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フラア・ネフティス編1 娼館の用心棒


ここは砂漠の国アルヒズリ・・・。

その東南に位置するちっぽけな町だ。

交易の主なルートからも外れ、

取り立てて農産物が豊かと言うわけでもない。

強いて言えば、

町中でもあんずが結構生えてるので、

収穫の時期は遠方に商売に出かける。

後は牧畜が主だが、

これでもなんとかやってける。


いま、彼らが働いていた館・・・。

それは、このちっぽけな町の中でも外れに位置する。

周りに民家はない。

理由がある。

それは、この館が、俗に言う売春宿だからだ。

誰が最初に、そんな商売を始めたかはもうどうでもいいが、

この館には5人の売春婦と、

一人の用心棒兼雑用係、

そして、最近流れてきた病弱な母親と娘、

・・・その8人で暮らしている。


性には厳格なこの国も、

ある程度は大目に見られている部分はある。

それは町のモラルや風紀を乱さないこと、

それを暗黙の条件として経営を許されているのだ。

 

なぜなら、

この国は平和ではないから・・・。

北方から、

蛮族イルがしばしば侵略を繰り返し、

多くの兵隊や女子供が犠牲になっているのだ。


夫や家族を失った者・・・

家や住む場所を失った者は決して少なくはない。

このちっぽけな町・・・、

クエタは人口も少なく、

イル族もこんな所まではさすがにやってこない。

故に、戦を逃れるために、

宛てもない女たちが流れ着いた場所・・・、

それが、ここの売春宿なのである。

子持ちのレィチェルがやってきたのは、

さすがに全員どうしていいか躊躇したが、

病弱なレィチェルを突き放すわけにも行かず、

新しい家族を迎えながらも、

今まで通り、

この売春宿は陽気な営業を続けることになったのだ。

 


では次に、

この館のたった一人の男、

ランディについて見てみたい。

通常なら、

二十歳そこそこの健康な男子なら、

もっとまともな仕事に就いているか、

兵隊にでもなっているはずである。

何故、こんな若さで売春宿に勤めているのか?

勿論、彼は最初からこんな仕事を選んでいたわけでもない。


・・・彼はこの街の近くにある牧場で生まれた。

父親は若くして徴兵先で戦死、

母親も何年か前に病没している。

実家では現在、

彼の祖父が細々と羊を追っている。

子供の頃は、

両親も祖父も厳しいしつけをランディに施し、

幼心にはその反発心も生まれていた。

その頃には友人もたくさんいたが、

その友達の暖かい家庭の様子を見聞きするにつれ、

自分の暮らしに我慢できなくなり、

母親の死後、

しばらくしてから家を飛び出した。

 


 

・・・そして宛てもなく放浪して、

居ついた先がこの売春宿というわけだ。

自分で自分の事を、

ろくでなしだとの自覚もあるが、

下賎な仕事とは言え、

ある意味家庭的で、優しくも逞しい女性たちに囲まれる暮らしも悪くないとは思っている。


曽祖父の代までは、

王宮を守る高名な将軍職の家系だそうだが、

没落したのはそのご先祖様の責任であって、

自分には関係がない。

爺さんの跡を継いで、

羊の世話をしていてもいいのだが、

暖かい家庭に飢えているランディには、

大勢の人間とコミュニケーションをとれる仕事が大好きだった。

自分の事も陽気で社交的だと思っているし、

女好きと言われても否定しようとも思わない。


実際、

・・・それぞれ暗い過去を持つ女性たちは勿論、

よくやってくる馴染みの客も、

他人には言えない秘密を持ってしまうためか、

ランディとは、あっという間に気心が知れる間柄になる。

売春宿の大体の客は、

この街よりも近郊の別の街からの者が多い。

行商やキャラバンなどが、

旅の行き帰りなどにここを使うのが便利だったからだ。

 


 

 「おーい、ランディ、

 今夜はロゼッタ、空いてるかい?

 明日の昼前ぐらいまで頼みたいんだが。」

 「やぁ、シディキさん、久しぶり。

 ああ、今夜なら彼女は大丈夫だ、

 商売、うまくいったんですかい?」

 「ヒッヒッヒ、

 おかげさんで高値で売れたよ、

 家に戻る前に自分にご褒美をやらんとな?

 ロゼッタにもお土産買ってきたんだ。」

 「そぉりゃ彼女も喜びますね、

 じゃあ、仕度させてますんで、

 先にお部屋に入って休んでてください、

 ・・・えーと、今は2番の部屋がすぐ入れるかな、こちら鍵ね?」


中には柄の悪い客もいる。

当然、そんな時もランディの出番だ。

一対一なら誰にも負ける気がしない。

 

幼い頃から、

厳しい家庭で武芸の訓練を受けていたし、

実際、今までケンカで一度も負けたことはない。

巨漢の兵士だろうが、

手のつけられない酔っ払いだろうが、

ルールを乱す客には容赦しない。


 この館や女性たちを守る事こそ、

 自分の存在意義である。


彼にとっては、

先祖の名より、

この館の住人の方がはるかに大事であったのだ。

故にレイチェルに「俺たちは家族だ」と言ってのけたのは、

常々彼が思い続けていることで、

決して大げさではない。

仕事そのものは下賎なものかもしれないが、

これだけの身寄りのない女性たちを守り続ける事・・・、

それだけが彼、

ランディの誇りであったのだ。

 

 

勿論、ランディも若い男だ。

人並みに性欲もあるし、

夜働く女性達の姿態や喘ぎ声に心惑わす事もある。

だが、

彼女達の誰かに一度でも手を出せば、

下手をすると、この館の和を乱す怖れもある。

・・・ゆえにそーゆー部分から来る衝動は、

彼なりに必死に耐えていた。

まぁ・・・将来はどうなるかわからないが、

その時はその時だ。

ところが、ここまでは彼自身の考えに過ぎず、

当の女性たちの思いも様々だ。

・・・例えば今夜はこんな事が起きた。


 コンコン!


 「・・・ん? 開いてるよー? 誰だい?」

 「あったっしっ、ロゼッタだよっ。

 ランディ、寝てたかい?」

扉を開けて、

シースルーのキャミソールだけのロゼッタが入ってきた。


 「いや、本を読んでただけ・・・

 ってお前、その格好はなんだぁああああぁっ!?」

 

 「たまには仲良くしよーぜぇ? 

 もう、オヤジ達の相手も疲れてさぁ?」

 「・・・おお、お前、今日は公休だろう?

 自分の部屋でゆっくり休んでたほうがいーんじゃないのかっ?」


 「あー、カラダってよりもココロが疲れててさぁ、

 ここでダラダラさせてよ。」

 「あーあーあー、お、お前なぁ・・・、

 オレだって健康な男性なんだぞ!?

 オレの理性にも限界ってモンが・・・!」


 「いーよー? 好きにしてくれても?

 そんかわり、アタシは寝てるだけでもいいかい?」

 「そーゆーことじゃねーんだよっ!

 他のヤツらに見つかったらどうすんだよぉ!?」


 「ああ、あたしから襲いに行った事にしといてやるよ、

 固い事ゆーなよ?

 たまぁにイチャイチャしたってバチあたんないって。」


あああ、ベッドの中、入ってきやがったっ・・・。

 「おまえ、お、オレがどれだけ理性を保つの必死で仕事してるか、

 わかってるのかっ?」

 



最初にこの話をアップした時、常連さんから、

「平和に話を終らす気はないんですね、わかります。」とサディスト認定されました。

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