月の天使シリス編 処刑執行
前回までのあらすじ
人形メリー到着!
『私はメリー・・・、
今、この公園にいるの・・・。』
途端に石橋達也の顔が歪む・・・。
「ハァァ!?
おまえ・・・ちょっと誰だよ!?
オレのこと、つけまわしてんのか!?」
だが、携帯はすぐに切れる。
思わず達也は斐山に視線を求めるが・・・、
「電話、さっきのヤツと一緒なんだけどよ・・・、」
斐山優一の耳は、
電話口の声を聞き逃してはいない。
「聞こえましたよ・・・、
相手は日本人のようですね?
てっきり、あなたが首を絞めた外人教師の怨霊かと思ったんですけどね・・・?」
もちろん優一のセリフは本気ではない。
ただの嫌がらせである。
「ふっざけたことゆーなよ!
まぁだ殺したりねーくらいなんだぜぇ!?」
勿論、優一にしても、
電話の内容を聞いて取るに足りないものだと判断した。
そのため、彼は直ちに、
この男の始末に関心を向けようとした時、
彼の本能のようなものに、
得体の知れない何かの気配が感じられた。
ゾクッ・・・
「・・・優一・・・どうした?」
その問いに優一は答えない・・・。
首を固定したまま意識を周辺全体に向ける・・・。
尋常ならざる感覚機能・・・。
それは斐山優一にとっては五感だけのものではない。
彼自身は、
霊感やら超能力の類は一切信じていないが、
俗に言う「勘の良さ」だけは野生生物並みだと自覚していた。
その彼が今、感じたのは・・・、
言葉に形容し難い何らかの・・・
高速に移動する物体・・・。
彼の能力を以ってしても、
その移動する「何か」の正体を探ることはできない。
だが、間違いなく、
この公園の・・・どこか、
いや、自分達のそう離れてはいないところに、
「それ」がいるという確信めいたものを、
斐山優一は感じ取っていた・・・。
警察・・・?
考えにくい・・・。
警察ならもっと集団か、最低でも2~3人で動くはず・・・。
当然、複数で行動する際の動きは特徴的なものになる。
斐山が感じた気配は単独のもの・・・。
これは「石橋達也」に向けられたものなのだろうか・・・?
そしてそれは・・・、
石橋達也にかけられた電話に関係があるのか・・・?
「お・・・おい、優一・・・?」
不安にかられた石橋達也は、
優一にオロオロ聞きなおす。
そこで優一はゆっくりと石橋達也に反応した。
「誰かがこっちをうかがってます・・・。
警察ではなさそうですが心当たりは?」
「なっ・・・!?
し、知らねぇっ! 誰なんだよ!?」
「ちょっと見てきます・・・。」
「え!? お、おい、優一!」
斐山優一には、
「恐怖」という感情はない。
寧ろ突然の「かくれんぼ」に、
心の中で密かにこの事態を楽しむ余裕がある。
最後に感じた気配のある場所にゆっくり向かう。
低い柵を越えて、茂みの中・・・。
パキッ・・・
足が小枝を踏む・・・。
ゆっくり、ゆっくりと辺りを窺う・・・。
体の動きを最小限にし、
意識を四方八方に向ける。
さっきはあの辺りから感じたが・・・。
チャラララララァン♪
突然、斐山優一の背後で石橋達也の携帯が鳴った。
もちろん、優一には聞こえていたが、
現在の探索作業を優先したかったため、
すぐには振り返らない。
だが、石橋達也に聞こえたのは・・・、
死刑執行の最終通告だったのだ。
『私、メリー
いま、あなたの後ろにいるわ・・・。』
「なんだっ・・! おめ・・・!?」
石橋達也の声は途中で詰まった。
それ以上、声を発する事は出来ない。
ここで、ようやく斐山優一は振り返った。
・・・またか、一々相手にしなくても・・・
だが斐山優一すらも、
突然の「その状況」を瞬時に理解するのは困難だったと言える。
その時、
優一には時間が止まっているかのように見えていた。
事実、あまりの驚愕と恐怖で、
石橋達也のカラダは完全に硬直してしまっていたからだ。
そして・・・、
まさに斐山優一が振り返ったその時には・・・、
レディ メリーの死神の鎌が、
不気味な光を煌めかせ、
この愚かな男の首を刎ねるべく圧倒的な威圧感で振り下ろされようとする所であった・・・!
「うおっっうわあぁあぁっっ!!」
血しぶきが飛んだ!
いや! それだけではない・・・!
存在感のある「何か」の物体が宙を舞い、
ドスッという鈍い音と共に地面に転がる・・・。
さしもの斐山優一も一歩も動けない!
首すら動かせず、
表情すら変えられずに、
ただ眼球の動きのみを許されて、
転がる石橋達也の「頭部」を見送るだけ・・・。
な ん だ 、 こ い つ は !?
・・・ようやく、斐山は我に返った。
そこで、視線をあるべき所に戻し、
・・・その時点で初めて斐山優一は、
「彼女」・・・レディ メリーの姿を捉えたのである・・・!
次回!
優一対メリー!!