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第三十六話 脱出

 

リジー・ボーデンの狂気を孕んだ笑みが麻衣に向けられる。

 「・・・なぜ・・・? 

 どうして、あなたはパパを殺さないの!?

 貴方はパパが大好きなんでしょう?

 ならその手で殺さなきゃ!! 殺すの! 

 さぁ、一緒に手伝ってあげる!!」


麻衣のカラダに戦慄が走る!

この瞬間、麻衣は初めて恐怖を覚えた。

その恐怖とは、

過去の映像の中の登場人物が、

観客者である自分に話しかけてきたという、

驚愕の事実からくるものだけではない。

「愛する者を殺す」事を本能に組み込まれたリーリトには、

抗しがたい禁忌の誘惑なのだ。

隙を見せればあっという間に、

自分の心の奥底に眠る殺人衝動が湧き上がってくるに違いない!


 ・・・もしそうなったら?

 ママが殺せなかったパパを・・・あたしが!?

 ダメ! これ以上ここにはいられない!


そしてこいつ・・・! 

全てはこの女性こそが元凶なのだ!

 

 

麻衣は必死の思いでこの場から離れようとした。

 家の外に・・・

 あれ? 家の外?

 出口は? 出口がない!!


慌てて後ろを振り返ると、

リジー・ボーデンが薄ら笑いを浮かべながら近づいてくる!

しかも狂気の色を浮かべた目は、

不気味な光をたたえ、

真っ直ぐ麻衣に焦点をあわせている・・・!


 どうして!?

 これ過去の映像でしょ!?

 あいつに捕まったらどうなるの?

 まさかあたしも操られてパパをっ!?

 誰か! 誰かここから出して!!


 ・・・マイ マイ・・・ 麻衣っ!!



どこからか、自分を呼ぶ声・・・これは


 ・・・懐かしい声がする!

 ママだ! ママの声が聞こえる!


 『麻衣!! こっちよ、早く!!』

 

少し離れた壊れている窓ガラスから・・・

いや!

もっと遠い外の世界から百合子の声が聞こえてきた。

麻衣は全速力で、

窓に向かってカラダを突っ込ませる。

ドサッと草むらに落ちたが、

過去の映像なのだ、痛くもなんともない・・・

 それより早く!

 早く現実世界に戻らないと・・・!


後ろからは、

この世の終わりを告げるような、

けたたましい笑い声が聞こえてくる。

聞いているだけで頭がおかしくなりそうだ・・・。

振り返ってなんかいられない、

麻衣は百合子の声に従って、自分のカラダに還る道を見つけた。

このまま真っ直ぐ行けば・・・!




そしてようやく麻衣は、

精神を元通り、自分のカラダに戻すことに成功したのだ・・・。

 だ め 、

 も う・・・げ ん・・・か い・・・。

 


 「・・・ちゃん! 麻衣ちゃん!!」

カラダは汗でびっしょりだ・・・。

絵美里が心配して麻衣のカラダを抱きしめている・・・。

 「麻衣ちゃん!

 ・・・良かった、気がついた?

 だいじょぶ!?」


麻衣は力なく、まばたきを繰り返す・・・。

 「あ・・・、マ、ママが助けてくれたの・・・、

 それよりわかったよ・・・、」

 「わかった?

 もう麻衣ちゃん限界よ!? 早く帰ろうっ!?」

 「・・・そうだね・・・

 でも、ああ、気が遠くなりそう・・・、

 今のうちに聞いて・・・?

 特に・・・麻里ちゃん・・・。」

絵美里は目をパチクリした。

 



 「ああ・・・変わんなくていいよ、そのままで。

 あたしの声、聞こえるでしょ・・・。

 あのね・・・麻里ちゃん、

 前に話してくれたでしょ・・・?

 自分が死んだ時のこと・・・。

 幽鬼になるか・・・悪霊になるか、

 際どい状況だったって・・・。

 この男にはね・・・、

 物凄い・・・それこそ麻里ちゃんの死んだ時の怨念の、

 たぶん何倍ものエネルギーを持った悪霊がくっついてたの・・・。

 きっかけは、

 メリーさんの羊だけだったのかもしれない・・・、

 でも、そこから、別の歌につながり・・・

 よりにもよって、

 この男は、悪霊のエネルギー体への回路を開いちゃったの・・・、

 そして・・・まるで水道管を水が流れるように、

 この男の心に・・・

 リジー・ボーデンって女の人の怨念が流れ込んでしまったの・・・。」

 

 

 「その人はもう、死んでいるの!?」

 「うん・・・生きてる時にも怨念は出せるけど・・・

 生きてる時っていろいろ、心理状態は変わるでしょ?

 だから、そんなに強いエネルギーは出せないの、

 ・・・でも死んでしまうとその思いは固定されてしまうので、

 時々・・・今回みたいな強い念が残ってしまうの・・・」

そう、


あのヨーロッパの深き森で領主に殺されたマリーも、

一歩間違えば、

他人に害なす悪霊の仲間入りをする所だったのだ。

だが今、

麻衣が体験した亡霊・・・リジー・ボーデンは、

マリーより遥かに・・・

そしてリーリトをも脅かすほど、

凶悪な悪想念をばら撒いていたのだ・・・。

その死後、百年以上経った現在も・・・!

 


ガンガン!


体育館の扉が叩かれた!

仰天した絵美里が振り返ると、

少しして、体育館の扉が音を立てて開いていく・・・。

 一体、誰・・・!?


そこに現われたのはワイシャツ姿のスティーブ・・・!

 「スティーブ! 無事だったの!?」

 「オーゥ! エミリーさんもご無事で!?

 えみ・・・マリー・・・さん?

 どっち!?」

 「エミリーよ!

 でもどっちでもいいわ、

 ねぇ手を貸して!

 麻衣ちゃんを家まで運びたいの!!」

 「そのキュートな女の子が娘さんデスかぁ!?

 お安い御用デス! では今すぐに!!」



既にもう、麻衣は力を使い果たし、

絵美里の腕の中で意識を失っていた・・・。

だがこれで、

今回のヤギ声の男事件は、全て終わりを迎えるのだ。

これ以上、犠牲者は出ないし、

事件も起きない・・・

「ヤギ声の男」事件については・・・だが。


今はただ、

この先の恐ろしい運命を知るのは、

体育館にただ一つ残された、

黒光りする「死神の鎌」だけなのかも・・・しれない。

 




正確にはリーリトに組み込まれているのは「愛する者を殺す事」ではありません。

現状、リーリト麻衣にとって一番、殺すべき立場にいるのが「パパさん」と言うだけです。


そして、この後エンディングに向かうわけですが、

事態は・・・。

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