月の天使シリス編 優一と殺人人形
新章です。
そしていきなりですが、
謝罪します。
物語は途中でストップします。
この物語の主人公は高校一年終了とともに、
退学いたしますが、
ここでお見せ出来るのは最初の数週間までです。
東京都、K区・・・。
下町情緒を色濃く残すこの町も、
新しい分譲マンションや都市再開発など、
新興商業施設の出店で、
いつの間にやら素性の知れない隣人が、
やたらあちこちで増え始めるようになっている。
日本語が通じない外国人、
昼夜の生活が逆転している者、
部屋から一歩も外に出ない者、
・・・そして、
世間の常識を破壊していく者なども・・・。
「おい、聞いたかよ!?
二年のクラスのヤツが見たらしいぜ?
先週金曜の夜中、マンションの入り口付近の街灯のてっぺんに・・・、
いたんだってよ!?」
「えー? なになにー?
なんのはなしー?」
休み時間に、
オカルトネタ好きの男子の間で、
これまた、そういった刺激ネタの好きな女子が集まる、
・・・ありがちな光景だ。
「あのよ、ホラ・・・、
こないだ言ってたの覚えてるか?
でっけぇ刃物を持った人形が、
夜の街に徘徊してるって噂が流れてるの・・・。」
「あっ、ネットで流れてるって言ってた噂でしょぉ?
誰か見たのぉ?」
「おう、オレの弟、
下の学年にいるじゃん?
直接聞いたらしいぜ?
見たっていう女子からよ・・・?」
「またーっ?
絶対嘘か見間違いだよ、そんなのぉ?」
「ばっか! 信憑性あんだよ!
TY町の古いマンションあんだろ?
公務員専用のあの雑草生えまくりのきったねーとこ・・・。
あそこの入り口の照明のてっぺんに、
いたんだよ、
見たの、そいつだけじゃねーんだってさ!
・・・確かに街灯の照明のかさの陰になるから、
輪郭ははっきりとはしなかったらしいけど、
大きさはネコなんてもんじゃない、
白と黒のモノトーンで、
まるでフクロウが人間並みの大きさになって、うずくまったまま、
地面を見下ろしてたって言うんだ・・・!」
「うそぉ!?
そんなの、大騒ぎにならない!?」
「いや、実際なったんだよ、
多分、マンションの住人が窓から見たんじゃねーの?
パトカーとか集まってきたんだってよ?
でも、パトカー着いた時にっていうか、
騒いでる間に急に姿が見えなくなったそうなんだけどよ・・・!」
一方、
教室の真ん中でバカ騒ぎをする者達がいれば、
後ろの隅っこで、
かったるそうに男子生徒だけでたむろっている者達もいる・・・。
だらしなく制服のズボンをずりさげ、
頭も染め、
・・・剃り込みなんてこの辺りでもいれるのか、
一目でわかる・・・いわゆる問題児達だ。
いま、ホラーネタで盛り上がってる者たちも、
「彼ら」に気を使って、
あまり大声で騒いでるわけでもない。
もう、慣れっこなんだろう・・・。
うまく住み分けがなされてる。
皆さんはここまで聞いて、
いわゆる暴力学級や、荒れた教室を想像するかもしれない。
だが少なくとも表面上、
この教室はそんな過激なわけでもない。
それは理由がある。
・・・「彼ら」問題児を統率するものが、
この教室にいるからだ。
いわゆる番・・・とか頭とか、
リーダーとか、
「彼」を呼ぶに相応しい呼称は、
一見、見当たらないのだが、
この教室、いや、学校全体見渡しても、
「彼」に逆らったり歯向かう者はいない・・・。
そんな恐ろしい存在は、
いったいどれほどいかつい体格をしているのだろうか?
それとも、ヤクザの息子とでもいうのだろうか?
・・・それはどちらでもない。
「彼」は外見上、
普通の生徒と大差なく、
中学三年生に相応しい、
小柄で、なおかつすべすべした肌の、
きれいな・・・薄くグレーがかったしなやかな髪を有する少年だった。
両親は大学教授である。
ある程度裕福ではあるが、
とんでもない金持ちというわけでもなく、
社会的に強大な影響力を持っているマスコミ受けのいい学者なわけでもない。
一般人は名前すら知らないだろう。
では何故に、そんな生徒が、この辺りを支配しているのか・・・?
それはおいおい、明らかにしていく・・・。
「・・・斐山さん、
『あいつら』の騒いでるマンションて・・・
斐山さんの近所じゃないっすか・・・?」
斐山と呼ばれた、
華奢な体格の生徒は無表情に反応する・・・。
「ああ、らしいね・・・、
そういえば、先週パトカー集まってたな・・・。」
「まさか、斐山さん・・・何か・・・。」
斐山と呼ばれた生徒は、
意味ありげな目線で、
ソリの入った目つきの悪い仲間を見上げる。
「・・・バカ言うなよ・・・
そんなヒマじゃないさ。」
「あ、そ、そうっすよね、
あ、いえ、なんでもないっす。」
午後の授業が始まる少し前、
教室に呼び出しの放送が鳴った。
『3-A、斐山優一、3-A、斐山優一、
至急、職員室まで来て下さい。』
教室の視線は、
その綺麗な髪の生徒に向けられる。
クラス全員の目が緊張と好奇の色に染められていた・・・。
また何かやったのか・・・?
今度はどんなトラブルを・・・?
取り巻きたちは、
少し嬉しげに少年斐山を見下ろしていた。
彼らにしてみれば、
斐山の武勇伝が増える事は、
この上もなく愉快な事だからだ。
当の本人は、やれやれとでも言いたげに、
ゆっくりと席を立つ。
「シカトこいてもいいんだけど、
・・・卒業も近いし、ちょっと行ってくるか?」
「今度は何の件っすかね?」
「なぁに、心当たりはある、
ちょっぴり、センセーどもをからかってやったのさ。」
そして彼は少し口元に笑みを浮かべ・・・、
その教室を出て行った・・・。
隠す必要もないので、説明いたしますが、
ここからの物語の主人公は、
「メリーさんを追う男」に登場した彼です。
ただし、こちらでは、
彼はまだ目覚めてません。