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月の天使シリス編2 斐山家到着


 ぴーんぽーん!


 「おはようございます、

 文科省の谷口です!」


斐山邸に二人の客が訪れた。

中年のスーツ姿の男と、先ほどの外国人女性・・・。

訪問予定時間ぴったりだ。

斐山夫妻は、

やや緊張しながら来客を出迎える。

・・・目いっぱい笑顔を作る準備をして・・・。


 「はい、どーぞ、いらっしゃいませ。」

互いに礼儀正しくお辞儀をして、

斐山夫妻は特に少女の顔に笑顔を向ける。

 「遠い所を疲れたで・・・」


疲れたでしょう、

と言葉が続くはずだった。

その言葉は母親のものだったが・・・、

途中で言葉に詰まったのである。

・・・何故か。

すぐに父親も、

自分の妻の戸惑いの原因に気づいたようだ。

少女は朗らかな笑みを浮かべたまま・・・。

 

一人、文科省の役人だけは、

違和感を感じるだけで、

何がどうしたのか理解できない。

 「あ・・・あの?」

 「は、い、いえいえ、どうぞ中に・・・!」

すぐに斐山夫妻は、

ぎこちない笑顔を再び取り戻し、

この二人の客をリビングに迎えたのだ・・・。


下準備は終えていたので、

すぐに来客二人の前に温かい飲み物が出される。

腰を一旦、落ち着けたところで、

間を取り持つ役人は話を切り出した。

 「・・・えー、では改めてご挨拶をお願いしましょうか?

 エリナ君、ホラ?」

少女は再び立ち上がり、

ゆっくり丁寧な日本式お辞儀をしする。

日本文化の勉強はしっかりしているというのは、本当のようだ。


 「はじめまして、

 エリナ・ウィヤードと言います、

 ウィグルという村から参りました!」

あわせて、いそいそと夫妻はお辞儀を返す。

なにしろ、

父親はどうしても聞きたいことがあるようだ。

 「あ・・・えーと、エリナ君?

 日本語、ホントにうまいねぇ?

 そ、それで、ウィグル村だって?  

 聞いてるかな?

 私達は昔、キミの村の近くに長い間、滞在してたんだけど・・・、

 申し訳ないが・・・その村の名は聞き覚えがなくてねぇ・・・?」

エリナは気にせずにっこり笑う。

 「はい、伺ってます!

 お二人が入られた村は、

 私達の村と距離はさほど離れてませんが、

 絶壁の谷に阻まれていて、当時、交流は全くありません。

 最近は橋も出来、

 いろいろインフラも整ってきてますからそうでもないですが、

 お二人がいらしてた頃は、

 私達の村は、北京政府に秘密裏に開発されてたんです。」

 


話の内容と笑顔のギャップが凄い・・・。

斐山教授は、

ある程度、話のつじつまが合う事、

それと学者としての研究意欲がむくむくもたげてきたこと、

など、いろいろな感情が湧いてきたが、

ここで優先するのは・・・彼女の容姿についてだ。

 「そ・・・そうなのかね、

 じゃあ、キミの・・・、

 その失礼だが顔立ちも、やはり・・・。

 しかしウィグル村?

 それは・・・ウィグル族なのかね?

 新疆最大の少数民族の・・・?」

 「いいえ、

 教授たちが入られた村の人々と、私たちとでは、

 民族として遺伝的性質が全く異なります。

 そして新疆ウィグル族とも、私たちは関連がないようです。

 私達の村は、文化的にも遺伝子的にも、

 周辺に近似する民族は確認できておりません。

 ・・・恐らく外界と隔絶する地形に、

 永い間、住み続けた結果だと思いますけども・・・。」

 

夫妻は口をあんぐりと開けて驚嘆している。

日本語は完璧だ。

イントネーションがややぎこちないだけで語彙も豊富である。

そこらへんのドキュン高校生より、

多くのボキャブラリーを身につけているのも間違いない。

 「お・・・驚いた、

 よく、ここまで日本語を身につけたね?」

母親も驚嘆するばかり・・・。

 「すごい・・・、

 高校どころか、大学の講義にもついていけそう・・・。」


仲介役の役人は嬉しそうに彼女を紹介する。

 「でしょう?

 彼女は村のエリートですよ、

 他にも英語や北京語もマスターしてます。

 運動能力もきわめて高く、

 村の長老達の全員一致でこの日本への留学が推薦されたんです。」

 

母親がにこやかに尋ねる。

 「どうやって、日本語を勉強されたの?」

エリナは物怖じしない。

まさに優等生とも思える余裕で丁寧に答えてゆく。

 「ここ数年、私達の村も開放され始めて、

 日本人旅行者も、時折やってくるようになりました。

 その中で、

 私達の村に長く駐留してくれる方が何人かいらっしゃって、

 村でも向学心のある子供たちを、

 そういった外の人たちから色々教わるようにしてるんです。」

 「じゃあ、あなた以外にも、

 日本語を教わってる子供がいるのね?」

 「あ、はい!

 ・・・ですが、年齢や得意不得意がみんなバラバラですから、

 今回の留学に推薦されそうな者はそんな多くなかったと聞いてます。

 村の総人口自体、たかがしれてますから・・・。」

 

そんなこんなで、

お互いの話はとんとん拍子に進んでいた。

しかし、斐山夫妻の胸のつかえはまだ下りない・・・。

だが、それをこの場で切り出すきっかけがないのだ・・・。

すると・・・

これもタイミングがいいと言えるのだろうか?

場の進行役とも言える役人が、

うまく話を「そっち」に持ってってくれたのである。

 「あー、そうだ?

 斐山教授、今日は息子さんは見えられないんですか?」

・・・心なしかエリナも、

その質問に反応してるように見える。

視線と表情に微妙な変化が顕われた・・・。


夫妻は一度、互いに目をあわせた後、

 「あ・・・いや、お恥ずかしい、

 いま、反抗期のような物で、

 朝から外出しておるのですよ・・・。

 家に戻るのも、

 ・・・そうですね・・・

 夜になるか、もっと遅いか・・・。」

 

そんな言い訳しか出てこない。

勿論、優一には、

「この時間、家にいるように」とは伝えていたのだが・・・。


 「はっは、なるほど、

 元気の良いお子さんのようですね?

 まぁ、エリナ君、

 なにかあったら、ご夫妻でもいいし、

 私たちにも連絡をくれるといい、

 キミが一年、

 有意義にこの日本で過ごしてくれる事を願っているよ。」

 「はい! ありがとうございます、

 どうもお世話になりました!」


・・・だが、落ち着いて考えてみれば、

この場に優一がいないことは、

夫妻にとってベストだったかもしれない。

もし、全員がこの場に揃えば、

この役人になんと説明すれば良いのだろう?

一人息子とこの少女の髪や瞳が、

まさしく同じ色をしていることに・・・。



次回はいよいよ、


優一とエリナのご対面です。

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