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月の天使シリス編4 勧誘される朱武

 

宋公明のハイテンションは続く。

 「それで、李袞先生!

 あなたの拳法家としての実力は、

 かねてから聞き及んでおりますがが、

 この朱武君はどうですか?

 師範の貴方の目から見て?」

 「フム・・・、

 本人の目の前で言いたくはありませんが、

 資質は私を越えますね・・・。

 あと5年もすれば、

 私も太刀打ちできなくなるでしょう。」

これは李袞の本音である。

彼は若き朱武に、自分をも超える資質を見出してたのだ。


 「それは素晴らしい・・・、

 おっと、李袞先生、

 お酒の方はいかがですか?」

 「ああ、申し訳ありません、

 かつての怪我がもとで、

 肺が一個、潰れておりましてな、

 アルコールなどは控えているのです。」

 



 「これは失礼・・・!

 かつて言いますと、

 ・・・確か李袞先生は若いころは英領香港で軍隊経験がお有りとか?

 その時の・・・?」

 「これはお恥ずかしい・・・、

 いえ、まぁ、時期的にはその後ですな。

 これは私闘の方で・・・。

 それ以来、現役とはおさらばしております。」

 「なるほど、それでもこうやって、

 多くの才能ある若者を輩出させておるのですな・・・、

 いや、素晴らしい。

 ところで朱武君は、いくつの時に先生の所へ?」

 「それは・・・いくつだった、朱武?

 3っつの時か?

 妹の梨香はまだ立ち上がることもできなかったろう?」


ようやく朱武も会話に参加できそうだ。

 「先生、

 オレの生まれた日なんかわかんないんだから適当だよ、

 大体、そんなもんだろうって先生、

 いつかオレに言ってたよ?

 忘れちゃったのかよ?」

 「ああ、そうだったっけか、

 もう、物忘れが激しくてな、ハハ。」

 

そろそろ質問も細かくなり、

宋公明も遠慮を覚えたのだろう、

多少、申し訳なさそうに李袞たちに突っ込んだ。

 「あー、それで、大変失礼だが・・・、

 朱武君たち・・・妹さんもだが・・・、

 アレなのかな・・・、

 親御さんはどこの誰かとかは・・・。」


中国では二人以上の子供は認められていない。

勿論、賄賂を各方面に配るとか抜け道はあるが、

基本的には国家権力によって強制的に堕胎させられる。

もっとも、

中絶費用はかなり安いので、自分達の新しい生命の価値を重く見ない夫婦にとっては、

強制などと感じたりはしないのかもしれないが。


そして勿論、李袞の元へは、

そういう子供たちがやってくることもある。

生んでしまったはいいが、

父親の職を解雇されそうになったり、

経済的に生活が困難になった一家は、

子供を放り出すしかなくなってしまうのだ。

 

ただ・・・朱武達の場合は、

そういうパターンとはいささか趣を異にする。

 「朱武達は孤児です。

 両親はどこの誰かも分からないのですよ。」

 「・・・そうなのですか。

 彼は・・・他の漢人たちより、

 肌の色が白いですな・・・。

 この辺りの出自ではなさそうだとは思ったのですが・・・。」


李袞と朱武は一度、顔を見合わせる・・・。

朱武本人にとっては勿論、気になることだが、

両親を知らない自分には何も言うことができない。

一方、李袞にとっては、

もう少し情報を持っているのだが、

この場でそこまで言ってよいのか慎重になっていた・・・。


少なくとも李袞が、

朱武の両親はどこの誰かも分からない、

と言ったのは「嘘」である・・・。


 「宋大人・・・、

 本日、我々をお呼びいただいたのは、

 朱武をねぎらっていただくことでしたのかな?

 ならば、

 今後、我々の方でも大々的に宴を用意するつもりもありましたので、

 その時に宋大人をご招待させていただくことも・・・。

 あ、いや、それはお忙しい大人には難しいことなのでしょうかな?」

  

慌てて宋公明は顔の前で手を振る。

 「あああ、いやいや、

 そんな気遣いまで!

