表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/676

月の天使シリス編 優一の帰宅

今回、イギリス人女性とか出てきますが、

騎士団とは何の関係もありません。


どこかで聞いたような男の名前はあるでしょうけど、

これ書いた時は、犯人まだ捕まってなかったんだよねえ。

 

学校の帰りしな、

加藤恵子は昼休みの出来事を級友に話していた。


 「えええええっ!?

 恵子、斐山クンと会話したのぉっ!?

 大丈夫なのっ!?」

 「え・・・大丈夫ってなにが・・・?」


 「何がって・・・呑気に何、言ってんのよ!?

 何かされたらどうすんのよっ!」

 「・・・それこそ何言ってんのよ?

 いくら悪い噂が立ってたって、

 喋ったくらいで何かされるわけないでしょぉ?」

 「わっかんないわよ!

 ・・・彼、だって暴力団とも繋がりあるって言うし、

 もしかしたら人も殺してるかもしれないのよ!?

 近寄る事自体、危険なの!!」


加藤恵子は呆れ顔で笑い出す。

 「あーんたねぇ? 空想しすぎ!

 ミステリー小説ばっか読んでるからそうなるのよぉ!」


だが級友の顔は真剣である。

・・・実際、あの斐山優一と言う生徒に、

大げさとも思える噂話がついて回っているのは事実である。

たった一人で、

20人からの他校の生徒を壊滅させただの、

暴力団の幹部と親交があるだの、

どんなに非行行為を犯しても、

今までただの一度も警察に捕まった事がないという、

天才的ともいえる計算高さが、

その伝説をさらに大きくしているのである。

 

 

さて・・・、

こちらはその当人、斐山優一。

柄の悪い仲間と早々に分れ、

今日は珍しく真っ直ぐに自宅に戻っている。

家の玄関を開けると、

オドオドした母親が彼を出迎えた・・・。

 「ゆ、優一、今日は早かったわね・・・!

 晩御飯、今日は家で食べるでしょ・・・?」


斐山優一は、

母親に視線を一度も投げかけず、

黙って二階へあがる。

可哀想な母親だ・・・、

どれほど以前からこんな家庭になってしまったのだろう?


既に白髪が見え始めた頭を沈ませ・・・

沈痛な面持ちで母親は台所に戻った・・・。

二階の自室で、

斐山優一はカバンをベッドに投げ捨て、自らも横たわる・・・。

しばらくして、何を思ったのか、

彼は自分の本棚からアルバムを抜き取った。


ページを何枚かめくると、

他の写真のウラに、隠すようにもう一枚の写真が出てきた。

古ぼけた写真・・・

今から15年前の日付表示。

 

 

・・・そこには、

サファリルックに身を包んだ若い男女の姿・・・。

そして女性が抱える赤ん坊・・・。

日付は・・・彼、斐山優一の誕生日、

いや、誕生日とされている日付だ。

場所は・・・日本ではない。

彼は何年も前に自分で調べていた・・・。

この写真の日付の時、彼の両親は大学の研究で、

中央アジアの未開村に長期滞在していたことを・・・。


この写真も、

子供の頃、偶然父親の書斎に入った時、

何気なく抜いたアルバムの中に発見し、

父親の目を眩ませて密かに抜き出していたのだ。


そして彼は知ったのだ・・・、


自分はこの家の本当の子供でないことを。


自分の骨格や体つき、

グレーがかった髪や、薄い色素の瞳・・・。

全てが両親とは異なる・・・

自分は恐らく日本人ですらない。

子供の頃から感じていた不思議な違和感、

それがこの写真を発見した時、

確信に変わったのだ。

 

彼が非行の道に走るきっかけとなったのは、

紛れもなく、この事実を知ってしまってからのことであろう・・・。

といっても、理由はそれだけではない。

身体的特徴は同世代の人間と大差ないのに、

感覚機能、身体能力、

そして知能全てにおいて他の少年を著しく上回る・・・。

彼が気づいたのは、

自分が世界でたった一人であるという孤独感・・・。


仲間も友達もいない、

信頼できるものなどどこにもいない・・・。

それに気づいてしまった時、

彼は世間の常識やモラルに従うことに、

何の価値も見出せなくなってしまったのだ。


  トルルルルルルルッ・・・!

斐山優一の携帯が鳴る。

相手は・・・

ヤクザがらみ仕事で知り合った男、

といってもそこらのニート・・・。

ハタチすぎても職につけず、

ウラ世界のおこぼれにあずかって生活しているろくでなしだ。

 


 「もしもし・・・、

 達也さん・・・だったね?」


冷静な斐山優一の声に反し、

その電話の声は酷く慌てていた。

 『ああ! ゆ、優一・・・!

