月の天使シリス編2 月の天使
はぁ~・・・。
優一はため息をついた・・・。
自分が日本人じゃない事は知っていた。
自分のルーツがどこなのか?
自分が誰の血を受け継いでいるのか、
そう簡単に調べられるとは思っていなかったのだが、
こんな形で、あっさり明らかになるなんて・・・。
しかし、なんでわざわざこんな面倒な手段で・・・?
「・・・座れよ、
イスがいいかベッドがいいか・・・。」
「あ、ここでいいですよ。」
エリナはカーペットにペタンとしゃがむ。
優一は自分のイスに座り、クルっと背中を反転させた。
「聞きたい事がたくさんあるんだが・・・。」
「あ、ハイ、
私もそれを説明するために・・・、
ただ、いきなりお聞かせしてもショックが大きいと思って、
もっと、ゆっくりしてからお話しようかと・・・。」
「別に構わないさ、
まず、・・・そうだな。
もう確実なようだが、
一応言葉ではっきりさせようか・・・。
エリナ・・・オレはお前の村の人間か?」
優一は核心を尋ねた。
もはや疑いようがないが、
事実を確定させたい・・・。
そして、エリナも真剣にその質問に向き合うつもりである。
「はい、そうです。」
断言しやがった。
「優一さん、
あなたは私たちウィグル村の族長の一人息子・・・
シリス・・・
それがあなたの本当のお名前です・・・!」
シリス・・・自分の本当の名前・・・。
「シリス・・・か、
あんまりピンとこねーな・・・。
ま、そんなもんかな、
それより族長の一人息子?
それって村の跡取りってことだよな?
なんでそんな大事な跡取りを捨てたりするんだ?」
エリナはとんでもないと首を振る。
「それは誤解です!
あなたは捨てられたんでなく、
消失されたのです!」
「消失? どういうことだ?
おれが今の両親に拾われたのは、
まだ足も立たない頃のはずだ。」
「そ・・・それは今もなお、不明です。
ある日、
忽然と赤ん坊のアナタは村から消えたのです。」
「おいおい、いい加減な事を言うな、
いくら何でも・・・!」
途中、語気を荒げるつもりだったが、
優一ははたと気づいた・・・。
消 失 ・・・?
「エリナ・・・
もう一度、聞く・・・。
赤ん坊の頃、
オレは村から消えたんだな・・・!?」
「え? は、はい、
私はそう、聞いています・・・。」
「その時・・・村に異常は・・・?
例えば動物達が騒いだとか・・・、
機械が勝手に作動したりとか、
上空に得体の知れない・・・いや、
なんでもいいが・・・。」
さすがにエリナもこの質問には戸惑うのみだ。
「あ、え? ええと、
・・・いえ、私はわかりません、
村の当時の人たちに聞けば・・・あるいは・・・。」
「そうか・・・いや、いい。」
優一には心当たりがあった・・・。
つい先日も・・・
久しぶりだったが、
得体の知れない奇怪な集団に「捉えられた」ばかりだ・・・。
・・・人間ではない何か別の生き物に・・・。
その間、
記憶は殆ど残っていないが、
ずっと昔から・・・
物心つく頃からそれは頻繁に行なわれていた・・・。
まさか、そんな赤ん坊の時分からだとは!?
自分の両親・・・
斐山夫妻が自分を引き取ったのは、
そいつらの意図する所なのか、
偶然なのかはわからないが・・・、
恐らくその「あいつら」が自分を・・・。
「ゆ、優一さん?」
「あ・・・いや、なんでもない、
それより・・・だとしたら、
どうしてオレがこの日本にいると?」
「そこは複数の事情筋から・・・。
斐山教授たちが私達のふもとの村で、
銀色の髪を持つ赤子を拾ったという話は、
数年後に私達の村にもたらされましたし、
・・・あと、さる日本人の方が、
その方は私達の村にとっても大事な方なのですが、
日本で族長の息子らしき子供を見かけたと・・・。」
「それでわざわざ・・・?」
「ハイ、何しろアナタは、
族長の息子というだけではありません。」
「というと?」
「・・・私達の村での言い伝えの言葉、
・・・予言のようなものです。
私達の村に『天使』が生まれる・・・。
その子は成長し、
このウィグルのもとに世界を治めるだろう・・・と。」
思わず吹きださざるを得ない優一。
「おいおい、
いくら何でもそれは・・・!
ハハッ、オレが世界を治める!?
天使だって!?
そんな予言を信じてわざわざ日本まで!?」
「笑わないで下さい、
その・・・日本人の方も、私たちの予言を知らないはずなのに、
アナタの事を『天使』と言ったんですよ!
『月の天使』がこの村に生れ落ちたって!」
なお、
赤ん坊の優一を攫ったのは、
プロローグの正体不明生物とは限りませんが、
ストーリー的には「どちら」でも構いませんので、皆様はお気になさらず。