月の天使シリス編3 蛇眼剣
ぶっくま、ありがとんです!!
優一は今も余裕の笑みを・・・。
「そのチェーンがお前の武器な?
で、それがオレに通用するとでも?」
「へっ、い、言ってろ!
いくらお前がすばやくても、
チェーンの動きより早く動けは・・・」
バチンッ!
「なっ?」
バチンッ!!
そのチェーンの先端が、
全て優一のロッドに弾かれる。
「確かに早いな・・・、
だが、一度弾かれたら次の攻撃までの隙はどうする?
わかってるだろうが、
オレのロッドは連続攻撃可能だぞ?」
「あ・・・そ、そんな・・・!?」
優一はここで初めて、
そのロッドを使い構えを取る。
形としてはフェンシングのそれに近い・・・!
ロッドを持つ右手を相手の鼻先に向け、
カラダをひねり相手に映る自分の姿を極端に小さく見せる。
・・・そう、
すると相手の視界に残るのはそのロッドの牙・・・、
そしてその奥に、
斐山優一のエモノを凝視する大きな瞳!!
斐山優一は小さく呟いた・・・。
「蛇 眼 剣・・・。」
その瞬間、優一の瞳孔が収縮する!
まるで・・・
蛇の瞳が変化するかのように!!
男は攻撃どころか思考すら叶わず!
肉食動物に魅了された小動物は、
身動きもできずに呑み込まれる!!
「う・・・うわああああっ!!」
やっと彼にできたことは、
パニックになって突進するだけ・・・
しかしのその結果は・・・。
今度の破壊部位は脇腹だった・・・。
相手の顔面を・・・いや、
その男の視界いっぱいに拡がったロッドの陰に優一は姿を消し、
敵が優一の存在を認識できないところで、
死角からその内臓を攻撃する。
そしてチェーンを腕に巻いた彼は、
可哀そうに・・・
腹部を抱え草むらにのたうちまわる。
これも自業自得だ。
・・・化け物相手に戦いを挑んだ結果・・・。
おとなしくしておけば、
こんな目に遭わなかったのに・・・。
まぁ・・・せめてもの情けか、わき腹にぶち込んだのはロッドでなく膝蹴りなのだけども。
斐山優一は、
何事もなかったかのように土手からあがってきた。
「救急車はいらないからな、
命に別条はない・・・。
ま、しばらくは寝たきりだろうけどね。」
まるで、
全て予定通りと言わんがごとくの優一の表情に、
鮎川も加藤もあっけにとられたままだ。
無理もない、
彼らはこんな荒事と無縁の生活を送っているからだ。
ただひとり、エリナだけが、
誇らしい笑みを浮かべて優一の帰還を待ち構えていた。
「優一さ、ま、あ、いえ、優一さん!!
素晴らしい動きでした!
お怪我はありませんか!?」
「・・・無傷さ、
エリナもどこもやられてないか?
加藤達も無事のようだな、
エリナ、よくやった・・・。」
優一さんに褒められたぁーっ!!
エリナは少女漫画のキャラのように瞳に星を瞬かせ、
優一に抱きつく寸前の衝動にかられる。
すぐに事態を察知した優一は、
視線を思いっきり醒めた状態でエリナを睨みつけ、
彼女の行動を制する。
しょぼーん・・・。
まぁ、いいや、
また家に帰ってから甘えちゃおう・・・
ダメかな?
優一は、
エリナはもういいと無視して、
次に加藤達を気にかける。
「山本は立てるか?
鮎川も、
まぁ男なんだからどってことあるまい・・・、
加藤は・・・
『前回』に比べればどぉって事なさそうか?」
そうなのだ、
斐山優一は常にぶっきらぼうで、
無表情で、
冷たい印象の方が強いが、
こんな状況で彼女たちを気遣う余裕を持っているのだ。
彼自身のポリシーなのか、
正義感なのかいま一つよくわからないのだが、
加藤恵子は改めて、
斐山優一の性質を再確認した。
やっぱりこの人って・・・。
更に優一は、
山本及び加藤をエリナに送らせた。
山本依子もショックが大きかったようだが、
きっと冷静に戻ったとき、
斐山優一の事を再認識するだろう。
鮎川クンも同様だ。
彼に関しては、
途中まで斐山が送っていったが、
彼も男の子、
道半ばで「もう大丈夫、あとは自分で」と強い意志で優一に断って見せた。
その強い目の光を見た優一は、
ふっと笑って別れを告げる。
「そうか、なら後は放っておく。
今日は悪かったな、
怖い思いをさせて・・・。
この後、とばっちりを受けるようなら、
遠慮なく言ってこいよ、じゃあな。」
「あ、ああ、
・・・ありがと・・・斐山・・・。」
あっ、やばい!
「さん」づけしなかった・・・!!
ついつい慌てたものの、
優一はまるで意に介すこともなく、
後ろを向いてとっとといなくなってしまう。
男同士とはいえ、いや、
男同士だからこそ、
鮎川クンは悪い気はしない、
むしろ、
いろんな意味で超強力な友人ができたのかも?
きっと、この日を境に、
高校一年生の彼らの交友関係は劇的に発展することになるだろう。
勿論、斐山優一が突然社交的になるわけでもない。
彼ら・・・加藤や鮎川クンが、
他のクラスメイトと斐山優一の間に介在することで、
斐山優一に興味を持つ者・・・
それらとの交流が始まるのだ・・・。
今のところ、
だからどうなるというわけでもないだろうが、
次第に斐山優一も、
他人と交流を持つことに、
抵抗がなくなっていくことは確かかもしれない・・・。
さて、
しばらくすると優一は、
携帯電話をエリナに向かってかけてみる。
ちなみにエリナの携帯は親に買わせたものだ。
「もしもし? エリナか、
そっちはどうだ?」
『あっ、ハイ、
無事に二人ともお送りしました!』
「そうか、ご苦労、このまま帰るぞ。」
『はぃぃ! 了解でえす!!』
エリナ
「蛇眼剣てなんですか?」
鮎川&ヨリ
「「厨二?」」
優一
「オレが考えたんじゃねーよ・・・っ!」