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第3話

 

・・・今の声は何だったのだろう? 

会場のほとんどの者は、

気にもしていないか、

「なんだぁ、今の?」

といぶかしがるか、どちらかであった。

赤いローブの小伏晴臣は一度足を止めたが、

すぐに児島たち幹部と会場を出て行った。

また日浦義純も、

特に気にも留めずにその会場を後にした。


・・・辺りは日が沈んで、薄い霧も発生していた。

日浦は一度、

携帯を開いて事務所に連絡を入れ、

ヘッドライトをつけて車を発進させる。

彼の事務所は隣のS市にあるが、

車なら30分程度の所だ。

バイパスに乗っかってしまえば、

この方向なら渋滞にも引っかからない。

・・・そのバイパスに向かう途中、

義純は不思議なものを見た。

カーブの多い曲がりくねった道を走る途中、

彼の車のヘッドライトの光の中を、

何か大きなものが通り過ぎ去っていったのだ。

 「 う っ わ っ ! !」

反射的にブレーキを踏む。

 後続の車は来ない・・・、

 何だったんだ今のは・・・?

大きな・・・人間の大きさでありながら、間違いなく人間ではない何かが、

道を横切って小高い丘のほう・・・、

自分が今までいた、

ダイナスティの教会本部の方角へ走り去って行ったのだ。

彼はたった今目撃した瞬間的な映像を、

正確に思い出そうとして背筋が寒くなった・・・。


 

 大きな刃物のようなものを持っていた・・・?

 持っていたって・・・?

 ・・・ならばそれは人間・・・?

 いや、人間にあんな動きはできない・・・。

 それに恐らく顔の位置にあった、

 ぎらつく目玉のような光の反射・・・、

 一度こちらを振り向いた・・・?

義純は身震いして、

「それ」の走り去った方を確認した。


 ・・・戻ってこない・・・よな?

 駄目だ・・・

 恐ろしいことを想像しようとしている。

 会場であんなシーンを見せられて、

 気が昂ぶっているのかもしれない・・・。


義純は逃げるようにして、

そこから車を再び発進させる。

だがそのとき、

彼の脳裏には、

サブリミナル映像のように、

その恐ろしい物体の顔のようなものの映像が刷り込まれてしまっていた・・・。

モノトーンの無表情な造り物の顔を・・・。

 


 

 「ただいま~。」

 「あっ、お疲れ様です、

 所長、受光式どうでした?」

 「・・・いや、すごかった。

 ・・・もぅ、下手な風俗産業も敵わないね。」

とりあえず、

義純は見てきたことを所員に話した。

所員は「騎士団」とは全く関係ないし、

その存在すら知らされていない。

依頼そのものは、

「騎士団」のダミー会社からの、

通常の依頼として扱っているので何ら問題も無い。


 「それで、岡崎君、

 君のまとめてくれたニュースの方は?」

 「ハイ、こちらです。

 ・・・やっぱり、

 公式には事故や自殺扱いになってますけど、

 教会が原因なのは間違いないみたいですねぇ・・・。」

そう言いながら、

岡崎と呼ばれた所員は、ケースに入ったファイルを義純に手渡した。

 「・・・家族の金をお布施や献金に使って、

 挙句の果てに傷害致死、一家離散・・・、

 酒が飲めないはずの信者幹部が、

 酔って交通事故死・・・、

 信者監禁疑惑、

 娘を説得に行った父親が行方不明・・・。

 今のところ、

 警察も大々的には動いていない・・・と。

 ・・・叩けばいろいろ出てきそうなんだけどねぇ・・・。」


そう言う義純に、部下の一人が恐る恐る口を開く。

 「・・・でも、所長・・・

 あんまり危ないのは・・・。」

 「あ~、分ってる、

 やりすぎると君らも危険だもんね、

 大丈夫、あくまで調査が依頼だからね、

 あ、もうこんな時間だ、

 他に引継ぎはあるかい?

 オレはこの件の整理と報告があるから事務所にまだいるけど?」


時計は七時を過ぎていた。

その後20分ほどで、

部下達は全員それぞれの自宅へと帰っていった。

義純は、

今日見てきたこと、

教会の主な活動暦、

事件との関わりの噂、

その可能性などをまとめ、

定例報告の形で、

自分が所属する騎士団本部(のダミー会社)にメールを送った。


 ・・・それにしても・・・


こんな時には熱いコーヒーを飲むに限る。

彼のお気に入りはマンデリンだ。

 「ありゃぁ、何だったんだ・・・?」 

昼間、衝撃的なものをあれほど見たにも関わらず、

彼の意識には、

帰りに出会った不思議なものが頭から離れなかった・・・。

そんな時である、

突然一本の電話が鳴った。

 ・・・こんな時間に?

彼は不審に思いながら、

ゆっくり受話器を手に取る。

 「もしもし? 日浦総合リサーチですが?」

・・・受話器からは、

馴染みのない女性の声がした・・・。

 


 

・・・女性の声は英語だった。

 『ハ~ロゥ?』 

ちょっと甘ったるい感じの声だ。

・・・どこかで聞いた気もするが。

ここからは全て日本語訳で彼らの会話を追う。


 「もしもし?

