フラア・ネフティス編2 軍事演習
事態はどんどん、きな臭い方向へ。
「ツナヒロ様、おはようございます。」
「ああ、三条様、おはようございます、
今日はいい天気ですね。」
「そうですな、こんな日は表に出られるのが良いでしょうな、
それで・・・、そうそう、
天気が良いから・・・というわけではないのですが、
兵士たちの演習をご覧になりませんか?
帝も同席されますが。」
「演習ですか?」
「はい、この首万里城の城門前の大広場で、
定期的に訓練しているのですよ。」
あまりそう言った血生臭いものにはタッチしたくないのが本音だが・・・、
何日か前のユェリンの言葉も思い出していた・・・。
いろいろ知っておいた方がいいのだろう。
それに確かに、この狭い部屋にこもりっ放しも退屈だ。
三条に連れられて久しぶりに城門方面を歩く。
そこへ着くまでには少し距離があったが、
城門前まで至らずとも、
大勢の軍隊の行進の響きは、首万里城全体を響かせ始めていた・・・。
「・・・すげぇ・・・!」
大体、演習の内容など予想はついていたが、
驚いたのは万の単位を超えるであろう、その軍隊の圧倒的な迫力である。
指揮官の号令のもと、
一糸乱れぬ隊列が、陣形を生き物のように変化させていく。
そりゃあ、自分の知っている400年前の地上最強のアメリカ軍と比べるのは愚かなことだが、
実際、こんな軍勢を前にしたら、
どんな男も縮み上がってしまうことだろう。
「どうですかなぁ、ツナヒロ殿ぉ!?」
「あっ、これは陛下、失礼しました、
・・・しかしすごい勢いですね・・・。
これが九鬼帝国の主要戦力なのですね・・・。」
「はっはっはぁ!
イヅヌのバカ者共めぇ、来るなら来てみろぉ!!」
「ははっ・・・。」
「・・・と言いたいのですがな・・・。」
「えっ?」
どうも、九鬼実彦の機嫌は良いというわけでもなさそうだ。
眼下の軍隊を見ながら渋い顔をしている。
「これだけの戦力があっても、戦況はよくないのですよ。」
「ええと、相手国はイヅヌ・・・という国ですよね?
強力な軍隊がいるのですか?」
実彦は遠くを見つめる。
「・・・相性の問題かもしれませんがねぇ、
我が軍は市街戦や集団戦では無敵ですよ。
しかし、イヅヌとの戦闘の主戦場は草原や岩場です。
何しろイヅヌは、大陸一の機動力と騎馬軍団を備えてます。
さらに言うと、
あちらには軍神と言われるカリスマ的な百戦錬磨の将軍もいるのです。
・・・被害は甚大なのですよ・・・。」
「戦争の原因はなんなのですか?」
「まぁ、領土問題と言ってしまえばそれまでですが、
もう100年以上にわたって、散発的に争いを繰り返してきましたからな。
今さら、原因などはどうでもよいのです。」
「じゃあ・・・ずうっと、争いを・・・。」
「我が軍は戦闘では不利ですが、
城壁を守ったり、
食糧や人的に余裕がありますから、
まだ一進一退で済んでおります。
ですが、飢饉が起きたり洪水でもあったりしたら、戦況は一変します。
それに・・・泣きを見るのは何の罪もない住民だ・・・。」
珍しく実彦は、厳しい表情を見せている。
やはりこういう時は一国を預かる王の顔なのだろう。
すると、
三条がいつもの小難しい顔のまま近づいてきた。
「ツナヒロ様、何か我々を助けていただくことはできんもんでしょうか?」
目を丸くするツナヒロ。
「は、はっ? 待ってください、
私は軍隊経験ありませんよ!?
こんな立派な軍の役になんか立ちませんよ!?」
「いえ、例えば戦術面とか、
この時代では忘れ去られた武器のヒントとか、
そう言ったものだけでも大きく役に立つと思うのです。
どうか・・・我らを・・・この九鬼を助けていただけないでしょうか!?」
困って辺りを見回すと、
九鬼実彦はおろか周りの高官も、
ツナヒロに哀願するような真剣な表情をしている。
そりゃ、さんざんっぱら、
世話になってるのだから協力はしたいけど・・・。
「ちょっと! あの、本当に・・・、
わかりましたぁっ!
でも、自分に何ができるかホントにわからないんです!
時間をくれませんかっ?
何とか考えてみますからっ!」
実彦は目を潤ませながら寄ってきた。
「おお! ツナヒロ殿! なにとぞ!
なにとぞこの国を助けて下さいませ!!」
・・・とは言ったものの、どうしよう・・・。
銃や大砲などといった武器の知識ぐらいはある。
この国の鍛冶屋にそれを教え込めば、
それこそ戦況は変わっていくだろう。
・・・その先は?
戦車? 飛行機?
この国に協力するのはいいとしても・・・
それらの兵器がどれだけの悲劇を生むのか・・・。
そしてツナヒロは恐ろしい想像をする。
もし・・・もし、自分がかつての戦争兵器を復活させるというなら・・・、
自分の行動が、
かつて20世紀に起こった虐殺や、
世界大戦のようなものを導いてしまうのだろうか。
いや、そこまで考える必要はないはずだ。
少なくとも、自分一人ではそこまで劇的な変化は起きないはずだ。
歴史がまた繰り返されるにしても、
もっと後のことだろう。
そして・・・毎度の如く、
その夜も宴会があった。
ツナヒロは一時、悩みや心配を吹っ飛ばして、歌や踊りに我を忘れていた。
今夜の帰りも、
あの謎の大邸宅の脇を通りかかることになる。
恐ろしい門番の前は通らないが、
その片側の壁を見上げながら、
「早くユェリンの元に帰るんだ。」
そんな事を考えながら歩いていると・・・、
不意に視界に変化が生じた・・・。
影が動いた・・・。
自分の影ではない。
何かおかしいと、
周りを見渡すが、異常はない・・・。
誰もいない・・・。
ツナヒロは急に、
前回ここに来た時の恐怖を思い出した。
誰かに見られているんじゃないのか?
しかし、
この地で自分に危害を加えようとする人間がいるなど考えられない。
ツナヒロは意識的に足早になり、
さっさとこの地を離れようとする。
屋敷から離れ、角を曲がった時だ、
「おい。」
・・・それは真上から聞こえてきた。
そして今また、
ツナヒロの運命を変える男が・・・。