月の天使シリス編3 誤解
前回の更新、見直しせずに投下してしまったため、少し言い回しなど修正しました。
今回の内容は少し短めかも。
無事に・・・
無事と言えるのかどうかよくわからないが、
とりあえず、登校初日が終了した。
みんな、落ち着きなく席を立ち、
友達を見つけるか、
何もなく今日は帰るか、
それともあの、
斐山と朝田で一悶着起きるのか、
それぞれがその場の様子を窺いながら帰り支度を始めている。
朝田が席を立った時、
クラス中のみんながその行動の先を注視したが、
見れば、
あのエリナが楽しそうに隣の斐山と談笑している・・・。
当の斐山は、
エリナに視線を合わせることもなく、
軽く相槌を打っているだけにも見えるが、
このエリナの表情では手を出しようもない・・・。
結局、
不機嫌そうに朝田はクラスを出て行った。
エリナに話しかけられないのは、
朝田だけに限らず、他の生徒も同様だ。
このままだと、
エリナと斐山はそのまま二人っきりで、
一つの家に帰り、
他の生徒は、
それぞれ友達や帰り方向が一緒の友人でも見つけるのだろう。
エリナ自身、そんなことは考えもせず、
このまま優一と二人で帰宅するのが当然のように認識していた。
だが、ふと優一は、
エリナとの会話を中断し、「ちょっと待ってろ」とでも言いたげに手をかざした後、
一人で彼は席を立った。
彼が向かう先には、
加藤恵子と鮎川クンと、隣クラスからやってきた山本依子がそこにいる・・・。
鮎川は当然、慌てふためき警戒するが、
先に斐山は加藤恵子に話しかけていた。
「なぁ、加藤・・・。」
えっ?
斐山君がいきなり話しかけてきた!?
しかもこんな人がいっぱいいる中で!?
あまりに予想外の状況にびっくりしつつも、
加藤恵子はドキドキしながら次の言葉を待ち構える。
「な、なに? 斐山君!?」
「警戒しなくていい、頼みがあるんだ・・・。」
あの斐山君が頼みごと!?
しかも女子のあたしにっ!?
鮎川も山本依子も目をパチクリさせている。
いったい、恵子はあの斐山とどんな関係を!?
「あ、あたしに頼みごと!?
ひっ、斐山君が!?」
「そう、大げさに構えるなよ、
大したことじゃないんだ。」
「あ、・・・う、うん、
ま、あたしに出来ること、なら・・・。」
あれ? これって、
こないだの夜の公園のシチュエーションとおんなじ!?
そこで一度、
斐山はエリナの方を振り向いた、
もっとも、すぐに首を戻してしまうが・・・。
「助かるよ、
頼みってのは、あいつ・・・、
あの女いるだろ?
エリナ・ウィヤード・・・。
加藤・・・いや、鮎川も山本もできれば協力してほしいんだが、
彼女に声かけてやってくれないか?
まずは女性同士の方が仲良くしやすいだろ?」
た・・・頼みってそれ?
一瞬、どう反応すべきか戸惑うものの、
別にそんなことお願いされるようなことじゃ・・・。
ていうか、むしろウェルカム!!
「ダメか・・・?」
「あっ! ううん!!
もちろん、大歓迎!!
あたし達、途中まで帰る方向一緒だもんね!!
ヨリも鮎川クンもいいでしょ!?」
「え? ええ、も、もちろん!」
「そ、そりゃ、オレも入っていいのか?」
そこまで聞いて優一はエリナを呼び寄せた。
主人に呼ばれた子犬のように、
はしゃいでエリナがやってくると、
優一は互いを紹介させる。
新しい友人の出現に・・・
しかもあの勇敢でかっこよく美人でかわいいエリナと仲良くなれるのは、
加藤恵子も本心から嬉しいことである。
だが、それとは別に、
斐山優一の意外な面を見て、
同時に彼女はびっくりしていた。
斐山優一は、
無表情に淡々とその作業を終わらすと、
一人で帰るからと、
エリナを置いて、とっととどこかに消え去っていった。
その点で言えば、本当に彼らしい。
もっとも、
このまま、斐山含めてみんなで一緒に帰ると言い出したら、
鮎川と山本依子は生きた心地がしないままであったろう。
その場にいる全員が、
斐山優一の意外な一面を再認識するわけであるが、
優一の本音はシンプルなものだった。
面倒見切れるか・・・!
本音は、ただそれだけだったのである。
こんな女に、
ずっとまとわりつかれてはたまらない・・・、
厄介事は他人に預けちまおう・・・。
しかし・・・彼の本心とは別に、
周りの斐山への評価は、
これからもどんどん変化していくことになる・・・。
そしてまた、
斐山優一自身ですら気づくことなく、彼の内面も・・・。