フラア・ネフティス編2 救いの神父
先ほどまでの牧歌的な雰囲気は、
完全にこの世界から消え去った。
「な、なんだよ、こいつら!!」
にわかに騒然となる。
漁民たちの中には、
必死で兵士たちに抗議する者もいるが、
兵士たちは取り合わない。
そして、
ドナルドが威嚇する兵士の槍の穂先を払って、
声高に文句を言おうとした時だ。
「おまえら、いきなりこんな事を・・・!
国際問題になる・・・ぞ ・・・?」
「え、ド・・・ドナルド!?」
別の興奮した兵士が、
なんとドナルドの脇腹に、構えていた槍を突き刺してしまったのだ。
「ちょ・・・ちょっと、待て・・・
テメー・・・うぁああ・・・ 」
「ドナルドォー!!」
ツナヒロはすぐに倒れかかるドナルドを支えに回った。
だが、槍を構えた兵士達は、お構いなしにツナヒロたちを囲む。
「おい! 待て!
抵抗しない! だから攻撃するな!!
それよりドナルドを・・・!」
ツナヒロが反撃しようとしないのを確かめると、
兵隊のリーダーらしき男は、村人にドナルドを抱えさせ、
ツナヒロを連行した。
いったい・・・いったいここはどうなってるんだ?
北のあの国か?
いや、ありえない。
ではどこかの反政府系組織が支配するテロ集団のアジトか?
・・・それにしたって鎧はないだろう・・・。
拳銃すら持っている気配はない。
ちくしょう・・・
やっと地球に戻ったと言うのに・・・オレ達は・・・。
ツナヒロは留置場のような場所に入れられた。
当初、尋問めいたことも行われたが、
何しろ言葉が通じない。
兵士側も、
何人か・・・それこそ向こうも複数の言語を試しているのはわかるのだが、
いずれもツナヒロの知りうる言語ではない。
ドナルドには医者がつけられたようだが、
果たして、手術設備もないようなこんなところで、
まともな治療ができるのだろうか?
・・・刺されたのがドナルドでなくツナヒロだったら、
まだ、医療知識の深いドナルドが対処できたかもしれないが・・・。
ツナヒロが簡素なベッドで不貞寝していると、
この部屋の扉が開いた。
一人の兵士と・・・
黒衣の・・・これはキリスト教の神父!?
手には聖書らしきものも持っている。
首には十字のロザリオ・・・。
ツナヒロはクリスチャンではないが、跳び起きた!
こいつなら・・・。
「あ・・・あんた神父さんかい? ファーザー?
英語わかるか?
ジーザス・クライスト!
バイブル! ああと、えーと、ヨハネ、パウロ!
なんか反応してくれ!!」
初老の神父らしき男は目を丸くした。
彼は兵士と二言・三言交わした後、
咳払いをして牢屋越しのツナヒロの前に立った。
そして神父の口から流れた馴染みのある単語・・・
「・・・ゴホン、あー、あなた・・・
聖書の 言葉 わかる ですか?」
ついにきたーっ!!
やっと英語を喋れる人間がいたっ!!
ツナヒロは歓喜の笑みを浮かべて神父に嘆願する。
・・・過去、
これほど神父と言うものをありがたく感じた事はない。
この状況を改善させてくれるなら入信したっていい!
「良かったぁ! 神父様!!
この土地で初めて会話できる人に出会えた!!
私はツナヒロ・スーク!
腹を刺された男がドナルド!!
そ、・・・そして・・・港で私たちの宇宙船にまだ一人、
病気で神の元に旅立ったノートンという男がいます・・・。」
急いで喋りすぎてしまったようだ、
神父はとてもかなわん、という顔をして両手をあげた。
「あ、あああ、待ってくれ、
私も あまりしゃべる できない・・・、
ゆっくり 頼むよ。」
やむを得ない、
ツナヒロはもう一度、説明しなおす。
神父は通訳を兼ねて、兵士と会話している。
どうやらこの牢を出してくれるようだ。
とは言っても、尋問の形式には変わりない。
武器を持った兵士に監視され、
小さな机のある椅子に座らされた。
兵士はさらに増え、
・・・といっても書記の代わりのようだが、
ツナヒロの言動を全て書き写す役目のようだ。
とにかく一歩ずつ状況を改善しなければ!
「・・・それでですね、
私たちは、アメリカの宇宙飛行士で、
火星に向かっていたんです。
船のトラブルで火星にはたどり着けずに、
ついさっき、この地球に戻ったんです・・・。」
これを説明するのに何十分かかったことか。
神父も兵士もツナヒロの話を理解できないようなのだ。
いや、理解はしているのかもしれないが、
話の内容そのものが信用できないのだろうか?
話題を変えよう。
「私たちはアメリカの人間です。
大使館と連絡を取ってほしい。」
これもダメだ・・・どうなっているんだ!?
まさかアメリカを知らないはずも・・・。
そのうち、神父は兵士の一人に何か頼みごとをしたようだ、
一人退席する。
神父・・・彼の名前はセルジオ神父だそうだが、
彼はゆっくりとツナヒロに語りかけた。
「ツナヒロ・スークさん・・・、
あなた言う・・・アメリカ・・・
私たちその国 知りません。」
それはツナヒロには全く想定すらできない返答だ。
またアメリカ人は・・・と言われそうだが、名実ともに世界一の大国の筈である。
「はぁ? じゃあジャパンは?
イギリス? 中国は!?」
神父は首を振るばかり・・・。
「残念です、その全ても・・・。」
「じゃあなんで神父様は英語をしゃべれるんです!?」
「この言葉は、この国で・・・いや
私 知る、この周辺どこでも使われていません。
神に仕える者だけ、
この聖書で 英語を学ぶだけなのです。
もちろん、実際 使うは ないですから
聞く苦しい 許してください・・・。」
そんな馬鹿なことがあるのだろうか!?
からかわれているのか?
だが、そんなことでドナルドを刺されてたまるか!
「じゃ! じゃあこの国はどこなんです!
地球のどの場所にあるなんという国なんですか!?」
そしてこの後ツナヒロは、決して受け入れることのできない程信じ難い、
衝撃の事実を知ることとなる。
「ここ・・・大陸の東南部・・・、
大陸最大領地持つ・・・その名を九鬼帝国・・・。」
日本語っぽい国の名前が出ました。
ですが地理的にもここは日本ではありません。
この国の詳細はまた次回に。