第4章 レディ メリーと白い妖魔 第1話
舞台は現代日本です。
O田原市とかそこにあるショッピングセンターみたいな名前が出てきますが、
全くの無関係のような気もするので気にしないでください。
だから関係者の皆さん、私に刺客を差し向けないでね?
皆さんはご存知だろうか?
・・・神奈川県O市・・・、
ここには、このところ急速な勢いで信者を増やしている新興宗教、
「ダイナスティ」という教会の本拠地がある。
バイパスを降り、山あいの方へ車を走らすと、
古い紡績関連の工場跡地を買い取って作り上げた教会本部が見える。
工場といっても、
従業員20名足らずで操業していたようなので、
広さは学校の体育館の半分程度だ。
2階は面積が少なく事務室や休憩室、
3階は社長室等があるようだが、
今はもっぱら、幹部信者の寝泊りに使われているようだ。
外にはプレハブ小屋もある。
今日は、
月に一度開かれる教会主催のイベント、
受光式の行われる日だ。
このイベントは、
年会費を払っている信者はもちろん、
五千円の入場料を払えば一般の人間も見学できる。
ただし、
会場で行われる儀式に参加することはできない。
さらに言えば、一般信者といえども、
高額な参加費を払わねば、
教祖自らに与えられる福音を授かることはできない。
このイベントには何種類かの儀式が用意されており、
支払った献金額によって、
受けられる祝福に差があるというわけだ。
「はーい、一般の方のお席はこちらになりまーす!」
「はい、こちらで受付をお願いいたします、
はい、日浦・・・義純さんですね、
ご参加は初めてですか?
こちらのバッジをお付けくださいね。」
・・・見れば若い女性も多い。
宗教にハマりそうな「独特」の雰囲気を持つ子もいれば、
そこいらの若者と、なんら区別のできない者もいる。
年配のものは、儀式の準備に余念がない。
人員配置にも気を配っているようだ。
今、受付を済ませた男、日浦義純は信者ではない。
かといって、
現代社会に憂いを覚え、宗教に救いを求めた迷える子羊ですらもない。
仕事である。
それも、
他人にその素性を明かすことのできない、
特殊な事情に身を置いている・・・。
彼もまた、
この現代社会においては異端の存在なのである。
彼・・・日浦義純の表向き職業は探偵である。
普段は浮気調査、
人探し、時にはストーカーからの護衛なんてのも引き受ける。
仕事場は、
アルバイト含めて5人だけのこじんまりしたものだ。
では、彼の本当の仕事とは何なのか?
ここでは話がそれてしまうので、
最低限のことだけ皆さんに説明するが、
彼の雇い主は、
イギリスを本拠地とする非公式の財団である。
それは何百年もの伝統に支えられた、
宗教的秘密結社といっても差し支えない。
メンバーは王族・貴族・宗教関係者・財界人など、
数は少数だが、
国内・国外問わず各方面に、
多大な影響力を有する集団なのである。
・・・今、雇い主といったがそれも正確ではない。
この日浦義純も、
そのグループの重要なポストに就いているのだから・・・。
日本国内にいるそのメンバー数十人のまとめ役・・・、
その集団、
とりあえず「騎士団」と呼んでおこう。
その騎士団の極東支部支部長・・・、
それが、
探偵日浦義純の本当の肩書きである。
騎士団本部から受けた日本での活動指針の一つに、
今回のような、
カルト宗教の調査・分析が含まれている。
何故、そんなことを調べているのか?
・・・といった声には、
追って説明させていただく。
さて、現場に話を戻してみよう・・・。
・・・照明が暗くなってゆく。
会場には舞台が作られており、
壇上には演説台と、いくつかの椅子が用意されている。
「まるで学芸会だな・・・。」
実際に、学校のイベントといった手作り感丸出しである。
義純は自分の左右を見渡して、
ため息が出そうになった・・・。
(うわぁ、いかにもって感じのデブオタヒッキー、
・・・後は気の弱そうな青年・・・、
オレもおんなじように見られてんのかなぁ?)
華やかな信者と一般参加者のギャップが凄い。
原因は予想がついている。
この教会の「特色」は、
ネットやニュースで話題になっている。
ここに来ている者の半数は、
「それ」が目当てで来ているに違いないのだ。
「皆様、お待たせしました!
『ダイナスティ』 11月度受光式、
これより開催したいと思います。
まずは、
我らが守護戦士『ホーリークルセイダー』の
開戦の舞踏を披露いたします。
登場と同時に、
拍手を以ってお出迎え下さい。
・・・出でよ! 官能の戦士!
ホーリークルセイダーッ!!」
スポットライトが二筋・・・
舞台の左右の隅を照らす。
そこには、
煌めくマントを羽織った二人の女性がいた。
・・・二十台前半か半ばだろうか?
