・おれは・・・」
「結論を言う・・・!」
塀の上から、
男はしびれを切らしたのか、ツナヒロの思考を中断させた。
どっちにしたって回答は出せそうもない・・・。
「ツナヒロ・・・、お前はこの国を去れ。」
「ど・・・どうやっ・・・い、いや、簡単に言うなよ!!
オレはこの世界に誰も身内がいないんだぞ!?
たった一人で何ができる!?」
「いいか、ツナヒロ、
お前が見た光景は、この国の正体のほんの一部なんだ。
子供が簡単に死んでショックを受けたのか?
勘違いするなよ、
あんなものを止めさせたところで、
この国の体制は変わらない。
ここでは人間の命など、子鳥の羽より軽いんだ・・・。」
そうだ、忘れていた・・・。
ドナルドを刺した兵士も、
何の裁判も行った様子もなく処刑した・・・。
あれはオレの歓心を買うために、
その場の判断だけで行われただけに違いない。
あの時、気づくこともできたのに・・・、
この国の姿を・・・!
「そ・・・それは理解した。
だからといってオレには・・・!?」
「ならばお前に必要なのはその意志だ。
・・・別に、お前がそんな物はどうでもよくて、
このまま、この国で贅沢な暮らしがしたいなら、
それも一つの選択だろう。
無理強いはしない。
・・・その方がいいか?」
「くっ・・・。」
ツナヒロは声を搾り出した・・・。
男の冷たい視線は終始、変わらない。
それこそ強い意志をたたえた光が、ツナヒロをにらみ続けている。
「か・・・考えさせてくれ・・・。」
「一晩だけ時間をやる。」
「な!? たった一晩!?」
「俺の方もグズグズできないんでな、
この国を出るなら、
脱出経路や行くあてはオレが何とかする。
お前は荷物だけまとめておけ。」
「そ・・・そんな。」
だがこれ以上、
誰が通りかかるかも分からない路地裏で、話を長引かせるわけにもいかない。
何をすべきかははっきりとしている。
しかし、これまでさんざん、九鬼の人間に世話になって、
いきなりここを逃げ去るわけにも・・・。
ツナヒロの心の中はその葛藤で揺れた・・・。
・・・そうだよ、
いま、オレが見た惨劇は、
この国の中枢と関係があると決まったわけじゃ・・・。
まるで、今見聞きした話も幻だとでも思いたがるまでに・・・。
そして、ツナヒロの迷いはそれだけではない。
・・・ユェリンを・・・。
ここから逃げ出すとして、
彼女も連れていけるのだろうか!?
もしできないなら・・・やはり、このまま・・・。
夢遊病者のようにフラフラ歩き始めたツナヒロに、
背後から長い髪の男は最後に声をかけた。
「ああ、一つ言い忘れた。
お前が囲っているという踊り子な、
・・・そいつも、
この施設で性技をたっぷりと仕込まれた諜報員の一人だ。
お前をコントロールする為に九鬼が送り込んだ監視員だよ・・・。」
ツナヒロの動きが完全に止まった・・・。
明るい所なら、
その青ざめた顔色が完全にはっきりとわかるだろう。
彼はゆっくり・・・
その言葉を受け入れる事を拒否するかのように、
ゆっくりと振り返った・・・。
う そ だ ぁ っ !!