フラア・ネフティス編1 エア王謁見
パッパカパッパッパー♪
ドンチャンドンチャン♪
アルヒズリ王宮に音楽隊の行進!
テルアハの街を襲ったイルの大群を、
一人の死者も出さずに蹴散らした戦果は、あっという間に国内に伝わった。
しかもエア王の預言で示された若き戦士が、
たった一騎で戦況をひっくり返したのである。
こんな快挙は何年振りかもわからない。
そしてランディは、
丁重なる厚遇を以って、
テルアハの街からアルヒズリ王宮に向かうよう指示が出された。
・・・彼自身、王都に来るのは初めてだ・・・。
複雑なつくりの都市や城、
象が歩けそうなほど緩やかで大きな石の階段・・・。
そして何と言っても、
これまで見たこともないような大勢の人々が、
街道沿いや家の窓から馬上の自分に向かって笑顔を向けている・・・。
どうしてこんな事になっちまったんだ・・・?
先の戦いでは兜を外していたのだが、
さすがにここでは恥ずかしさの為に兜もかぶって行進する・・・。
彼は照れ隠しのため、
意図的に無表情を装い、
その兜で顔を隠したまま王宮に参内した。
文官だか召使だか分らない格好の男に案内されて、
大広間の控えの間で待たされる。
どうやら国王エアに謁見する準備を整えているようだ・・・。
オレ・・・
そこまで目立つ事をしでかしちまったのか・・・?
なるべく緊張や気弱さを隠しながら、
ランディは案内してくれた男に、
宮廷でのマナーやタブーを聞き始める。
勿論、ある程度のマナーは祖父から聞いているが、
いきなりのことで、
どこまで自分が失敗を犯さないか、気が気でしょうがない。
今は胸のメダルの興奮効果は落ち着いてるようだが、
元来の臆病さは変わらずなのだ。
兜と武器は当然、外して・・・と。
案内人は、
そんなことは気にしてないようで、
笑ってランディの質問を受け流す。
どうやら今、
宮廷の人間はみんなハイになっているようだ。
少々の無礼講は許されるらしい。
・・・だが、
ランディはそんな気分にはなれない・・・。
いまだ自分がこうやって、
のうのうと生きている事が信じられないのだ。
忘れるつもりだったロゼッタの死に様・・・、
結局、彼女の死に顔は、
目に焼き付ける事さえもできなかった・・・。
きっと、恐怖と絶望で、
苦悶の表情を浮かべていたに違いない・・・、
それが怖くて、
胸元に刺さった槍と、
ただの肉の塊と化してしまったその胸より下しか、
自分の視界に収める事ができなかったのだ・・・。
そしてディジーの自分を呼ぶ最後の叫び声・・・、
ローリエの無言の抗議・・・。
目を瞑れば、
生々しくその光景が思い出される・・・。
確かに生き死にの戦闘時や、
他の事に集中できるのなら、
しばし忘れる事もできるのだが・・・。
そうこうしている内に、
お召しの時間がやってきた。
案内されるまま、
ランディは重い鎧のまま、
ゆっくり、一歩ずつ王宮の大広間の入り口をくぐった・・・。
パチパチパチパチ・・・!
溢れんばかりの拍手と歓声・・・。
自分の前を先導役の男が歩いているので、
立ち止まる位置は心配しなくていい。
赤い絨毯が敷き詰められたその道の両側に、
アルヒズリきっての重臣や貴族達が並んでいる。
そして先導役の男の先に・・・、
豪勢な玉座に座った老王・・・
エア王の姿が目に入った!
先導役は振り返り、ランディに一礼をとると、
赤い絨毯の道を引き返す。
いま、ランディは、
「神に愛された王」エアの前に直面したのである。
小柄な老人の姿からも、
この国を治めてきた圧倒的な威厳は、
初対面のランディでさえも感じ取れる。
左右の笑顔を浮かべる貴族達とは対照的に、
この赤い絨毯の一直線上にいるエア王とランディ・・・、
彼ら二名だけが神妙な面持ちで向かい合っていた。
段取りや礼儀などではない・・・、
ランディはまるで自然な動作でひざまずいた。
この方こそ・・・自分の仕えるべき王・・・
この鎧に身を包んだ自分こそ・・・、
これから自分の身を立てる本当の姿だ・・・。
彼の直感が全てをスムーズに行動させる・・・。
そうだ・・・これがオレの・・・
本当の・・・あるべき姿なのだ!
だが、それは俗にいう忠義の心とは程遠い心情だ。
何故なら、・・・こうして自分を消してしまえば、
あの忌まわしい過去に苛まされなくて済む・・・
恐らくランディは、
無意識のうちに、そう願っていたのかもしれない・・・。
それが、ランディがエア王に忠誠を誓う本当の理由、
いずれ、彼自身それに気づくだろう。
だが今は・・・。
「・・・かような姿での拝謁・・・、
真にご無礼をお許し下さい・・・!
勅命によりまかりこしました・・・、
ランディ・サラフェディーニと申します!」
その言葉とともに更なる拍手の渦が。
・・・だが、
しばらくすると拍手の途中から、
場にそぐわないざわつきが起こり始めていた・・・。
どうもランディの苗字のことが原因のようだ。
辺りから「サラフェディーニ」の単語が要所要所に湧き上がる。
そうか・・・
自分の先祖はこの国の大貴族だったそうだからな・・・、
それを知っている者もいるのか・・・。
中には嗚咽の声を漏らす者もいる。
「おおお、あの鎧は・・・
まさしくサラフェディーニ家が代々伝えてきた漆黒の鎧・・・!」
城内の騒ぎはますます大きくなっていった。
次回、エア王のお言葉です。