第三十八話 懺悔
今回のお話は、
前作「南の島のメリーさん達」を思い出していただければ・・・。
スコットランドヤード、ロンドン市警共に、
今回の大規模テロは、
イスラム過激派でも、アイルランド民族戦線いずれの組織も関係がないと判断するに至った。
一般人が潜入できない場所への爆弾の取り付け、
爆弾の性能、威力、
どれも通常のテロ組織のものでは有り得ないものであったのだ。
まるで一国の最先端の科学技術でも持ってないと・・・。
そしてまだ、
悲劇の混乱から覚めやらぬうちに、
追い討ちをかけるように更なる非常事態に発展する。
正体不明の爆撃機が国内を飛び始め、
国の重要施設を破壊し始めたのだ!
そしてそれは、フランス・・・スウェーデン、ポーランド、ロシアでも!
イギリス政府は戒厳令を発したが、
軍の中でクーデターまでもが起こり、
イギリス建国以来かつてないほどの混乱がこれから訪れようとしていたのだ・・・。
ここは上院議会・・・。
国会は紛糾し、怒声が飛びかう・・・。
軍の不祥事を理由に、
緊急喚問された空軍参謀総長ウーサー・ペンドラゴンが証人台に上がる・・・。
証人の言葉を待つため、
議場は多少静かになったが、いまだ各席からヤジが飛ぶ・・・。
「・・・皆様!」
議長による証人への形式的な質問の後、
その熊をも思わせる恰幅のいい初老の男、ウーサーは口を開く。
「皆様、今回の軍のクーデター、及び、一連のテロ事件・・・
それに対して、空軍参謀総長として、
女王陛下からここにおいでになる議員の方々、
そしてもちろん、国民の皆様に対し、
深く・・・深くお詫びしたいと思います!」
場内からはさらに罵声が響く・・・。
だが、ウーサーは全く怯む様子を見せない。
更なる力強い言葉が彼の口から流れる。
「そして皆様に、
さらにお伝えしなければいけないことがございます・・・!
これら一連の事件は、
・・・実は全て私が命令したことでございます!」
一瞬の静寂の後、途端に場内は怒声で沸き返る。
誰も想定すらしない言動が、
空軍を統括する責任者の口から流れ出たからだ。
「お静かに!
だが、事件はこれだけで終わりません。
むしろ始まりなのです。
既に世界各地で同様の事件が起きているはずです・・・。
なお、別に私は気が狂ったわけでもありませんよ、
命令したのは私ですが、
同じ志を持った仲間が世界各地に散らばっておるのですから・・・!
さて、なぜ我々がこんなことをしでかしてしまったのか、
死に行く皆様は、それだけでもお知りになりたいでしょう。
勿論、あなた方にはその権利がある、いえ!
むしろ知らなければならない!!
・・・振り返ってみてください、
自分たちの過去の振る舞いを・・・。
皆様、一人一人は大した罪をお持ちではないとは思います。
ですが、人が集まり、
民族、宗教、国になったとき、
我々人類はいかに罪深い行いをしてきたか、
身に覚えがあるはずです!
自らの悦楽のために動物を殺しまくり、
森林を焼き払い、大地を掘り起こし、地球を核で汚す!
人間同士ですら互いを殺し合い、
隣人であっても血で血を洗う殺戮を行ってきた・・・!
人類は・・・罪を犯しすぎました。
これ以上・・・、
これ以上如何なる罪を負うつもりでしょうか?
もう、良いではありませんか。
確かに、多くの平和主義者、
祈りを奉げる者がいつの時代もおりましたが、
・・・彼らが何を為したのでしょう?
何も出来ないではありませんか!!
さぁ・・・、
一度全てを元に戻してしまいましょう・・・。
もう一度、人間は最初からやりなおすべきなのかもしれません・・・。
いいえ、
我々はその新しい世界に安住するつもりもありません。
いかなる大義名分を抱えようと、
我々のやってることは殺人であり、
許されるものではありません・・・。
自分の罪の深さ、恐ろしさは覚悟の上です・・・。
我々は、
天国の主の下にたどり着くことは出来ないでしょう。
願わくば、
我々の手に掛かった犠牲者達が、
主の哀れみと慈しみの恩恵に預かれるように・・・、
それだけを真に願うものです・・・。
私は責任者・・・私の罪が一番大きい。
それを述べるためだけに、この証言台に参りました・・・
それで・・・
思い残すことはございません・・・
一足お先に・・・、
地獄の炎に焼かれてまいります・・・!」
それだけ言うと、
騎士団総司令官ウーサー・ペンドラゴンは、
証人台の机の下から短銃を取り出した・・・!
