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フラア・ネフティス編2 刑

前話の「首万里」のルビを修正しました。

 

ちょび髭役人の顔は不思議そうだ。

 「む? それで、なぜ私が?」


元々ツナヒロは、

天才とまでいかなくても、

宇宙飛行士に選ばれるだけあって高い知能を誇る。

少しだけだが、隊商語ならもう理解しはじめているのだ。

 「あああ、えーと、すいません、

 あなたの お名前は

 私の元の国で・・・たまに見かける名前なのです。

 それで・・・つい。」


たどたどしいツナヒロの隊商語に、

今度はその場の3人が驚いた。


 「・・・もう我々の言葉を覚えられたのですか!?

 あ、あの、

 もしかして私はここに来なくても良かった!?」

少し落ち込み気味の司祭に、

ツナヒロとセルジオ神父は懸命に機嫌をとる。

 「ああああ、ダメですダメです、司祭様!

 お願いですから、ここにいて下さい!」

 

結構お茶目な司祭らしい、

小難しい顔の役人三条信康も、ここで初めて笑顔を見せた。

そこでツナヒロは朗らかに話を続ける。

 「・・・では九鬼帝国の『クキ』というのも日本語だったんですかね?

 確かに日本の古い豪族の名前だ・・・。」


 「我々はその日本と言う国を知らないが、

 九鬼一族の先祖と、

 その周辺の軍勢は東からやってきたと言われている。

 九鬼帝国は単一民族ではないが、

 その東の地域の姓名を使うものは多い。」

とつとつと語る三条の言葉に、

ツナヒロは少し安心感を覚えていた。

自分が日本人だなどと言うアイデンティティは捨て去っていたつもりだが、

やはり郷愁感と言うか、

自分の心の中に日本人としてのパーツは残っているようだ。


 「それで・・・ツナヒロさん。」

 「あ、はい?」

 

ツナヒロに呼びかけたのはボードリール司祭だ。

 「あらかじめ、はっきりさせておきますが、

 私は九鬼政府の依頼でこちらに参りました。

 ・・・それで私は・・・

 いえ、この村のセルジオ神父も同様ですが、

 キリスト教東方教会は、

 大陸東部広汎にわたって活動する教団です。

 セルジオ神父はこの辺りの生まれと聞いてますが、

 私は北方のイヅヌという国で生まれました。

 九鬼帝国内で活動するのは東方教会の意思決定によるものです。

 我々東方教会は、

 九鬼帝国・イヅヌ両国の厚意と承諾によって、

 これらの地域での布教活動を許されています。」

 「・・・はい。」

 「ですので、私は今回、

 首府までの案内と通訳は行いますが、

 あなたが九鬼において、どんな待遇を与えられるか、

 また、どんな行動をとるかと言ったことについては、

 私は干渉できる権利を持っていません。

 そこをご承諾いただけますでしょうか・・・?」

 


多分きっと政治的な意味合いを含んでいるのだろう。

現段階では肯定も否定もできる状況にはない。

 「あ、はい、司祭様の立場は了解しました。

 それにしても・・・イヅヌ?

 北にそういった国があるんですね?

 それも微妙に日本っぽい名前なのかなぁ・・・。」

 

それよりしばらく、

司祭も役人も、それぞれの役目があるようで、

ツナヒロとは一度、別行動をとった。

時刻は午前11時くらいであろうか、

お昼前に一度、正式な会談を取るという。

村の寄り合い所に呼び出されてツナヒロが部屋に入ると、

三条信康が起立して、

深々とツナヒロに頭を下げていた・・・。

礼にしては大げさな気も・・・?


 「ツナヒロ様、事の次第は聞き及びました、

 我らの末端の暴走とはいえ、

 あなたの仲間に危害を加え、

 あまつさえ、死に至らしめたこと、

 帝国を代表して謝罪させていただきます・・・。」

あっ、その件か!

