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月の天使シリス編 街の異常

 

バイクは静かに止まり、

加藤恵子はゆっくりと足を動かしスクーターから降りる。

そして、メットを外して優一に手渡した・・・。

 「ありがと・・・送ってもらっちゃった・・・。」


悪い気はしなかった・・・。

相変わらず優一は無表情で、

何を考えているのかわからないが、

客観的に見れば、西洋絵画から抜け出てきたような美形の男の子に、

夜、二人っきりで送ってもらうのは悪くない。

 ・・・これで怖い男の子でなかったら・・・。


そしてメットを受け取った優一はしばらく黙っていたが、

彼も思うところでもあったのか、

普段の彼からは考えられないような言葉が出てきた。

 「いや、こっちこそ世話になった・・・。」

 

 「え、あ、その、ううん、

 帰るんでしょ? 気をつけてね・・・!」


 もしかしてこれって・・・いい感じ?

 あ、でも相手はあの斐山君だし・・・!?


だが、

斐山優一は続いて意味深な言葉を吐く。

 「礼ついでにもう一つ・・・。」

 「え?」

 「家の中に入ったら、今夜は外に出るな。

 窓の外を覗くのも良くない。

 ・・・わかるな?」

 「あ・・・、さっきの『化け物』ねっ?

 うん、そうするよ。」

 「それと・・・。」

 

 「うん?」

 「今夜オレに会ったことは誰にも言うな・・・。

 言ったらお前は二度と家族に会えなくなる・・・。」

 「・・・!」


 やっぱり、こんなものか・・・。

落胆する加藤恵子をよそに、

斐山優一はバイクをターンさせ、

見送る加藤恵子を一瞥もせずにその場を走り去っていった。

これで・・・

今夜は静かになるのだろうか・・・?

加藤恵子は大人しく家の玄関を開けた。

 「ただいまぁ~。」

 

そして・・・、


加藤恵子は食事を終え、

姉より先にお風呂に入っていた・・・。

・・・もう出る所だけど・・・。


 「お姉ちゃ~ん、もう出るよぉォ。」

 「はぁい、わかったぁ。」

いつもと何ら変わらず、

バスルームから出た恵子は、タオルで体中を拭いていた。

髪の毛をタオルドライし、下着をはく。

パジャマに着替えて、自分の部屋に戻る。

いつもどおりだ。


・・・けれど、今夜がいつもと少し違うのは、

飼い犬エルが、今もまだ飽きずに吠え続けている。

 結局、あの『人形』とかいうのに向かって吠えていたのだろうか?

 それなら、まだ近くにいるというの?


そんなことを考えているうち、

突然、家の電気が消えた。

  

 「え!?」

風呂場のほうからは、自分の後に入っていた姉の泣き言が聞こえる。

 「えええ!? 停電~!?

 ブレーカー落ちたのぉぉ!?」

 「あ! 今、見てくるよー!」


だが、玄関の上にあるブレーカーは・・・

 異常ないよ・・・ねぇ?

スイッチを上げたり下げたりしても変化はない。

 ・・・まさか。


一度、自分の部屋に戻り、

加藤恵子は窓の外を見る。

 「あ、あ、ああ・・・!?」


辺り一帯、真っ暗だ。

この辺り全てが停電になっているのだ。

・・・もっとも、

月の光が雲に反射して、景色全体が暗いわけではないのだが・・・。

街のあちこちから、

犬の遠吠えや猫のうなり声が聞こえてくる。


 「い、いったい何が起きてるの・・・?」

 


ふと窓の下を見ると、

千鳥足で歩いている二人のサラリーマン風の男たちが、

家の前の道を通りすぎていた。

・・・ただの酔っ払いだ・・・。

珍しい大規模な停電の前では、そんな事はどうでもいい。

とにかく窓を閉めて、姉に事態を告げようとする直前、

最後に酔っ払い達の声だけが恵子に聞こえてきた・・・。


 「ぶっちょう~ぉ、

 ・・・もう、飲めません、

 フラフラですぅ・・・、

 月がぁ、二つに見えるしぃィ・・・!」

 「はははぁっ、

 まだまだだよ、きみぃ!

 わ、私など月が四つに見えるぞぉぉぉ!!」

 


既に加藤恵子は、

そんな喧噪など右から左へと聞き流していた。

だが、もし・・・、

もう少し、

窓の外を覗いていたなら・・・、

彼女は気づく事ができたであろうか・・・。


窓の外、光源は月明かりのみ・・・。

当然、電信柱などが地面に映す影は・・・、

月明かりからによるもののみの筈、


ところが・・・その電信柱の影は、

舗装された地面に、あろう事か二本並んで伸びていたのだ・・・。


そしてその伸びる影のうち・・・一本は、


そう、時計の短針と長針の関係を思い浮かべるのが妥当だろう、


静かに、

そしてゆっくりと・・・


夜空の月の動きなどとは、一切関係なしに動き続けていたのである。

 


斐山優一編 プロローグ 次回で終了です。


なお、話に出てきた二人の酔っ払いサラリーマンは、ほんとに酔ってるだけです。

何も変なものは見てません。


動く影は見ることができたのかもしれませんが、

彼らは一切、気付いてません。


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