舞台の右手・・・赤いマントの女性が、
そのマントを外し空に放り投げる。
「愛と真理を守るホーリークルセイダー!
くれないぃ かすみぃぃぃッ!」
アナウンスの声が終わると同時に、
「紅かすみ」と呼ばれた女性は、
剣を左手にその場で一舞い踊る。(模造刀か?)
ウ オ オ オ オ オ オ オ オ ッ ! !
・・・またほとんど同時に一般参加席から驚嘆の声が上がった、
・・・続いて滝のような拍手・・・。
既に齢30を越した義純も目を丸くした。
「・・・さっそく・・・かい。」
思わず声が出る。
なんと、この女性・・・、
限りなく全裸に近い半裸なのである。
身につけているのは、鎧をイメージした下着
・・・とでもいうのだろうか、
手甲や、ショルダーカバーは装着しているが、
胸当ては、カップの部分を取り除いてあるので、
小ぶりだが・・・
形の良いバストが露わになっている。
「続きましてぇ!
知識と法を守るホーリークルセイダーッ!
いざよいぃ はるかぁぁぁッ!!」
見とれてはいけない。
もう一人の紹介だ。
舞台の左手・・・
青いマントの女性が、その衣を空に投げ捨てる。
続いてこちらの歓声も凄まじい。
「十六夜はるか」と呼ばれた女性・・・
彼女も剣を掴んで一舞いしたのだが・・・、
先ほどの女性と同じようなコスチュームなのだが、
・・・こちらは、
膝上30cmほどのマイクロミニのスカートで回転すると・・・、
下に何もはいてない!?
義純は思わず、
受付でもらったパンフレットと見比べる。
さすがに印刷物には局部を露出させてはいないが、
結構ギリギリの格好をした二人が写っている。
切れ長の目に、
華奢な細い体つきの「紅かすみ」と、
どちらかというと肉感的な、
唇も厚くD~Eクラスと思われる胸の「十六夜はるか」、
まさしくこの教会の看板娘が、このふたりである。
二人は音楽と共に同時に踊りだし、
舞台中央から壇を降り、
会場の中央までやって来る。
・・・これも彼らの売りの一つ・・・
「聖なる舞踏」なのだそうだ。
二人の踊りは激しさを増し、
時には二人で向かい合って踊り、
時には別々に、それぞれ観覧席まで出向いて踊る。
・・・まるでショーパブだ。
時々、
信者や一般参加の男どもに、魅惑的な視線を投げかけている。
痩身のかすみは、
胸に長い数珠のようなものを垂らし、
またそれが揺れる度に、
乳房や薄いピンクの乳首が刺激的に映える。
グラマラスなはるかの方は、
一応タンクトップをつけてるが、
浮き出るところが浮き出てあまり意味がない。
ひらひら舞うごとに、
胸や太もも、お尻の肉が揺れている。
・・・角度によっては下腹部の大事な所まで見えてるんじゃなかろうか。
会場を一周する頃には、
音楽のボリュームも静かになり、
二人は舞台の出入り口に戻っていった。
受光式は早くも熱い興奮に包まれている。
・・・今更だが、これがこの教会の特色である。
そしてこの先は、
もっとエロティックな儀式が控えている。
それに参加できるのが、高いお布施を払う者だけ・・・、
というシステムなのだ。
「・・・では、続いて・・・(緊張して)、
我らの指導者『天聖上君』小伏晴臣様ッ!
その忠実なる執行者『聖魔祭司』児島鉄幹様ッ!
お願いしますッ!!」
先ほどに負けないくらいの大きな歓声とスポットライト・・・
違うのは、
今度歓喜の声を上げたのは、信者席の女性達だということだけだ。
中高年から若い女性たちまでほぼ全員だ。
先頭は赤いフードのあるローブに身を包んだ男・・・
顔はほとんど見えない・・・、
彼がこの教会の教祖「天聖上君」小伏晴臣だ。
これまでの彼の経歴は、
一切謎に包まれている。
後に続いて現れた男が、教会のナンバー2、
毛髪のない初老の男性、児島鉄幹。
以前は地元の自動車会社に勤務していたが、
教祖と会って真理に目覚めたという。
教会内の、ほとんどの事は彼が仕切っているとの噂もある。
・・・この時点で、会場にいる誰もが・・・、
これから近い未来に起きる出来事を予想することができなかった。
それほどの熱気と興奮が、
早くも渦を巻いていたからである。
我々がこれまで姿を見てきた、
一体の「人形」が近づいている事に・・・。
この章は、新キャラ、日浦義純が前半の主人公となります。