フラア・ネフティス編2 地球帰還
これまでの異常値はなんだったのだろう?
何故、進路が地球に戻っていたのか?
そしてあと一点、
地上への連絡も不能のままだ。
何度も調べなおしたが、
フォーチュナーのシステムは全て正常なのだ。
地上に戻るにしても、
地上の管制システムを借りなければ、
安全に戻ることなどできはしない。
「なぜだ?
・・・何故、管制室がでないんだ?」
・・・すでに肉眼で地球の姿ははっきりと捉えられる。
地球が太陽の周りを公転しているため、
その位置は、彼らからまっすぐ進行方向の直線上に見えているわけではないが、
すでにツナヒロは地球に着陸するまでの、軌道を計算し終えていた。
当初の計画では、
迎えに来るスペースシャトルに乗り換えて地上に戻る計画だったが、
管制室と交信ができない以上、
自力で戻るしかない。
それは、大昔と同様、
自分たちのいるエリアをフォーチュナー本体から切り離し、
海上に着水するというものである。
目標地点は太平洋上が好ましいはずだ。
「ツナヒロどうだ?」
「ああ、これでプログラムは完璧なはずだ、
・・・衝撃がでかいから、やりたくねーがな、
お迎えが来ないんじゃしょうがない。
一応、もうコンピューターにインプットし終わったから、
海水面着陸も、
ほぼ自動で問題ないと思う。
・・・あるとすれば・・・。」
ツナヒロは後ろの方を振り返った。
勿論、彼らに見えるのは船室への入口のドアだけだが・・・、
その奥で休んでいるノートンの事を案じているのは言うまでもなかった。
はたして、彼の今の体力で、
大気圏突入や、着水時の過酷な衝撃に耐えられる事ができるのであろうか?
既にノートンには、
これから自分たちが乗り越えねばならない、過酷な選択を伝えていた。
ノートンだって覚悟の上で宇宙空間に出ているのだ。
ここまでトラブルが起きて、優先されるべきなのは、
とにかく地球に帰ることだと理解している。
任務の失敗や、国の名誉なんてどうでもいい。
愛する家族にもう一度会えるなら・・・。
それだけが彼を支えていたのだ。
そして、いよいよ最後の行動の時がやってきた。
これより、地球の軌道に合わせて進み、
特定の角度で、地球の大気圏内に突入するのだ。
そして大気の摩擦という灼熱地獄の洗礼を浴びて、
赤道上を何周かしつつ高度を下げ、
ギリギリの角度で着水する。
なるべく海岸近くに着水したいが、
正確なデータが揃っていないため、
余裕を持って、陸から少し離れた所に着水しよう。
管制室と連絡が取れないとはいえ、
アメリカ領内なら、
空軍なり、海軍が自分たちに気づいてくれる。
それまで、頑張ればいいだけなのだ。
「・・・これより宇宙船フォーチュナー、地球の大気圏に突入する・・・!
全員、持ち場の再確認せよ!
・・・ノートン、大丈夫か!?」
これより宇宙船に凄まじいショックが浴びせられるのだ、
睡眠用ベッドには、
それに耐えうる固定具などありはしない。
ノートンは自力で自分の持ち場に座り、
ベルトを固定している。
そして、最後の気力で自分の仕事をまっとうしていたのだ。
「・・・二人の足は引っ張らないよ・・・、
オレもこの船のクルーだ・・・!
責任は果たすぞ・・・。」
ドナルドとツナヒロは、
ノートンの言葉を聞いて、一度顔を見合わせた・・・。
「わかった!
無理をするな・・・、
自分で限界を越える前にオレ達に声をかけろよ・・・!」
「ああ・・・!」
「大気圏突入!!」
その瞬間、
フォーチュナーが爆発するかのような衝撃が起こった!
地球の大気圏に入ったのだ!
その衝撃は、
訓練を積んだ宇宙飛行士の彼らでさえ、
一瞬でも気を抜くと、意識を失わされそうになるほど強烈なものだ。
だが、彼らは最後まで抵抗する。
「・・・げ、現在赤道上空を・・・予定通り飛行中!
高度! 速度! 共に異常なし!!」
順調だ・・・
このまま進路は北側にスライドしていき、
最終的には太平洋からアメリカ西海岸へ・・・。
だが・・・
ここでこの船の誰もが予想できない現象が発生する・・・!
ビィーッ! ビィーッ!!
コンピューターが警告音を発した。
「ドナルド、どうしたっ!?」
「これは・・・、
コンピューターが着陸地点を特定できない・・・ッ!?」
「どういうことだ!?」
「い、いや、待て、オレにもなんだか・・・、
ああん?
入力されている既存の地形データと、実際の地形が一致しない・・・!?」
「な、なんだそりゃあああっ!?」
「もう、修正したり、データを打ち直すヒマはないっ!
マニュアル操作で着水させるぞっ!!」
そして彼らがその決断をした時に、
さらなる、忌まわしい現実がそこに待ち構えていた・・・。
「ノートン・・・? おい、ノートンっ!?」
すでにノートンは首をうなだれさせていた・・・。
もう意識はない様子だ。
まさか、最悪の事態が・・・?
そしてその二つのショックで、
ツナヒロたちもミスをしてしまった・・・!
着水地点の見込みを誤ってしまったのである。
安全に着水するためには、
このままこの角度で降りるしかない・・・。
だが・・・この場所はいったい、何所に・・・!?
着水と同時にまたもや船体を衝撃が襲う。
だが、大気圏突入時の激しさに比べればなんてことはない。
そのまま海水面を滑るように東に進み、
やがて宇宙船フォーチュナーはその推進力を失い、
波の上に漂うだけとなった・・・。
「モートン・・・、モートン!
おいモートン、しっかりしろっ!?」
すでにモートンは、
彼らの呼びかけに反応することはできなくなっていた。
哀れなるモートンは、
再び、母なる地球の空気を吸うこともできないまま、
この世を去ってしまっていたのだ・・・。
「モートン・・・、
ようやく・・・ようやく帰ってこれたのによぉ~っ!!」
ドナルドの嘆きの言葉を聞くまでもなく、無言のツナヒロも同じ気持ちを抱いている・・・。
だが彼らには悲しみに暮れている暇はない。
今、自分たちがいる場所がどこなのか、
その特定もしなければならないし、
自分たちを発見する国がどこになるかで、
外交上、ややこしいことにもなりかねない。
本来なら、
NASAを通じて合衆国政府が何らかの措置を取るべきはずだが、
これまで一度も通信が回復してないことからも、
NASAなり合衆国が自分たちの位置を把握できているとも思えない。
ドナルドはまたもやあらゆるチャンネルに通信を試み、
ツナヒロは信号弾を上げ、救助のサインを出す。
次回、いよいよ上陸します。
果たしてここは何処なのか!?