月の天使シリス編3 蹂躙
「エリナッ!」
「はぃっ!!」
優一の合図とともに、エリナが行動開始!
呆気にとられていた鮎川の周りにいた不良どもの一人の顎先を、
その彼女の白く長い足が、勢い付けて跳ね上げるっ!
すぐに我に返った他の者が、
エリナを抑えようとするが彼女も止まらない!
激しく彼女のカラダが宙を舞ったかと思うと、
スカートをひらりと浮かせながら、
またもやその魅惑的な太ももで・・・。
青少年の本能を刺激するこの技を、
彼らが防ぐ術は・・・ない!
またもや一人、ノックアウト!
どうやら向こうは任せて大丈夫のようだ、
ある程度エリナが信頼できることはこれでわかった・・・。
さて、残りは・・・。
斐山優一の周りを不良どもが取り囲む。
見ればその連中は、
吉見の下っ端というわけでもなさそうだ・・・。
それなりの実力者も彼は集めてきたに違いない。
そして彼らの手には武器を持つ者も・・・。
「・・・吉見は素手で相手してやったが・・・、
そんなエモノを持ってるってことは、
お前らも覚悟はできてるんだろうな・・・?」
土手の上で鮎川達は、
エリナの戦闘に巻き込まれまいと、
三人固まったままであるが、
加藤だけはこの瞬間を見逃さなかった、
優一の顔が、
舌なめずりでもするかの如く、にやついたのを!
斐山優一は右手を学生服の腰の間に差し入れ、
一本の警棒・・・
伸縮性の金属ロッドを取り出した!
カラダも小さく、
見た目にも強そうに見えない優一が無敵を誇ってきたわけ・・・、
その理由の一つがこれだ。
彼は、素手でも無類の敏捷性からくる強さを持つが、
多勢を相手にする時は、
捕まらないように敵を一撃でしとめる必要性がある。
・・・つまり、
彼がこのロッドを手にした時は、
相手は一瞬で叩きのめされることになる・・・!
警戒したまま不良どもは、
少しずつ輪を狭めて優一を包囲しようとするが、
大人しくそんな敵の戦術に身を任せる優一でもない。
周りを一瞥すると、
何の前触れもなく手近な相手に・・・
まずはメリケンサックのお前!
「うっぎゃあっ!!」
目にもとまらぬ二連打でその男の拳は砕かれる!
止めは喉元に鋭い蹴りを・・・
「うおおおおおっ!」
続いては、これも大柄な男が素手で飛び込んできた。
見れば両手を優一に広げ、
ある程度のダメージを覚悟してまで捕まえようとしているではないか。
柔道かレスリングでも?
優一はロッドを男の鼻先に・・・
わざとスローに・・・・
当然、男はそのロッドを払うか捕まえようとするが、
それは優一の誘い水、
彼の狙いは男の股間に・・・
強烈な金蹴りぃ!!
・・・暗黙の了解というか、
こういうケンカにもそれなりのタブーがある筈だろうが、
優一には慈悲という心もないのか・・・。
白目を剥いて倒れかかる男の延髄に、
さらに追い打ちのエルボー!
またもや土手に哀れな男のカラダが崩れ落ちた。
もう、彼らに恥も外聞もない、
ヤンキーどもは一気に全員で優一に襲いかかる!
土手の上では、
エリナがその場の全員をノックアウトしていた。
一応、鮎川クンも、
倒された相手が起き上がってこないか、
男としての最低の役目だけでもこなそうと頑張っていたのだが、
もはやその必要すらなさそうだ。
「皆さん、距離を取りましょう!」
エリナは加藤達を立たせると、彼女たちの場所を移動させる。
倒した男たちへのダメージは、
優一が戦闘不能にさせた男たちと比べると、
それほど悲劇的なものではないので、
彼らがいつ起き上がってくるか、という不安があったからだ。
その後、加藤達が移動しつつ目撃するのは、
土手の下で、あれよあれよという間に、
優一が不良どもを一人ひとり、片づけていくその姿!
・・・それはまさしく疾走する灰色の狼っ!!
「つ・・・強ぇぇえ・・・。」
思わず鮎川クンの口から言葉が漏れる。
加藤もヨリも、
噂に聞くだけで、優一のバトルを見るのは初めてなのだ。
あんな華奢なカラダで、
不良どもの頂点に君臨していたこと自体、
不思議に思えていたものだが、
この光景を見て全て納得する。
・・・他人からの攻撃が当たらないのだ!
金属バットを振り回そうが、
背後からゴルフクラブを打ち込もうが、
悉く優一はそれを避け、
まるであざ笑うかのように草むらを駆け抜ける。
そして、流れるような動作でカラダを切り返しては、
一撃で相手のみぞおちにロッドを打ち込み、
また一人犠牲者を増やしていくのだ。
「ち、ちくしょう!!」
土手の下に控えていたバイク乗りが優一に襲いかかる!
彼もこれで優一を轢いてしまおうなどとは思っていない。
ビビらすか、
うまく態勢を崩して、他の奴が捕まえやすそうにしよう、
・・・そう狙っていたのだが、
この場にあっても優一は何ら動じる気配がない、
いや、むしろ・・・。
斐山優一は、
真正面から向かってくるバイクに微笑みかけた・・・。
「さぁ、来いよ・・・。」
「てっ、てめぇ死にてぇのかぁっ!?」
「そんなノロいスピードでオレを?」
その瞬間、
いきなり優一のカラダが消える!
「あっ? ど、どこへ 」 消えたっ?
と、最後まで声を出すことはできない。
バイクの男の背後に優一のカラダが・・・!
斐山優一はぶつかる直前、
空中へ宙返りをしてカラダを舞わせ、
運転する男の背後に飛び乗ったのだ!
「うわっ、ど、どうやって!?」
「おい、おい、ハンドル気をつけな?
真っすぐ走れよ、さもないとぉ・・・」
悪戯っぽく笑う優一は、
男の腕を無理やり動かし、
まだ、土手で無事な姿の不良どもに向かって・・・。
「わっ、おい、やめろぉ!! お前らどけぇ!!」
「・・・フッハッハッハ、アーッハッハッハ!!」
あれほどいた不良達があっという間に・・・。
バイクが衝突する直前、
斐山優一は優雅に草むらに降り立ち、
衝突現場を楽しそうに眺めている。
もう残る不良どもは一人か二人・・・、
それも気がつくと、
また優一に打ちのめされている・・・。
一応、みんな倒れているとはいえ、
ウジ虫のように、
もぞもぞ動き続けているところを見ると、
死人は出てないようだけど・・・。
そして、最後の一人だ・・・。
「ひっ、斐山!
て・・・てめぇ、バケモンか!」
「バケモン? 今さら何言ってんだよ?
知らなかったのかよ、
自分が何に挑もうかというのをよ?」
最後の男は拳にチェーンを巻いている・・・。
打撃用というより、そのチェーンを振り回して、
相手の肉をこそぎとる目的だろう。
彼はそれをブンブン、
必死に振り回して精一杯の威嚇をする。
だがもはや、
この先の展開など誰の目にも明らかだ・・・。
以前、斐山優一の人格は、
メリーさんシリーズに登場していた時とは別ですと書きましたが、
当然、能力も別物です。
彼が人間である内は、
「白いリリス」や「メリーさんを追う男」で見せたような能力は使えません。
・・・まぁその片鱗は、徐々に現れるかもしれませんが・・・。