フラア・ネフティス編1 甦る遺産
またもやぶっくま、ありがとんです!
・・・そのまま、
シャル爺さんは目を見開いたまま・・・、
全ての動きを止めてしまった・・・。
呼吸も・・・心臓も・・・
眼球の動きでさえも・・・。
最後の力を振り絞って、
愛する孫に全てを伝えたのだろう・・・。
爺さんは前のめりに・・・孫ランディに半分抱えられるように、
そのまま・・・
土ぼこりの立つ地面に崩れ落ちる・・・。
「・・・爺さん・・・。」
ランディもまた、次の行動が起こせなかった・・・。
心の整理がつけられないでいたのだ・・・。
家族同然に暮らしていた女たちを見殺しにし・・・、
そして今オレは、
その手で本物の家族を殺した!?
これで・・・本当に 一人・・・。
もう・・・彼には何も残っていない。
子供のころは怒鳴られたり叱られたり怖い記憶もあったが、
一緒に羊を追っかけたり、いろんなことを教えてくれた爺さんだったではないか?
それを・・・自分の手で殺した。
それは子供のころの大切な思い出を、自ら捨て去る・・・無価値にしてしまったことに他ならない。
シャル爺さん・・・、
オレに何を期待してるんだ・・・。
オレがアンタを殺せば、
オレの目が覚めるとでも思ったのか・・・!?
確かに、もう、
生きてても仕方ない・・・、
死にたくは、そりゃあないさ・・・、
でも、他にはもう、オレに何も残ってない・・・。
誰のせいだ!?
オレか!?
全部、くだらねぇオレが招いた事なのか!?
ちくしょう!
ちきしょうっ!
・・・くそったれがぁあああ!!
なら・・・
そうだよな?
せめて・・・せめて奴らを・・・!
イルのケダモノどもを一人でも多く道連れにしろってことか!?
オレが誰も守る事が出来ねぇ役立たずのろくでなしなら・・・、
せめて、
あいつらを地獄の底に叩き落してやればいいんだよな?
だが、すぐにランディはあの忌まわしい記憶を思い出す。
・・・無理だよな・・・。
どんなに勇ましいセリフを吐いたって、
どうせ、いざとなれば足がすくむ。
もう自分の正体はわかっているんだ。
今度はどんな言い訳を作る?
その前に、もうそんな言い訳を言い繕う相手もいないか・・・。
このまま爺さんの跡を継ぎ、誰にも関わらずひっそりと羊を追って生きていく方が利口じゃないのか?
そこまで考えた時、
ランディの視界に祖父の首元の鎖が映った・・・。
そう言えば、胸に血筋を証明するものが・・・だと?
ほとんど無意識にその鎖をたぐる・・・。
祖父の胸元から現われたのは、
装飾品とも思えない直径10センチ程度の大きなメダル?
ランディがそのメダルのデザインを確認しようと、
直接その金属を手に触れたとき、
ド ッ ク ン !
彼のカラダに何かが走った・・・!
「・・・!?」
な・・・なんだ、今の衝撃は!?
心臓の鼓動の勢いが、
いきなり倍になったような感覚・・・。
そしてその波は指先から足のつま先にまで及ぶ・・・。
「まさか・・・この首飾りが・・・?」
再びそのメダルに手を触れると、
間違いなく先ほどの感覚が・・・!
ドックン ドックン! ドックン!!
血がざわめく・・・
全身の毛が逆立つ・・・!
体中の筋肉が張り詰めていくっ!
まさか・・・
爺さんが驚異的な力を繰り出したのは・・・
こいつのせいか!?
自分でも分る・・・。
この金属が、恐怖心ではない他の何かの・・・
荒々しいエネルギーを駆り立てている!
破壊衝動!!
直径10センチ程度のメダルの表は凸状に盛り上がり、
そこには十字架の頭部を変形させたような浮き彫りが・・・。
何故爺さんは、
こんな奇妙な金属を持っていたのだろう・・・?
いや・・・今はそれより・・・。
冷静さまでは失ってはいないランディは、
次に爺さんの最後のセリフを思い出した・・・。
納屋の地下倉庫?
そういえば入っちゃいけないと、
子供の頃教わったような・・・。
ランディは爺さんの死体をそこに置き去りにし、
そのまま納屋に向かう・・・。
確かに地下への閉ざされた入り口がある。
子供のころ厳しく言いつけられたせいか、
今までそんなものがあったかと、まるで認識していなかった。
鍵がかかっている・・・。
ランディは一瞬、鍵を探す事も考えたが、
まるで予定された動作のように、
力ずくで入り口の鍵を扉ごと粉砕した・・・!
パワーが極端に上がっている・・・。
梯子は納屋に置いてあった物で十分間に合った。
ゆっくりと下へ降りていくと、
上からの光で見えるもの・・・見えないもの・・・。
いや、
段々、暗がりでも目が慣れてゆく・・・。
そこには、
戦いに赴くための全ての道具が揃っていた。
手入れも殆ど定期的に行なわれていたようだ、
・・・シャル爺さんは、
ランディがいつか、
これらの武具を使うと願っていたのであろうか?
先端に槍のついたギザルムと呼ばれる両刃斧、
騎馬のための鐙・・・鞍・・・装身具・・・
そして・・・さらに、
ある・・・。
そこに何かある。
この存在感・・・!
ランディは吸い込まれるように手を伸ばす・・・。
冷たい・・・固い金属の塊・・・。
黒光りする鎧だ・・・、
兜もある・・・。
それには老山羊をも思わせる2本の角が生えている・・・。
アルヒズリ軍隊の正規の防具ではない・・・。
鎧や兜には不気味な蛇の意匠が彫り込まれている。
兜の額部分、鎧には右肩、左肩、腰に三つ、右膝、左足首、
・・・合計八か所の蛇達・・・。
そう、かつて古代神の末裔と呼ばれた青年が身に纏っていた、
忌まわしき暗黒の防具・・・
『ルドラの鎧』がそこにあったのだ・・・。