フラア・ネフティス編1 祖父の決意
「な・・・!?」
見えなかった?
な、なんだ今の太刀筋は!?
「・・・まだ怒る事はできるんじゃな?
だが、剣の刃を見せ付けられただけで、すぐにまた臆するのか!?
・・・なんという無様な有様よ・・・!」
ランディの心にまたも臆病さが顔を覗かせた・・・。
「死」の恐怖・・・。
だが、相手はもう、
野良仕事しかできない老人のはずだ・・・、
剣の鍛錬こそランディはさぼっていたが、体を鍛える事は怠った事はない。
真剣に戦えば老人をあしらう事ぐらい容易いはず!
考え込んだ挙句、
ようやく剣を取り立ち上がるランディ。
瞬時にランディは作戦を整えた。
・・・爺さんは子供の頃から剣術を学んでいるので、
小手先のテクニックを使うことがある。
ランディもその技を学んでいるが、
いまだ自分が教わってない技もあるかもしれない・・・。
ならば早々にケリをつける!
一撃目・・・又は二撃目までに、
圧倒的なパワーで爺さんの剣を弾き飛ばすのだ!
「・・・わかったよ、
さぁ! 来いよっ!」
「覚悟はできたようじゃな・・・!」
・・・1~2秒、少しの間があった・・・。
だが、
すぐに老人の片目の眼光がランディを射抜く!
「うぉおおおおおおっ!!」
怒号とともに飛び掛るシャル爺さん!
あまりの気迫に呑まれるランディだが、
彼の反射神経は鈍っていない。
予定通り、全力で爺さんの剣を弾き返そうとした・・・!
だが。
ガキィィンッ!
「なっ!?」
剣を持つ腕ごと弾かれた!
・・・その腕を弾かれたのは、
あろうことか若きランディのほうだ!
驚愕している暇もない、
すぐさま爺さんの第二撃・・・!
ランディは、
この信じ難い現実を理解も出来ずに防戦一方となる。
こ、このパワーは何だ!?
いまや、自分のほうが体格もでかく、
力仕事だって毎日繰り返して、
筋力もアップさせているはずなのに!?
続く老人の連続攻撃に辛うじて剣先を合わせるも、
どんどんランディは後退して行く・・・、
その瞳には驚愕と恐怖の色が・・・!
「な、なんだよ、爺さんっ!!
この力はぁっ!!」
「これが先祖代々受け継がれてきた誇りの重みじゃぁ!!
貴様がその名誉を地に落とした・・・なぁっ!!」
「クソがぁぁぁッ!!」
ようやくその剣撃を受け止める事に成功し、互いの剣は二人の間でせめぎ会う!
互いの腕も刃先も震えてる・・・。
一見互角のパワーに見えたが、
ここでもやはり段々と爺さんのパワーが上回り始めた・・・!
「そ・・・そんなぁ!?」
「うらぁぁあっ!!」
力の均衡が一気に破られ、
勢いあまって尻餅をつくランディ!
既に彼の心はパニックを起こし何も考える余裕は無い・・・!
その瞳は恐怖の色を浮かべ近づく祖父の姿を映すのみだ・・・。
「あ・・・あ・・・あ・・・?」
「覚悟は良いな・・・我が孫よ・・・!
あの世で両親に侘びるが良い・・・!
さみしがる事はないぞ?
ワシにも責任はある・・・。
お前をあの世に送った後・・・、
このワシもすぐにお前の後を追ってやる!!」
あ・・・あ、
ダメだ・・・爺さん・・・本気だ・・・。
こ・・・殺される・・・
殺される・・・殺される?
せ、せっかくイル兵から助かったのに?
な・・・なんで?
オレ? 嘘だ・・・
こんなのおかしい・・・いやだ!
やめて・・・っ!
爺さん、助けてぇっ!!
「さらばじゃ!! ランディッ・・・!!」
「ゥ・・・ワァアアアアッ!!」
ザクゥッ!!
・・・
・・・・・・
「・・・あ?」
剣を握るランディの手に嫌な感触・・・、
そして自らの意識はあるのに痛みがない・・・。
・・・彼は目を瞑ってしまっていた。
「い・・・まだ生きてる・・・?」
ランディがゆっくりと目を開けたとき、
そして彼がその状況を理解するのに、しばらくの時間を要した・・・。
自分の左頬の隣には爺さんの腕と剣が伸びている・・・。
いつの間にか、小屋の壁際にまで追い込まれていたようで、
爺さんの剣はそのまま小屋の壁に突き刺さっている。
・・・そして・・・、
ランディの右腕に握られていた剣は、
ランディの祖父・・・
シャル爺さんの胸中央付近に、深々と立てられていたのだ・・・!
「あ・・・あ、じ・・・爺さん!!」
老人は薄く笑みを浮かべている・・・。
「ランディよ・・・これが命をかけた戦い・・・
わしがお前に教える最後のもんじゃ・・・!
よく・・・覚えておけ・・・!」
「あ・・・あんた、わざと!?」
「グフッ・・・い、いや?
ワシは振りかぶった分、遅れが生じた・・・、
お前は真っ直ぐ、腕を突き出した・・・、
それだけ、じゃよ・・・。」
「ああ・・・あ、シャ・・・シャル爺さん・・・!」
「気に するな・・・
それより、我が孫よ・・・
お前は 世に羽ばたかねばならん
ワシの胸の首飾り・・・ 取ってゆけ・・・
そして、納屋の地下に・・・
武具も揃って いる
それで・・・この国アルヒズリを・・・
エア王を・・・たのむぞ・・・
我 が 孫 よ・・・! 」
「お、おい! 爺さんっ!!」
ついに家族すらその手にかけたランディ。
ただ、ランディの悲劇はこの事件で最後です。
・・・とりあえず、ですがね。