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最終話

第3章は、

Teena Marieの、"Wishing on a Star"という曲を聴きながら描きました。

興味ある方はyoutubeでもお探しください。


 

一方、

「マリー」という名の人形は、ある場所へと向かっていた。

狼よりもすばやく森の中を、

猿よりもすばしこく木々の枝をくぐり抜けて。

「彼女」自身の思い入れではなく、

「人形」の本能のようなもので、

マリーの弟、

チビのエルマーの悲しい遺体・・・、

兎のように殺された弟の死に場所へ辿りついていた・・・。

森深くの谷坂の斜面・・・、

「彼女」は谷の上からかつての自分の弟を見下ろしていた・・・。

フラウ・ガウデンの言っていたように、

エルマーの魂と呼べるようなものは既に存在していない。


 すでに悲しくもない・・・

 つらくなんかもない・・・。


だが、

「人形」はその死体の周りに、

凛として存在するエルマーの恐怖、無念、苦しみ、絶望、

それらの思念の残骸を、

余すことなくその身に集めていた・・・、

自らの復讐への力と昇華させる為に。




 

ほぼ同時刻、

村では朝から大騒ぎになっていた。

既にマリー達の両親は、

帰ってこなかった子供たちを夜のうちから村の隅々まで探し回っていたのだが、

村人達は悪霊達を恐れて家から出ようとしない。

二人は何とか、

砦にも足をのばしたのだが、

しらばっくれた見張りの兵士に、

にべもなく追い払われていたのである。

既に両親は衰弱しきっており、

母親は夫にしがみついていなければ、

歩く事もままならない状態であった。

けれど村人達も冷淡なわけではない。

それ程、冬の夜の森を恐れているだけなのだ。

その負い目から、

太陽が昇りさえすれば村中総出で探し出そうとする。


マリーと同年代のフィーリップ、

年下にはなるが、

ハンスにトーマス等の必死ぶりは半端ではない。

親に止められなければ、

昨晩のうちにでも夜の森に出かけていたかもしれない。

今も、

彼らはマリー達の両親に言葉をかけてから捜索に行こうとしていた時、

目ざといトーマスが、

白い帽子をかぶり、集会所の先の丘の上に立っているニコラ爺さんに気づいた。

爺さんの立っている丘は、

そこから広大な森が見渡せる場所だ。

いつの間にかマリー達の両親も、

村の長老達も、

爺さんに目が釘付けになっている。

しばらくすると、

森のほうから一羽のワタリガラスがやってきて、

何と、ニコラ爺さんの握り締めている杖の先端に止まった・・・。

 グワ、グェグェ・・・ガ・・・、

まるで爺さんに話しかけているようだ・・・。

ニコラ爺さんは、片方の腕の指でワタリガラスの咽喉とクチバシをなでてやると、

ワタリガラスは一鳴きした後、

今度は湖のある方へと飛び立っていった・・・。


その後、ニコラ爺さんは厳しい顔をして、

・・・丘を降り、

マリーの両親のところへやってきた。

そして沈痛そうな表情で残酷な事実を告げる・・・。


 「・・・つらい事だろうが、

 もう、二人はこの世にいない・・・、

 砦の先の・・・谷坂に、

 エルマーの死体がある・・・。

 マリーは・・・

 死者の王ヴォーダンにその魂を奉げた・・・。」


その言葉を聞いた直後、

母親は冷たい地面に泣き崩れてしまう・・・。

父親は呆然として妻を助け起こす事もできない。

ニコラ爺さんは優しく彼の手を引き、

母親の身体を抱きしめさせた。

自らも二人を抱きしめ、

 「二人の魂の安らぎを願うのじゃ・・・。」

それが爺さんの、

この村人達が聞いた最後の言葉であった・・・。



 