 

三条はさらに言う。

 「・・・それで、

 こんなことであなたの気が晴れるとは思いませんが、

 暴走した兵士には、

 しかるべく刑罰を与えましたので、

 何卒お心をお鎮めいただきたく・・・。」

 「え、いえ、そんな・・・え? 刑罰?」


戸惑うツナヒロの前に、

三条の部下らしき男がお盆を持ってやってくる。

盆の上には包みがあり、その大きさはかなりでかい・・・。

そしてその包みの結び目が解かれた・・・。


 な、なんだこれ!?

ツナヒロは最初、それが何であるか理解出来なかった。

趣味の悪い造形物か何かかも・・・といった思い込みはすぐに粉々になる。


 「あっ・・・!!」

それはドナルドを槍で刺した兵士の頭部であった。

 処刑されたというのかっ!

 「な・・・なんて恐ろしいことを!?」


見ればボードリール司祭は、

眉をしかめ十字を切るばかりだ。

三条とお付きの部下は、ただただ平身低頭・・・。

ようやくツナヒロは、

この段階で、自分が「どこにいるのか」再認識し始めたのだ・・・。


 ・・・ここは・・・そういう国・・・

 いや、そういう時代なのか・・・


大体、いきなりこんなものを見せられてどう対処すればいい?

 


確かにドナルドを殺されたことは悲しいし、

殺したその相手に憎しみを抱かないかと言えば、

そんな事はないとも言いたいのだが、

彼らにしてみれば、

自分たちの役目を忠実に実行していただけなのかもしれなかったあの状況で・・・。


 「・・・三条さん、顔をあげてください・・・。」

 「ははっ、この度の事は、

 我らが帝も心を痛めているはずです、

 後日、改めて償いをさせていただきたく思いますが・・・。」

 「・・・いえ、あの・・・

 私は・・・こんなことを望んでいない・・・、

 今さら・・・ドナルドもこの兵士も・・・手遅れだが・・・、

 他人の命をこんな簡単に・・・。」


見れば三条はきょとんとしている・・・。

ツナヒロの真意がわからないようだ。

こんなことを説明すること自体、愚かしい!

いらついたツナヒロを見たボードリール司祭は、

やはり頭の回転も速いのか、

全てを見越して三条に進言した。

 「三条様、どうもツナヒロ様は、

 人の命に対して価値観があなた方とは違うようです。

 彼は兵士が処刑されたことを嘆いています・・・。」

 

 「へ? な、なぜ!?」 

ハトが豆鉄砲を食らったかのような三条・・・。

やっぱりか・・・。


 「この方は、

 敵味方で物を考えているのではございますまい、

 人間の命は等しく平等・・・

 何よりも優先して尊ぶべきものと思われているのでしょう、

 罰を与えるにしても、

 ・・・処刑は厳しすぎるということでは?」


隊商語で話す司祭の言葉は、

おおむねツナヒロにも理解できた。

そうだ、さすがは神に仕える者だ。

ツナヒロは叫ぶ。

 「司祭様のおっしゃる通りです!

 私も、あなたがたの国家の法律や慣習をとやかく干渉する気はないが、

 私のためだというなら、

 もう、こんなことはやめてくれ!

 ・・・取り立てて、私を大げさに扱うこともない、

 三条さんも・・・

 それから他の方にもそう、伝えてくれないか!?」

 

 「は・・・ははーっ!!」

言ってる傍から、三条はさらに恐れ入って平身低頭だ。

却って言いすぎたか?

だが、あのままでは、

この後大変なことになりかねない。

 「ボードリール司祭様、・・・後ほど、

 あの兵士を弔ってあげる事は可能ですか?」


司祭は力強く頷く。

 「もちろんです、

 三条様・・・そちらは構いませぬか?」

 「ははっ、そ、それはもう・・・!」

ここはもうひと押しするか、

 「・・・それでは・・・

 もし私の希望を聞き届けられるなら、

 彼の墓碑銘にはいかなる不名誉な文言も刻まない事も・・・。」

 「はい、それでツナヒロ様がご満足いただけるならば!」

 



次回でこの漁村を離れることになります。


そしていよいよ九鬼帝国首府へ向かう事に。


イメージ的には沖縄と香港の歴史的建造物を足して2で割ったような都市という感じで。

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