フラア・ネフティス編2 有人火星探査船フォーチュナー帰還する
どのくらい時間が過ぎ去ったのか、
最初に目を覚ましたのはドナルドだった。
衝撃波を受けたのは全員同様だが、
狭い部屋にいたために、
壁にぶつかったショックは薄かったのだろう。
頭をふらつかせ、
足をよろめかせながら立ち上がる・・・。
「ツナヒロ・・・ノートン・・・無事か・・・!?」
二人を介抱すると、
ツナヒロはすぐに正気に戻ったが、
ノートンの様子がおかしい・・・。
意識が混濁してるようだ、
こちらの呼びかけにも、まっとうな反応を示さない。
「ドナルド・・・
ノートンはしばらくベッドに安静にさせとかないと・・・?」
「ううむ、そうだな、
一度、彼のカラダを診てやらないと・・・、
だが、現状はどうなったんだ?」
ツナヒロは頭をふらつかせながら、
計器を確認に行ったのだが、
しばらくすると、
気味の悪い声をあげて笑い始めてしまったのだ。
「ツ、ツナヒロ!?」
「ド・・・ドナルド!?
オレ・・・オレも頭をやられたのかもしれない・・・!」
「どうしたんだ!?」
「この船・・・完全に航路を外しちまってる・・・、
そ、それどころかどこを飛んでるのかさえ、確認できねぇ・・・、
計器が・・・すべてめちゃくちゃなデータを指しちまってやがる・・・!」
ドナルドはゆっくり「それ」を確認した・・・。
まさか・・・
信じられない・・・
あり得ない・・・!
「・・・どうなっちまってるんだ・・・!?」
先ほどの事件がいつ起こったのか、
正確な時刻は不明だが、
時計はと見ると、
少なくとも2時間以上は経っているようだ・・・、
時刻表示が狂っていなければの話であるが・・・。
「・・・ツナヒロ、ここまでの異常が起きてるなら、
急いでも仕方ないな・・・。
オレはノートンの処置をしておく・・・。」
「そうだな、頼む、
オレは現在地だけでも把握できるようにやってみるよ・・・。」
しばらく一人で作業しているツナヒロの元へ、
ドナルドが帰ってきた。
「おお、ドナルド、
・・・アイツの容体はどうだ?」
「とりあえず、生理食塩水とブドウ糖の点滴を行ってきたが、
熱も高くないし・・・原因がわからん。
血圧も同様だ・・・
落ち着いたまま異常値を示していない。」
「人も機械も原因不明かよ・・・、
やってらんねーな・・・。」
「ツナヒロ、そっちもお手上げなのか?」
「ああ・・・速度計なんざ、メーター振り切ってるぜ、
座標軸なんかまるっきりあてになんねー・・・。」
「航路の履歴はどうだ?
その記録を追えば・・・。」
だが、ツナヒロはお手上げのポーズでため息をつく。
「やってみた。
船があの衝撃波を受けたと思われる時点からの記録がぶっ飛んでる。
それまでは正しく火星に向かって飛んでいたんだ。
今じゃ、コンピューターもエラー表示を発したまま、
記録を取るのをストップしている。」
「・・・管制塔も・・・。」
「つながらないままだなぁ・・・。」
「いずれにせよ、
手をこまねいてるわけにもいかんな、
引き続き、オレは通信装置の見直しからやってみるが?」
「ああ、頼む、オレも手は残ってないかやってみるよ・・・。」
だが・・・。
「・・・ダメだ! 装置は完ぺきだ!!
送信・受信ともに問題ないぞ!?
半日かけてドナルドが出した結論は一つである。
異常はない!
ツナヒロも同様だ。
計器そのものが狂ってるようにも思えない。
・・・では一体?
「ドナルド?
例えば宇宙空間に磁気嵐とか・・・
大量の宇宙線が流れてるとしたらどうだ?」
「ううむ・・・、可能性はあるが、
そうなると船の感知機器類のみ影響を受けて、
船内のその他の機材や、生命維持システムには全く影響がないというのか?」
ツナヒロは頭をかく。
「・・・そうだよなぁ・・・。」
彼らは全ての可能性を考慮し、
その後、できうる限りの対応策を行った・・・。
具合の悪いモートンも、
しばらくすると体調を回復させ、
3人で対応策を協議するのだが、
いかなる行為も現状を改善させることはできなかった・・・。
そして1ヵ月が過ぎた・・。
本来なら、もう火星に到着しているはずである。
計器がすべて元に戻り、
地球への通信が再開できたとしても、
もう当初の目的を遂行させることなどできはしない。
・・・それより深刻なのは、
ここで飢え死にしてしまうことである。
あと2か月分の食糧はあるが、
その間に、地球に戻ることができなければ・・・。
いや、もしもこのまま、
何の解決策すら見出せず、絶望のみが彼らの心に満たされたならば・・・。
そこから先の想像を口に出せる者などいない・・・。
自暴自棄にはなりかけていたが、
さすがは宇宙飛行士に選抜されたエリート達だ。
彼らは不屈の精神力で、
自分たちにできる事を必死に繰り返していた。
そんなある日、
ツナヒロがあることに気づいた。
既にモートンは、
寝たり起きたりを繰り返していたが、
体重も激減し、ベッドにいる時間の方が長くなっていた・・・。
ツナヒロはドナルドに向かって叫ぶ。
「ドナルド・・・! 来てくれ!!」
「ど、どうした、何かあったのか!?」
「ドナルド、ハハッ!
落ち着いて聞いてくれ、
数日前から、肉眼で見える星々のうち、
一つだけ、他の星と異なる動きをしているものに気づいたんだ!!」
「なに!? 惑星か!?」
「今、モニターに映し出してみよう・・・。」
彼らが注目する画面に、
小さな光の塊が映し出される。
「倍率をあげていくぞ・・・。」
どんどんその光は大きくなり、
そしてその姿も明確になっていく・・・。
この見覚えのある映像は・・・
「おい!? これは!!」
「ああ、火星なんかじゃない!!」
そこには青い模様と、白い雲らしき層で覆われた、
彼らがよく知っている星の姿が映っていたのだ!!
それは彼らの母なる故郷、
地球・・・。
「お・・・オレ達!
帰ってきてたんだ!!
あ・・・あああ、生きて帰れるぞ!!
ツナヒロ!! お・・・オオオオレ達・・・!!」
ドナルドの顔が涙で溢れた。
無理もない、
この極限状況で気を張り詰めてきたのだ!
ツナヒロだって目頭が熱くなっている。
すぐにノートンにも知らせようと様子をうかがいに行く。
ノートンはすっかりやつれてしまっているが、
このとき、まだ意識はしっかりしていた。
「そ・・・そうか、地球に戻れたんだ・・・
ああああ、良かった・・・。」
「そうだ、、モートン!
だからもう少し頑張るんだ!!
あと少しだからな!!」
彼らにとって、
これは最高の喜びの発見であったが、
船の状態そのものは完全とは言えなかった。
地球の観測ができたことで、
当然、太陽の位置も把握できた。
・・・今までなぜ、
太陽の存在すら確認できなかったのだろう・・・。
そして不思議な点は他にもある。
速度計の針も、
通常のスピードの位置に戻っているのだ。
現在位置を示す計器は、全て正常なのである。
とりあえず最悪の状況は脱しましたが・・・。
なお、フォーチュナーを襲った異常事態の原因は皆様に公表は致しません。
人間が知っていい範囲の外のお話ですので・・・。
もちろん、ご想像は自由ですよ?