月の天使シリス編2 実験してみよう
さらに笑い転げようとした優一だったが、
ここである記憶が甦りつつあった・・・。
夢・・・。
子供の頃から何度となく見る夢・・・。
「あいつら」が見せるのか・・・
他の原因か・・・。
何度となく見てきた同じ内容の夢・・・。
「天使・・・!?」
普通に考えれば、
優一の反応は自然なものである。
エリナにだってそれは分る。
だが、
この後の優一の反応は明らかに異常だった・・・。
「ゆ、優一さん!?」
「・・・『甦る破壊の天使・・・
舞い降りる月の天使・・・』?」
「ゆ?
優一さん、ご存知なんですか!?」
斐山優一は視線を下に落として考え込んでしまう・・・。
この事か!?
子供の頃から見せられてきた夢はこの事なのか!?
自分では何もわからないのに、
周りにお膳立てされているかのような不快感・・・。
その先に進んでしまえば、
自分が自分でなくなっていくかのように錯覚する喪失感・・・。
冗談じゃないっ!
自分の事を他人にコントロールされるのなど真っ平だ!!
この薄気味悪い現実など受け入れてなど堪るものかっ!?
優一が自問していたのは、
時間にしておそらく4~5秒だろうか、
ようやく優一は次の思考へと気持ちを切り替える・・・。
「・・・エリナ。」
「は、はい!」
「それで・・・
お前は何のためにここまできたんだ?
オレを村に連れ戻す気なのか・・・?」
「あ、はい、・・・そうです、
それが使命です・・・。」
「もっと、真っ当な手段もあったんじゃないか・・・?」
「はい、そうなのですが、
私達の村も、政治的な問題で、
中国政府を絡めたくないのです。
・・・チベットの状況はご存知ですか?
あなたは私達の村の指導者となられる方です。
通常の外交手段・政治手段ですと、
あなたの存在が中国政府に快く思われない可能性が大きいんです。」
「・・・なるほど・・・ね。」
「暗殺される危険もあります・・・。」
「・・・!」
優一の目が輝いた・・・。
意外と面白い人生かもしれない。
普通の学生生活になど、
満足できない性分なのは自分でもよく分っている。
すぐに考えを決めれるわけでもないが、
この女が持ってきた契機は、
なかなか刺激的な人生をもたらせてくれそうだ。
「だが・・・
オレが帰らないと言ったら?」
「はい、ですので、
もう少し、優一さんの信頼を得てから切り出すつもりだったんですけどぉ・・・。
まさか、
髪の毛と瞳の色がドンピシャなんてぇ・・・。」
なんか、エリナ泣きそうだ。
彼女は彼女で、
予定が大幅に狂った事で悩んでいるらしい。
「ウィグルの人間てのは、
みんなこの毛と瞳なのか?」
「いーえぇ、そうでもないです、
黒髪や茶褐色の瞳の方もいますよー、
・・・今回はたまたま・・・。」
ふぅ・・・。
「・・・じゃあ、エリナ、
あんたはその、
オレを村に連れ戻すっていう重大な使命とやらのために、
わざわざ日本語勉強して、
知り合いもいないこんなとこまでやってきたってわけか?」
「はぁい、そうですー。」
「・・・ごくろーなことだな・・・、
オレが品行方正ならともかく、
碌な人間になってない場合はどうすんだ?
とんでもない悪党になってる場合だってあるだろ?」
「そうですか?
そうは見えませんけど?」
その言葉に優一のイタズラ心が刺激された。
「・・・ほぉ? そぉか、
なぁ、一つ聞くが、
オレが族長の息子で・・・
まぁ『天使』ってのはどうでもいいか、
いわゆる村の跡継ぎのような身分なら、
アンタは何だ?」
「あ、私ですか?
・・・え、と、シリス様・・・
つまりあなたにお仕えする身分ですけど・・・。」
そこで優一はニヤリと笑う。
「てことはオレの言う事には従うってことか?」
「は、・・・はい?」
そこで優一はイスから降り、
エリナの側に近寄る。
そして・・・必要以上に近づき、
彼女の腕を握り締めた・・・。
「そうなると・・・同じ家に住む以上・・・、
こういうことも覚悟の上ってことだよなぁ?」
「あ・・・あの・・・えと・・・ 」
反射的にエリナはのけぞる・・・。
大体どの女もパターンは限られるが・・・さて?
「風呂上りか・・・、
まだ髪も湿っているな・・・。」
「え・・・ゆ、
優一・・・さん・・・ や ちょ・・・」
状況は盛り上がり始めているが、
ここで横槍を入れさせてもらう。
下の階で、
両親がハラハラしてることだけは、
皆さん、忘れないでいてほしい。
別に物語の伏線でも何でもない。
・・・ただ、こうゆうシーンが大好きな人の邪魔をしただけである。