湖ではマリーの人形が、

かつての自分を殺した領主を、水中に引きずり込むことに成功していた。

屈強な男の身体でどんなに暴れてみても、

強烈な憎しみの思念によって動く、「彼女」の腕をひきはがすことはできない。

さらに領主は、

自分を捕獲しているものが生き物ではなく、

精巧な造りと、貴族の娘のような姿の人形であることに気づいてパニックを起こした。

その気になれば、しばらく息が続いたかもしれないが、

余りの衝撃と恐怖に大量の水を飲み込み、

自らの肺の呼気を致命的なほどに吐き出してしまう。

領主の目は、

カッと瞼を見開いた状態で人形の目に注がれる・・・。

彼が最後に見たのは、

憎しみの念を放ち自分を凝視するグレーの瞳。

彼が最後に聞いたのは、

水中でも伝わる、小さく、はっきりした声でつぶやく人形の言葉・・・。


 「悔いるがいい、

 弟を兎のように殺したことを・・・

 思い知るがいい、

 お前の欲望のために、踏みにじられた私たちの恨みを・・・。

 そして わたしは裁きを与える・・・

 ・・・お前の汚れた命を絶つために・・・!」


領主の口からは、

最後の・・・

一際大きい気泡が水面へ昇っていった・・・。

その顔は恐ろしいまでの苦悶の表情を呈し、

後は、生体反応としての痙攣を繰り返すのみとなる・・・。


陽の光も、

うっすらとしか届かない湖底に達すると・・・、

もはや領主の身体に、

命が残ってないことを感知したのか、

かつてマリーと呼ばれた少女の人形からは、

急速に力が失なわれてゆく・・・。

その内、人形は、

領主のカラダにからみついていた手足をほどき、

穏やかな水の流れにカラダを委ね、

ゆっくりと、その場から離されていった・・・。



 

湖の岸辺では、

あわてている兵隊達を、黙って見詰めているニコラ爺さんの姿があった。

もちろん爺さんは兵隊達なんかに用はない。

・・・いつの間にか爺さんの肩には、

一羽のワタリガラスがその羽を休めている。

先ほどのカラスだろうか。

また爺さんの後ろには、

灰色狐、ずんぐり熊と、計三匹の動物達が揃っていた。


 「フラウ・ガウデン・・・

 余計なお節介焼きはいったいどちらだと言うんじゃ・・・。」


 「可哀そうなマリーよ・・・、

 いつか、

 必ずおまえの魂を救ってやるからな・・・。」


・・・そう小さく呟くと、

ニコラ爺さんは三匹の動物達と共に、その小さな村を後にした。




湖の底では・・・、

依然としてマリーの意識ははっきりとしていた。

ドレスの裾が、

水の動きにあわせてゆらめくのを感じる。

湖の上から、

ぼんやりとした日の光が射してくるのも分かる。

自分の傍を、

藻の塊が漂っていたり、

何匹かの魚が泳いでいるのも見える。

その気になれば、

腕ぐらいは動かせるだろう・・・

湖底を歩き、

湖から上がって、森へも移動できるかもしれない。


 

だがもはや、

彼女にはそんな目的も衝動もない・・・。

ただ、その瞳に映る水中の景色を、

ぼんやりと眺めているだけだ・・・。

熱くもなく寒くもなく・・・、

痛くもなく、苦しくもなく、

嬉しくもなく悲しくもない・・・。

 

 このまま、魂が消え去るまで、

 ずうっと、

 湖底で悠久の時を過ごせばよいのだろうか?

 私の魂は安らぎを感じているの・・・?

 誰か応えてはくれないのか?

 これが自分の望んだ結果なのだろうか・・・?


かつて歌好きのマリーと呼ばれた少女は、

・・・何度か思考を続けていたが・・・、

しまいに考える意味をも失ってしまい・・・

そのまま、

まるで眠りにでもつくかのように、

カラダの全ての機能を停止した・・・。




これより、数百年もの長い間・・・

彼女の身体は、

この湖の底で眠り続けることとなる。


後に「邪まなる魔法使い」が、


狂喜の笑みを浮かべ・・・

哀れな人形の身体を引き上げるその時まで・・・。

 

 


というわけで、

第2章と繋がりました。

この後の第4章は再び現代日本に戻ります。


その前に登場人物紹介ページとなります。

心臓の弱い方はご覧にならない方が良いかも。


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