フラア・ネフティス編2 有人火星探査船フォーチュナーの遭難
出だしはVangelisでも聴きながら・・・。
21世紀初頭・・・
人類は、初めて地球以外の惑星の大地を踏みしめるべく、
日米共同の技術開発で、
一隻の宇宙船を火星に向かって飛行させていた・・・。
有人探査宇宙船「フォーチュナー」、
その船には3人のクルーが乗り込んでいる・・・。
「ツナヒロ!
そろそろ交代の時間だ、何か異常はないかい?」
「ふわぁ~、全く・・・。
航路・計器まったく異常はなし、定時連絡も問題なし、
すぐに代われるぜ?
って・・・モートンはどうした?」
「ああ、本来、あいつの当番なんだが、気分が悪いらしい。
チェンジしたんだ。」
「気分が悪い?
この宇宙空間でか? 無重力に自律神経やられたのかな・・・?」
「細菌やウィルスは考えられまいが、
とりあえず、様子を見よう、
ツナヒロ・・・アンタも休め・・・。」
「了解、では、ツナヒロ・スーク、
これより休眠させていただきます!」
このツナヒロという男、
名前でわかるように日系のアメリカ人である。
この船のクルーには当然、全員に宇宙飛行訓練を積ませてあるが、
それぞれが別々の分野のエキスパートである。
ツナヒロは機械工学・プログラミングの専門家だし、
今、話しかけてきたドナルドは、
生物学・医療のスペシャリストだ。
体調を崩しているモートンは、
気象学や地形・鉱物などの実績でNASAに引き抜かれた男である。
彼らは火星の大接近に合わせ、地球から約2ヵ月の往路にて、
火星の地表に着陸し、
1日~3日の予定を組み、簡単なベース及び、
観測機器の取り付けを行うことを任務としていた。
・・・もちろん、星条旗もたなびかせないといけない。
それにしてもトラブルがないのはいいことだが、
それだけにヒマだ。
定時連絡では、
家族を地上管制塔に出入りさせることもできるので、
緊急時以外はそれだけが楽しみと言うほかはない。
ツナヒロはいまだ独身だが、
モートンもドナルドも家族持ちである。
早く定時連絡の時刻にならないかと、それだけが待ち遠しい。
そんなドナルドが時刻を気にしていると、
レーダーの一つから、
宇宙船フォーチュンの航行先に、おかしな反応があることに気づいた。
・・・まだかなり先だが・・・、
小惑星? それとも隕石?
「・・・なんだ? こいつは・・・おかしい、
突然レーダーに現れたくせして・・・
さっきっから全く動いていない!?」
どんな些細な異常も、一人で判断するわけにはいかない。
急いでドナルドは、寝たはずのツナヒロをマイクで呼び出した。
「ツナヒロ、寝入りばなに済まない!
レーダーに異常な反応がある。
悪いがすぐ来てくれないか!?」
まだ、眠りにつく前だったのだろう、
ツナヒロはすぐさまやってきた。
「なんだ、どうしたドナルド?」
「・・・見てくれ、コイツを!!」
ツナヒロはレーダーの解析画像を見て目をひんむく。
「・・・なんだ、こりゃあ!? 大きさは!?」
「コンピューターは直径50メートルほどの大きさだとはじき出している。
・・・それよりこのままだと・・・。」
「向かって来ているように見えるが、動いてないんだよな!?」
「そうだ、我々の進路にあるから我々がどんどん近付いているんだ。」
「わかった、じゃあドナルド、
オレは進路の正確な計算と、
軌道修正のパターンを用意しておくから、
アンタは管制室に指示を仰いでくれないか?」
「オーケー! すぐにやろう!!」
二人はすぐにそれぞれの作業を開始した。
だが、
真っ先に更なる異常を体験したのは、やはりドナルドだ・・・!
「おかしい・・・変だ・・・。」
「どうしたい、ドナルド?」
「管制室に連絡が取れない・・・。」
「・・・焦ってないか?
連絡が繋がるにはタイムラグがあるだろう?」
「いや、もう、そんな時間は過ぎ去っている?
チャンネルが開かないんだ・・・!
通信機がいかれちまったのか?
こんな時に!!」
にわかに状況が危険なものへと変わっていた・・・。
目前にあるという障害物が、
必ずしも、この宇宙船とぶつかるとも言えないが、
ニアミスする可能性を、
できる限り安全と思えるレベルにまで落とさないと・・・。
二人だとつらいか・・・。
そう思っていたところに、後ろからもう一人のスタッフ、
モートンが青白い顔してやってきていた・・・。
「トラブルか、だ・・・だいじょうぶか・・・?」
すぐさまツナヒロが対応する。
「あ、大丈夫かって・・・
モートンのほうこそ大丈夫なのか!?」
「な、なんとかな、オレも手伝うぞ・・・。」
「そ、そうか、
なら、モートンはドナルドと代わって、通信機器を操作してくれないか?
突然、復旧するかもしれない。
ドナルドは悪いが・・・。」
「オーケー、機材のチェックだな・・・。
船内回路から始めるぞ。」
「任せたよ・・・。」
既にドナルトはこの場にいないが、
計算に一通りの答えを出したツナヒロは、
ふとレーダー画面を見やって自分の目を疑うこととなる・・・。
「モ・・・モートン。
聞いて・・・いや、見てくれ・・・
オレの目がどうかしちまたのか・・・!?」
「ど、どうした、ツナヒロ・・・。」
モートンは、
言われるままその計器を見て石のように固まってしまう。
あり得ない・・・
こんなバカな事があるはずがない・・・。
当初、レーダーに映っていたはずの異常なる物体が、
宇宙船フォーチュナーの前方から姿を消し、
何と、宇宙船の後方に、
ピッタリと同じ速度でくっついているではないか!!
「こんなバカなッ!?」
いや、ぴったりどころか段々その距離は縮まって・・・?
これはなんなんだ!?
「それ」が自分で移動する気配は全くなかったのだ!
いったい、どんな現象が起きればこんな事態に変わりうるのだろうか?
船外にも近接用のカメラはついているが、
いまだそのカメラに映りこむほどの接近距離にはない。
そして・・・
彼らが何の手だても考えられないうちに「それ」は来た!
突然、宇宙船を、
膨大な光の洪水と、衝撃の津波が襲ったのだ!!
何が何だか分からないうちに、
彼ら三人、全ての者が光に飲み込まれ、
衝撃波によって、カラダを船内の壁に叩きつけられてしまう。
「っぐはぁっ!!」
それぞれが発した鈍い音が消えると、
そのまま何もなかったかのように、
船内は深い静寂に包まれた。
・・・彼ら三人の意識にも闇が訪れる・・・。
そして・・・。
この章はランディ編より長めです。