既にその準備を事前にしていたのだろう、
彼は何の迷いもなく銃口をこめかみに当て、
目から一筋の涙を流した跡、
いとも簡単にその引き金を引いたのだ・・・!
すぐにその巨体は、
議場の床に大きな音を立てて崩れ落ちた・・・。
そしてこの様子は、
テレビで生中継されており、
イギリス全国民に、
その一部始終が知らされることになったのである・・・!
ここにも二人の女性が・・・
その様子をテレビで眺めていた・・・。
いや、
眺めていたと言う表現は正しくない・・・。
その内の一人がつぶやく。
「アイム メァリ ラブゥ・・・
お送りするはブゥードゥーマジック・ソウル プロヴィデンス・・・。
グッナイ、ベィビー・・・。」
そして・・・、もう一人、
レースとフリルのメイド服を着た魅惑的な白人女性。
スカートがやけに短く、白いニーソックスとの隙間に見える太ももの一部が眩しい・・・。
その少女は、
胸が健康的に発育した黒人女性に向かって微笑んだ・・・。
「お見事ですわ、任務完了ですね?
術の対象者の隠された本心を引きずり出し実行させる・・・
そんな術なんでしょうか?」
ラブゥの表情は相変わらずぶっきらぼうだ。
「アンタも見届け役をこなしたってことだね、
しかもずうっと、あの男にメイドとして仕えてたんだろう、
マインドコントロールを完全なものにするために・・・。」
「まぁ?
そんな大した事じゃございませんことよ?
女性なら、男の人を意に従わせるなんて・・・
誰でもやってることでしょう?
あなたに渡す髪の毛を拾うのも簡単だったし・・・。」
「しかし会った事もない人間にまで術が効くとは・・・、
黒十字団が作った人形の効果は凄いな・・・。
どうやって作るんだ、こんなの?」
「あまり余計なことは詮索しない方がお互い身のためですわ、
ビジネスはビジネス、割り切っていきましょう?」
「ああ、
なら、気づいてると思うけど、
あの男、わたしの術で本心を強化させなくても・・・
たぶん自分で引き金を引くつもりだったよ。
心の中は、
罪の意識と自分を責める心情でいっぱいだった・・・。
でも、報酬はちゃんと頂くよ・・・。」
「もちろん、どうぞ、
別にわたくしが払うわけじゃございませんですし、
わたくしもわたくしの仕事をしただけですもの。」
「・・・ドライだね、
あの男には、
アンタに対する恋慕の情もこびりついてたみたいだけど・・・?」
「まぁ! 気持ち悪いですの、
あんなお爺さん、
仕事でもなければ近づきたくもないですわ。」
「・・・そういうわたしも似たようなもんか、
世界がどうなったって知ったこっちゃない・・・。」
「うふふ、そうですよ、
メリーさんはメリーさん、
誰かに自分の人生を干渉されるなんてまっぴら。
自分のやりたいようにやるだけですわ。」
「アンタも・・・か、
そういえば、名前は聞かなかったな、
一応覚えておこうか?」
「わたくしですか?
わたくしはベアトリチェ・・・
ベアトリチェ・メリーよ、
今後ともよろしくお願いしますね、メァリ・ラブゥさん?」
この後、
全世界に騎士団の侵攻が始まっていく・・・。
同時に、
各国の反乱軍やテロ組織がそれに便乗して、
混乱に拍車がかかるのだが、
破壊と暴走を止めるために立ち上がった一人の男、及びその仲間たちによって、
騎士団の狂気に走った野望は打ち砕かれる事となる・・・。
それは・・・
「語られない物語」で、その物語の一端を明らかにしよう。
と言うわけで、
騎士団の一番偉い人が死んでしまいました・・・。
次回、最後の語られない物語!!