フラア・ネフティス編2 首府へ
小さな村だ、
事の次第はすぐに村中に知れわたる。
この後の三条との会談の内容は、ツナヒロの今後の処遇についてだった。
結論から言えば、
ツナヒロをすぐにでも首府に迎え入れ、
帝、直々に歓待したいとのことである。
・・・まぁ、こんな小さな漁村にいても何もできそうにない。
この村を離れること自体に異存はなかった。
ただ問題は、
港に残している宇宙船フォーチュナーの残骸だ。
過去の時代から見れば、
当時の最高科学技術の結晶なのだが、
この時代では電気もバッテリーもないのだ。
既にガラクタ以外の何物でもない。
・・・一応、まだ稼働能力を残している一部の機材だけ取り外して、
一緒に首府に運ぶことになった。
何かの役に立つかもしれない。
その夜、壮行会が行われた。
例の兵士をかばって見せた事は村人たちの感動を呼び、
ほとんど全ての村人たちが、
ツナヒロのための催しものに参加してくれた。
元より、
ツナヒロたちを保護してくれた村人たちには、
感謝しこそすれ、何の悪感情も涌くはずがない。
ようやく今になって、
ツナヒロにも涙があふれてきた。
何故、今頃なのか、
その理由はよくわからない。
ただ一つ言える事は、
400年経ったこの別世界でも、
人の心は変わらないということなのだろう・・・。
翌朝、セルジオ神父にも別れの挨拶をする。
この人には感謝しきれぬほどの世話になった。
がっちりと握手した神父は、別れ際にもツナヒロのことを気遣ってくれた。
「・・・ドナルドさん達のお墓、
こちらでお守りいたします、
いつでもまた、こちらにお立ち寄りくださいね・・・!」
「セルジオ神父! 何から何まで・・・!
どうかお元気で・・・!」
村の出入り口には、
地元の兵士たちが一列に並んで見送ってくれた。
彼らも役目があるから勝手なことはできないのだろうが、
純朴そうな彼らの目は、何も語らずとも理解できる。
ツナヒロがぎこちない・・・いろいろな意味を含んだ表情を向けると、
彼らは一斉に頭を下げて、ツナヒロを送り出したのだ・・・。
「素朴な・・・真面目な村人たちでしたな・・・。」
村を離れて、物思いにふけるツナヒロに、
御車の中でボードリール司祭はツナヒロに語りかける。
「・・・そうですね、いい人たちばかりでした・・・。」
「しかし・・・
これからあなたが向かわれる九鬼帝国首府首万理城はいかがでしょうかね?」
ツナヒロは窓の外に向けていた顔を司祭に向ける。
「えっ!? それはどういう・ ・・?」
「あなたの元のお国ではどうでしたか?
ここでは王族・官僚・軍人・・・
それぞれが強大な力を持っています。
あなたを脅かすつもりはありませんが、
・・・生臭い政治はここも例外ではありませんよ・・・。」
・・・ボードリール司祭の言いたいことはわかる。
なるほど、
こんな前近代的な軍隊を使っているのだ、
その政治体制がどんなものであるか、想像に難くない。
いや、具体的にどんな扱いを受けるかピンとは来ないが、
あの三条が兵士を処分したやり方からも、
かなりの強権政治を行っているのだろう。
・・・そんな世界で自分はうまくやっていけるのか・・・。
無理なからぬことであるが、
ツナヒロにはこの時、
もう一歩進めて考えることなど出来はしなかった。
それはこの国の外の世界を想像することである。
彼にはまだ、
如何にしてこの九鬼で順応していく事、それしか頭になかったのである。
そしてまだ、気づいてもいない。
ツナヒロ・スークが、
21世紀からこの時代にやってきたことは、
偶然でも事故でもなく、
ある・・・大きな意志の力によって、
実行された結果だということも・・・。
そして彼ら一団は、
小さな漁村を離れ、
一路、九鬼帝国首府・首万里城へと向かう・・・!
さて、
当たり前かもしれないが、
首府にやってきたツナヒロは面食らうばかりだ。
・・・あれから数日、馬に牽かれた車上の旅を続け、
湿地帯や広大な林を抜けた後に広がったのは、
たくさんの街・・・牧場や畑・・・。
天変地異が起きて400年経ったと言われるこの世界でも、
人々はたくましく生活している。
都が近づくにつれ、街は活気を帯び始め、
大勢の人々が行き交う様子も十分に観察できた。
そして遠目からでもわかる、朱塗りの城壁・・・。
イメージ的には前近代の中国と沖縄文化を合わせて2で割ったような・・・。
幅が10mぐらいありそうな城門を抜けると、
もうその中が、城塞都市首万里である。
そのまま、この首府そのものを首万里城と呼ぶこともあるそうだ。
長旅の疲れを慮ってか、
ツナヒロには中央官舎の一つを割り当てられ、
この日はゆっくり過ごすように配慮された。
・・・その官舎一つが大豪邸だ。
住むのはツナヒロだけだが、
給仕場や控室には常に数人の下男下女が働いている。
これはVIP待遇と言うやつか?
ツナヒロも、
隊商語で簡単な意思疎通はできるようになっているので、
彼らに食事の内容を聞いたり、
希望を伝えることもできる。
食材の名前はいまいち、よくわからないが、
魚・肉・野菜・煮る・炒める・などの簡単な説明は理解できるようになっている。
ツナヒロは密かに期待していた。
こっちの食事は激ウマに違いないと・・・!
案の定、出るわ出るわ、美食の数々!!
ここにきて、不安や心細さは当然にあるのだが、
それはそれ、これはこれとして、
たった一人でさばききれない量のごちそうを並べられ、ツナヒロの胃袋は幸せになった・・・。
・・・そして、翌日、
ついにというか、いきなりというか、
ツナヒロはこの国の帝と対面することになる。
次回は帝のおなぁりぃ~♪