月の天使シリス編4 朱武と梨香
ぶっくまーくありがとんです!!
この章では「南の島のメリーさん達」に出演した李袞が出てきます。
パラレルワールドですが、同一人物と思っていただいて結構です。
なお、中国語発音は考えていませんので、
他の人物も日本語読みで構いません。
「朱武と梨香」ですね。
え?
どこかの登場人物たちと名前がかぶる?
さて、なんのことでしょう。
中国山東省のある一都市・・・。
そこそこ人口も多く、
最近は産業も発達し、高層ビルも増えてきたこの街・・・。
だが、主要道路の裏側にいくと、
前近代的な面持ちの、
古臭い家やビルがいくつも建っている。
たまに道沿いに、屋台やビリヤード台が置かれ、
ヒマなのかどうか知らないが、
真昼間から数人の大人たちが寄りついている。
そしてここはその路地の裏側・・・。
一人の少年が10人以上の男たちに囲まれている。
・・・いや、
正確には囲まれていた・・・と言った方が正しいか。
一人の少年を残し、
数分後には全員、道に這いつくばっていたからだ・・・。
ついこないだ、
日本で斐山優一が似たような状況に陥っていたが、
一つ、二つ違う点は、
こちらの集団は、全員が何らかの武術を身につけているということ。
あとは大人も混ざっているということか、
どちらにせよ、
その少年は自らの行為に満足を覚え、
ノックダウンされている彼らに向かって一言、
「オレ・・・最っ強!」とだけ言い放った。
少年の名は朱武。
子供っぽいと言われればそうだろうが、
まだ15、6の少年なのだ、
年相応と言えばそれまでのことだ。
ただ、・・・その瞬間、
彼の背後にいた一人の女の子が、
その言葉の終わりを見計らったように、
朱武の右わき腹めがけて強烈な回し蹴りを叩きこんだのだ!
バゴォッ!
「ぐおっ!!
り、梨香・・・っ! て、てめぇ・・・ぇ、」
朱武は脇腹を抱えて後ろを振り向く・・・、
演技などではなく本当に痛そうだ・・・。
彼の背後には、
朱武よりやや背の低い、
・・・まるでミカンのような丸い顔した女の子が突っ立っている。
「お兄ちゃん! また暴れて・・・!
道場以外でやっちゃダメって李袞先生に言われてるでしょっ!」
「しょ・・・しょーがねーだろっ!
向こうから絡んでくるんだからっ!
そ、それにしても梨香・・・、
お前いい蹴り打つようになったな・・・。」
苦しみまくる朱武を、
腕組みして偉そうに見下す少女、梨香。
「そりゃあ、
史上最高かつ全世界最強をのたまうお兄ちゃんの妹ですから?
それより、李袞先生が早く呼び戻せってカンカンだよ?
早く帰んなきゃ!」
二人は骨格はまるで違うが、目元は似ている。
年の差は二つ離れているかどうかだろう、
その言葉からすぐにわかるとおり、二人は兄妹だ。
二人は近くに止めてあった自転車を漕いで、
一目散に、彼らの住居兼道場へと帰って行った。
朱武だけ口元を歪ませ、
本当に痛そうではあるが・・・。
朱武が暴れまわった現場から道場までは、
自転車で30分ほどの距離だ。
日本の感覚では結構な距離かもしれないが、
悠久の大地で育つ彼らには大した遠さでもない。
彼らの師、李袞師範の営む道場は、
この辺りでも有名かつ大きな敷地を有している。
さて、朱武達が戻ると、
建物の前に黒塗りの大そうな車が止まっている・・・。
これって役人の車じゃね?
オレが呼び戻されたことと関係あるのか?
まぁ、とにかく中に入ろう・・・。
「ただいま戻りましたぁっ!」
朱武と梨香は、
二人並んで、道場の扉を開けて一礼する。
左の掌を右拳に当てる・・・、
これは右手が太陽を表し、左手が月を意味する・・・、
礼を受ける方に「明」という字を見せるわけだ。
まぁ、こんな若い者たちに、
そんな動作の意味はどうでもよいだろう。
今は平日の昼間だが、
既に多くの練習生がここで汗を流している。
年齢的には朱武は下っ端のぺいぺいなはずだが、
その才能と実績から、
この道場では師範代に相当する尊敬と地位を実際に得ていた。
「朱武さん、お帰りなさい!
先生がお部屋でお待ちですよ!」
「りょーかぁい! すぐ行くぅ!!」
かつて・・・
その強さと伝説を轟かせた山東の虎・李袞は、
その拳の戦いで大怪我を負って以来、
若い子供たちの育成を目的に、
この道場で多くの門下生を指導するようになっていた。
また、義侠心に厚い彼は、
親のない子供たちをここで保護し、
彼らが犯罪に走ることのないよう、適切な生活や規律も教え、
地元の人々からも尊敬の念を集めている。
実際、そのこともあって、
他の中国の同規模の街と比べると、
この街の犯罪件数は極端に低い。
そして・・・、
冒頭で紹介した二人の兄妹・・・、
彼らも両親を知らず、
物心ついた時にはこの李袞の元に引き取られていた。
特に朱武は、
李袞の下で才能をメキメキと伸ばし、
もはや師をさえ凌ぐのではないかという実力を身につけつつある。
だからと言って、
朱武が有頂天に師を見下したりするような真似はしない。
この道場で、
他の孤児達と家族同然に暮らした朱武にとって、
師の李袞は、本当の父親以上の存在になっている。
まっすぐに育った彼が、
その師に感謝、尊敬の念を持ち続けるのは当然のことだ。
・・・まぁ、多少はビクビクすることもある。
コンコン!
「・・・李袞先生!
朱武・・・! 戻りました!!」
「遅かったな、入りなさい。」
緊張した朱武が師の私室に入ると、
滅多に見る機会のない人民服を、
師の李袞が着用していた・・・。
驚いたのはそれだけでない、
見ればそこに一人の客がいる・・・。
道場の関係者ではありえない。
まだ若そうだが、地元の青年でもなさそうだし、
背筋の張り方は役人か警察関係者か?