 頼む、何とかしてくれ!

 ヤバいんだよぅ!』

 「・・・? はぁ?

 いきなりなんです?

 どうしたんですか?

 確か、こないだまで白人の彼女見つけたとか言ってはしゃいでたんじゃ・・・?」

 『そ、そうなんだけど、

 イヤ、実はあの女があんまり人をナメたこと言いやがるから、

 ついかッとなって・・・!』

 「かっとなって?」

 『あ・・・その・・・つまり、

 やっちまったんだ・・・。』


 「・・・その『やっちまった』って言いまわしは・・・、

 無理やりレイプしたとか、

 その手のニュアンスではなさそうだね・・・。」

 『あ・・・ああ、そ、そう・・・

 ちょっと首つかんだらよぉ、

 死んじまったんだよおっ・・・!』

 「で・・・オレにどうしろと・・・?

 死体隠滅の方法でも聞きたいの?」


これだけ恐ろしい内容をいきなり聞かされても斐山は動じない。

単に厄介ごとに巻き込まれることに、

迷惑そうに答えるだけだ。


 『そ、そうだ!?

 先にそうすりゃ・・・お前に聞けばよかったんだ!

 チクショウ、もう手遅れだ!

 ああ、悪ぃ、

 じ、実はもう、死体は見つかっちまったんだ!

 ・・・オレの事も回りに知られてる・・・!

 捕まっちまうのも時間の問題なんだよ!!

 頼む!

 何とか逃げる手段を考えてくれよ!!』


 「こないだの・・・

 『仕事』の分け前は十分にあるんじゃないんです?

 外国にでもいけば・・・って、

 まさかもう使いきったんですか?」

 『そんなモンはあの女へのプレゼント代でなくなったよ!

 チクショウ!

 あんなに貢いでやったのに!!

 このオレをいいように利用しやがって!!』


だめだ・・・

所詮はコイツもクズだ・・・。

こういう自意識過剰のクズは適当なところで切るべきだ・・・。


この社会のダニを、

今までいいように利用してたのは、

15歳の斐山優一も同様だ。

・・・もう、使えそうになければ、

あとはきれいに「始末」するのみ・・・。

 

 

 「わかりましたよ、

 取り合えず、どこにいるんですか?

 そっちに行きますよ。

 ただ、

 オレが着くまでにこれだけはやっといて下さい。

 携帯の履歴や住所録あるでしょう?

 それ・・・、

 オレやメンバーの記録だけ消しといてくれます?」

・・・通信会社に記録は残っているだろうけどね。


 『それって・・・彼女の記録も消した方がいいんだよな?』

 「それはご自由に・・・。

 ただ、死体が見つかった以上、

 『その女性を殺した人間』を、

 どこかに存在させなければ警察を止めることはできません。

 まずは彼女を殺した者が、その携帯の持ち主である、

 ということで確定させておきたいんですよ。

 ・・・それであなたは『石橋達也』でなくなってしまえば、

 警察はあなたを捕まえることは出来ません。

 そんな感じでどうですか?」


 『すっげぇッ!

 さすが優一だ! 頼りになるぜ!!

 わかった、お前達の記録だけ消しとくぜ!

 今、オレは○○公園にいるんだ!

 詳しい話はそこで頼む!!』

 「はい、わかりました・・・ではこれから・・・。」

  

 

そして通話は切れた。

 フーッ・・・

斐山はため息をついてカラダを起こした。

 厄介ごとはまっぴらだ・・・。

自分にとって得になることや楽しい話ならともかく、

下らない喧騒に巻き込まれることなど、

彼にとっては苦痛でしかない。

斐山優一は、

制服から厚手のトレーナーに着替え、

既に暗くなった町へと出て行く・・・。


そして同時刻、

イギリス人英会話教師を絞殺した男、

石橋達也は携帯の記録を消去する作業を行っていた・・・。

まだ、住所録には、

キャバ嬢やナンパした女性の番号が多く残されている。

とりあえず、斐山に言われたものから消していると、

突然見知らぬ番号から電話がかかってきた。


  チャララララァン♪


 誰だ?

 いま、消したばっかのヤツか?

 優一? ・・・違うよな?


電話に出ると、

聞こえてきたのは見ず知らずの女性の声・・・。

それは、小さく、

そして凍てつくような冷たい声で・・・、


 『私、メリー、

 ・・・今この町にいるの・・・。』

と、言ったのだ・・・。

 

というわけで、

メリーさん特別出演です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRoid版メリーさん幻夢バージョン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