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フラア・ネフティス編2 帝 九鬼実彦

 

「そこ」は宮城きゅうじょうの奥に位置する、帝専用の休憩室だという。

部屋と言っても半分はバルコニー形式で、

城の中の美しい庭園が見下ろせる。

部屋の内観は、

城の外見同様、朱色の柱に竜の意匠が彫りこまれ、

アジアンテイストの椅子とテーブルが並んでいる。

なんでも、帝が側近や家族と過ごすのにここは使われるらしい。

・・・どこまで破格の待遇であろうか?

先にお付きの者に案内されると、

既にボードリール司祭がゆったりとお茶を飲んでいた。

ツナヒロが、丁寧にお礼と挨拶をしていると、

司祭は苦笑しながら「それには及ばない」とのジェスチャーを見せる。

 「ツナヒロさん、あなたのおかげで私も破格の待遇ですよ、

 私とて、普段ならここまで来ることはできませんし、

 あなたの通訳を行っている限り、

 食事の席では豪勢なごちそうにあずかれるようです。」

 「すると司祭様、あなたはこれから、

 服のサイズが変わってしまうことをご心配された方が良さそうですね?」

 

 

あまり他人ごとではないが、

くだらない冗談を言えるようになった。

もう、この司祭ともかなり打ち解けられるようになっている。

うまくこの新しい世界に馴染んでいくことができるだろうか?

そんなことを考えつつ辺りを見回していると、

にわかに周りがにぎやかになる。

いよいよこの九鬼帝国の帝の登場の様子だ。

・・・どう出迎えればいいんだ?

この国の慣習やしきたりをあえて無視するつもりもないが、

平伏する必要もないはずだ。

急いで司祭に確認すると、そんな気を使わなくて良いとのこと。

普通に、住居の世話などの感謝を表す態度で良いそうだ。

そして部屋の扉が開かれる。


・・・

ド派手・・・ド派手な装飾物や衣装に包まれた・・・

小太りで薄い口髭の中年男性・・・

彼は高らかに笑いながら登場した・・・。

それが九鬼帝国当主にして帝・・・

九鬼 実彦さねひこである。

 


 

 「うわーっはっはーっ!!

 やあやあよーこそー! この首万里へぇ~!!」

小太り中年オヤジは両手をひろげ、

満面の笑みを浮かべてやってきた。

栄養状態は良いらしく、

ほっぺたの肉もたるみがちだ。

ツナヒロは緊張気味にこれまでの感謝を込めて頭を下げた。

ところが一転、実彦は、

神妙な顔つきをしてからツナヒロに語りかける。

 「・・・いえいえ、そんなこと、

 聞けば我が方も末端の兵の行いとはいえ、

 取り返しのつかない事をしてしまいましたからな、

 三条から聞きましたが、

 そのような雑兵にまでツナヒロ殿は温情を注いでいただき、

 この国を預かる者として、私こそどのようにあなたに報いればいいのか、

 ずーっと悩んでおりましたぞぉ・・・。」


調子のよさそうなオヤジではあるが、

押さえるところは押さえている。

九鬼実彦は、ツナヒロに着席を勧めて、

自らも、でっぷりとしたお尻を自分専用の椅子に収まらせた。

 「それにしても報告を聞いた時には驚きましたな・・・。

 正直、今でも半信半疑なのですがぁ・・・。」

 


そこは苦笑するしかない。

 「いえ、当然でしょう、

 私だってこんなこと信じられない。

 もう、ある程度、覚悟せざるを得ないんですが・・・。」

ツナヒロはボードリール司祭を通して、

これまでのいきさつを自分の口で説明する。

かたや、九鬼実彦は真剣な面持ちで、

ツナヒロと司祭の通訳を聞いていた。

好奇心旺盛な性格のようで、

気になることは、どんどん聞き返してくる。

どちらかというと、

子供っぽいところがあるのかもしれない。


話も一通り終わった後、

実彦は目をパチクリさせながら大きくため息・・・

というか、深呼吸を行った・・・。

息を止めるほど話に熱中してたとでも言わんばかりだ。

 「・・・プハァ~・・・、

 恐ろしい話ですなぁ・・・、

 しかし、空の彼方から戻ってきて、

 いつの間にか400年が過ぎてたなんて・・・、

 まるでおとぎ話の・・・

 えーと、私たちの民族ではえーと・・・、

 浦島太郎? って物語みたいですなぁ、

 あ・・・といってもわかりませんよねぇ?」


 浦島太郎!?

 


 

ツナヒロはピクリと反応する。

 ・・・そういえば・・・。

 「・・・実彦様・・・待って下さい。

 私は・・・その話を知ってます。

 いえ、実際、その宇宙空間では・・・

 その現象は起こりうるかも・・・しれないんです。」

ツナヒロは自分で口を動かしながら、

その現象とやらを肯定できずに葛藤していた。


 そうだ・・・ウラシマ効果・・・。

物体が光速に近い動きで運動すると、

離れた物とは時間の進み方に変化が生じる・・・。

この場合だと、

地球が元々の時間を経過させているうちに、

宇宙船フォーチュナーの時間経過がとてつもなく緩やかになっていたということ・・・。


 だがそれは!?

 光の速さでフォーチュナーが移動していたって!?

 それもいつの間に進路が変わり地球へ!?

 その間、どこを飛び回っていたというのだ!?

 ・・・しかも地球とフォーチュナーの間で400年もの時間差が生じることなどあり得ないっ!!

 

ツナヒロは、

自分で説明しているうちに固まってしまったようだ・・・。

司祭と実彦は互いに目を見合わせる・・・。

しばらくしてから、

司祭はやむをえず咳払いをする。

そこでようやく我に返るツナヒロ。

 「あっ! す、すみません、

 ちょっと自分でも信じられない事が・・・。」


実彦は空気を変えるべきだと判断したようだ。

 「・・・いっ、いやぁ、

 無理ないでしょう!

 そんなことより、三条から聞きましたがぁ、

 ツナヒロ殿は我らと同じ血を引いてるのですってぇ!?」

 「あ・・・ええ、そのようですね、

 三条様や九鬼様の名字やお名前は、

 あまりポピュラーな方ではないと思いますが、

 時々、私の母方の国で見かける名前です。

 『浦島太郎』の民話も残っているのですね?」


そこは正直、嬉しかった。

自分が孤独ではない証明のような気もする。

 「あああ、やっぱりぃ!!

 ツナヒロ殿! これは運命と言うやつですよ!

 あなたが我が国に来られたことは、

 神の定めた運命なのでしょう!

 どうか、末長くこの国で過ごしてくださるがよいでしょぉお!!」

 



お待たせしました。

オヤジや野郎だけの話はこれで終わり!

次回から華やいだお話が!?

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