月の天使シリス編3 監視する者
今回、分量少な目です。
代わりにエリナのブルマ姿を・・・。
一方、
朝田の動きは完全に硬直していた・・・。
当たり前だ、
あのひ弱に見えたチビが、
いきなり校内新記録を立ててしまったのだ。
それも今まで他の種目では、
完全に普通の数字しか出ていなかったのに・・・。
そして加藤は、
ぼうっと突っ立っているエリナの元にダッシュ!!
「エリナちゃん、見たぁっ!?
斐山君やってくれたよ!!
あたし、
あなたが斐山君のために怒ったんだってこと伝えたら・・・、
それだけで、彼ったら・・・!!」
エリナの瞳は滲んでいる・・・。
指先や唇も小刻みに震えているようだ・・・。
「・・・ホントに・・・優一さんが・・・?
私のために・・・!?」
もう、エリナは泣き出す寸前だ・・・。
そしてそんな姿を気にすることもなく、
優一は次の砲丸投げに挑戦する。
だがいくらなんでもこれは・・・、
軽量級かつ165もない身長の彼ではどうにもならないはず・・・。
ギャラリーも一緒だ。
さすがにこの時間の最初の斐山の姿には、
誰も興味を持ってすらいなかったが、
いまや男子も女子も、
この競技ではどうなるのか・・・、
誰もが自分の残った種目を計測するのを忘れて、
彼の動作に見入ってしまうのである。
だから、本気を出すの嫌なんだよ・・・。
優一の本意は中学の頃から変わっていない。
何故、
自分がこれほどまでの能力を誇るのか・・・、
特にカラダを鍛えてきたつもりもない。
ケンカや無茶をする時には、
その能力を存分に使うこともあるが、
基本的に弛まぬ努力なんてものは程遠い。
ただ、自分がその力を解放すると、
周りの人間はついてこれなくなる。
勿論、単純な力比べだと、
朝田などには敵うわけもないだろう。
だが、彼はカラダで理解していた。
どうやってカラダを動かせば、
最も効果的に力を生み出すことができるのか・・・。
そしてこれは本人も気づかぬことであるが・・・、
彼の本能的な筋肉の力の発揮の仕方・・・、
それは普通の人間が、通常引き出すことのできない・・・、
筋力の限界までそのパワーを発揮することが可能であったのだ。
こんなに注目されて、
もったいつけるのも柄じゃない。
優一は軽く準備運動を行うと、
足場を確認して、
あっという間にその堅く、重い鉄球を空に向かって撃ち放った!!
「・・・おっ!?」
「おおおおっ!?」
「お・お・お・お・おお!?」
ドッザッァン!!
「じゅ・・・15メーター65ぉっ!?」
またもや朝田の記録を軽々と打ち破ったぁ!!
しかも満場の衆人の見守る中、
その記録は堂々、二クラス内でトップの数字を樹立し、
朝田の野望は完全に砕け散ってしまう!
「「きゃああああっ!!」」
加藤のみに留まらず、
いつの間にかヨリも大狂喜乱舞!!
エリナに至ってはついに泣き出してしまった!!
「ゆ・・・優一さんっ!!」
加藤もヨリもエリナを抱きしめて、
「良かったね、良かったねっ!」
と優しく言葉をかける・・・。
「わ、わたし、優一さんが私のために?
・・・、い、いいえっ、
それも嬉しいですけど・・・、
そんなことより、ゆ、優一さんがぁ、
優一さんがホントに優しいんだって、
みんなに証明できて・・・
それが、それがホントに・・・っ!」
そうだよねっ!
ホントにホントだよね!!
加藤恵子も、
なぜかエリナと同じ気持ちだった・・・。
斐山優一がこれまで示してきたその姿・・・、
それは本当の彼の姿などではなく、
実は結構、いい奴かもしれない・・・。
そのわずかな想像が、
真実であると徐々に明らかになりつつある・・・。
しかもそう!
前から思っていたが、
斐山君の顔つき美少年度は芸術クラス!!
おそらくこれからは・・・、
彼の過去を知らない女子連中からは、
アイドル並の人気が沸騰するに違いない。
だけど、その彼の本当の姿を知る人間は、
このエリナちゃんと・・・
きっと自分だけ・・・。
加藤恵子は、
妄想を膨らませて自分の世界に入り込んでしまった。
まだそれが、
優一に対する特殊な感情だとは自覚できないまま、
この高校、このクラス、この仲間たちと過ごせることにワクワクしながら、
高校生活を続けることになる。
さて、この校庭での騒ぎを、
一部始終観察する目がここにあった。
・・・学校の三階にある図書室・・・。
そこから一人の男性職員が、
斐山優一の起こした騒ぎを興味深く見つめていた・・・。
「斐山優一・・・あれが・・・
使徒の一人、『狼』・・・?」