 いえ、実は・・・お願いがありましてな。」

 「はて? 我々に、ですか?」

 「ええ、

 特に朱武君にとっては良い話かと・・・。」


朱武は指を自分の顔に向ける。

 「えっ? オレに?」

 「うん、そう、

 その・・・どうだね、朱武君、

 今後、この宋公明の下で働いてみないかね・・・?」

 「え、・・・えええっ!?」

これは朱武も李袞も予想しなかった。

二人の驚きを他所に宋公明はスカウト活動を続ける。

 

 

 「確かにまだ君は15才だ。

 だが、いずれはどこかに就職をするわけだろう?

 この宋公明の下ならいろんなやりたいことができるぞ?

 私の下で政治を勉強しても良し、

 そんな難しい事を考えずに、

 拳法の修練を続け、他のガードマンの指導官も良し、

 私の身辺警護もいいだろう。

 勿論、今すぐじゃなくてもいい。

 だが、それを約束してくれるなら、

 今後、大学に行きたいと言っても、その費用は私が持つ。

 妹さんについても私が同様の待遇を保証しよう、どうだね!?」


 いや、どうだねったって・・・。

 ここは年長者の李袞に任そう・・・。


 「宋大人、それはこの朱武にとっては名誉なお誘いではありましょうが、

 いま、この場でいきなり問われても・・・。」

 「ああ、それはそうだ、

 私は性急すぎていかんな?

 だが少し考えてみてくれたまえよ、

 是非、いい返事を待っている。」

 

そこへ、宋公明の後ろに控えていた林沖が、

笑いながら間に入ってきた。

 「そんな難しく考えなくていいですよ、

 宋先生は拳法家や格闘技に目がないんです。

 この屋敷にはそんな人間が大勢集められていますけどね?」

宋公明はそれに合わせて笑っている。

 「いやぁ、何分にも、

 自分がそんなに強くなれなかったもので、

 ついついコンプレックスというか、

 憧れに近いものがあって、ね。」


こういうところが子供っぽい。

政治家らしく目が笑ってないのだが、

それなりに修羅場を渡ってきたのだろう、

威厳はそのままだ。


さて、大人の対応としては、

ここはお茶を濁し、また後日に・・・

というところであろうが、

若き朱武は、

ここでとんでもない無礼な発言を残してしまう。

 「お断りします。」

一同、全員息を飲んだ、

こんなはっきり、こんなタイミングで・・・。

 


宋公明は、

思いっきり梯子を外されて身の置き所がない・・・。

 「え、・・・これはまた、

 きっぱり断られちゃったな・・・、

 別に李袞先生と袂を分かてとか、

 そういうことじゃないんだよ?」

 「はい、オレもそういう意味としては捉えていませんが、

 宋大人の申し出はお断りします。」


忘れてはいないだろうか?

ここにはもう一人、アーノルド・シュワルツェネッガー漢民族版と呼ばれたわけではないが、

とてつもなく凶悪な風貌の李鉄が宋公明のボディガードをしていたことを。


 「・・・てんめぇええええええっ!!」

そこで後ろに控えてきた李鉄が、いきなり切れた!

立ち上がるとその巨体が完全に目に入る!

体重も120kgは下るまい!!

その李鉄がテーブルを吹き飛ばして、

座っていた朱武の胸ぐらを掴みかかったのだ!!

 「先生のせっかくの誘いを蹴るたぁ、

 どういう了見だぁっ!!」

 

李袞の肺が潰れている・・・


ええ、伏線ですよ?

あ、でもこれ伏線てのは違うか。


まぁ時系列で言えば、「南の島のメリーさんたち」→「メリーさんを追う男」の後の話ですね。

別世界の話ですけどね。

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