 私は責任者の日浦義純ですが・・・

 あなたは?」

 『あら、当りぃ?

 "愚者の騎士" ヒウラ!

 わたし、誰だか分るぅ?』


・・・ちょっと待て、

「愚者の騎士」は「騎士団」内で使われる日浦の俗称だ。

今回の依頼のダミー会社にも女性スタッフはいるが、

彼女達もその内部についてはほとんど知らされてないはずだ。

 いや! 一人だけ記憶にある・・・。

日浦は思い出した、

女性の身で騎士団内部に出入りできる、

若く病的に美しい女性がいる事に・・・。

 「・・・もしかして、

 フェイ・・・マーガレット・・・ペンドラゴン・・・お嬢様ぁ!?」

 『ワーォ! 大正解ぃ!

 でもね、

 フルネームも"お嬢様"も必要ないわ、

 マーゴ!

 って呼んでよね、ヒウラ♪』


 くわぁ・・・。 

日浦はこの女性が苦手であった。

別に彼女が嫌いとか女性蔑視ではない。

まずは、

彼女が騎士団最高指導者の娘である事。

また、騎士団の有資格者でないにも関わらず、

彼らに理解しづらい、

オカルティックな能力と知識を持っている事、

そしてその奔放な性格・・・、

それ故、保守的な騎士団の人間にとっては、

なるべくなら彼女には近づきたくはない・・・、

というのが本音であった。

 「・・・て、お嬢・・・いえ、マー・・・ゴ?

 なんで君がここに電話を?」

 『何でかしらねぇ?

 てのはうっそ!

 わたしがあなたの担当になったから!』

マジッすか・・・。

 「え、でも君は騎士団の人間じゃ・・・」

 『そうよ?

 でもわたしの能力は円卓会議でも認められているわ、

 団員と同じ資格は持ってないけど、

 あらかじめ認められた事については、

 団員同様に動けるってわけ!

 おわかりぃ?』

あまりのショックにコーヒーを飲むのも忘れていた。

 落ち着け、義純。

日浦はコーヒーをつぎに行く。

 「・・・そうか、

 君もケンブリッジ卒業したんだよな、

 ・・・じゃぁ今度のカルト教会の話もあらまし、

 聞いている訳だね?」

ようやく冷静に会話できるようになってきた。

今日はショッキングな事が多い。

 『ええ、

 さっき送ってもらったメールを読んだところよ、

 お昼食べながらね。』

 


 (大丈夫かな・・・?

 彼女、ほんとに貴族の娘かぁ?) 

いろいろ突っ込みたいが、義純はあきらめて話を続ける。

 「・・・なら、状況はつかめてると思うけど、

 この教会は日本では時々有りがちな形態で、

 信者を集める手段は至って単純。

 教祖とナンバー2が、女性信者に快楽を与え、

 それをエサに男性達を釣り上げる・・・という方式さ。

 男性達も教会内のステータスを上げれば、

 女性たちに性的快楽を与える立場になれるしね。」

 『・・・やっちゃえる・・・てわけ?

 ヒウラもその儀式で興奮しちゃったのぉ?

 いま・・・さみしくなぁいぃ?』 

コーヒー噴きそうになる。

 「・・・あのですねぇ!

 あなたは仮にも最高指導者の娘なんですから・・・もっとこう・・・!」

 『怒んないでよ!

 もぅ、固いんだからぁ。

 イヴァンやケイ叔父様はもっと優しいわよ?』

 あいつらが甘やかしてんのかぁ! 

彼らは義純と同格の団員メンバーだ。

今のところ彼らの名前を覚える必要はない。


 「・・・ま、実際男性幹部はそうだろうね、

 以前テレビ局がインタビューしてたけど、

 教会では性行為はタブーじゃない。

 むしろ聖なる行為だと奨励している。

 勿論、信者には強制させてはいない、

 と言ってたけど。」

 『で、どうなの? 教会の危険性は?

 騎士団が動く必要性は・・・?』


ここが彼らの最大の懸案だ。

世界の平和や均衡が、大きく乱される恐れのある場合、

彼ら騎士団が、

人知れずその脅威の芽を摘んできたのだ、

これまでも・・・。


 「危険性は・・・大きい。

 ファイルにもコメント加えておいたけど、

 彼らの教義では、

 『終末戦争に向けて軍事的な準備も必要不可欠である』、

 と書いている。

 テロ組織だとしたら都合のいい隠れ蓑だろうな。

 ・・・最もこのやり方は、

 アニメ全盛の日本でしか通用しないと思う。

 信者にしても、

 本気でやってるのはごく一部じゃないかな?

 事件はいろいろ起きているけど、

 それらは日本警察で取り締まれる範囲のもので、

 騎士団が動く必要性は、

 今のところ存在しない、というのが僕の判断だ。」

 『・・・そう、私としては、

 ・・・この教祖が行った儀礼・・・

 口を開いただけで、

 女性信者がエクスタシーを得てしまうっ、

 てのが気になるわね?

 薬物やトリックの可能性は・・・?』

 「もちろん、そう考えているが、

 どんな仕掛けなのか見当もつかない。」

 『ヒウラは口から何かが流れているのを見たのでしょう?

 ・・・もし、トリックでなければ、

 古い魔術の可能性があるわ。』




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