表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/676

第三十五話 潜行

実話が元になっています。



太陽がじりじりと照りつけている・・・。

セミがたくさん鳴いてるが、

知っている種類の泣き声ではない。

風景も家の種類も日本のものではなさそうだ・・・。


アメリカかオーストラリアか、

・・・そんな広い土地がある国・・・。

その草原にポツンと建っている家の庭は、

手入れのされていない雑草でぼうぼうだ・・・。

でも、無人の家ではない。

申し訳程度に掃除されている部分もあれば、

門の周りは草が刈られている・・・。

この男の実家だろうか・・・?

いや、違う・・・!

この風景は男の記憶ではない。

誰かの記憶が混じりこんでいる?

まさか羊の・・・

なんてことはないだろうに・・・。


麻衣が意識を向けている景色は、

この男の他の記憶とは完全に一線を画す風景だ。

「りじーぼーでん・・・」の歌とリンクしているこの情景を見ていると、

何か異様な圧迫感のようなものを感じる・・・。

 

麻衣は残留思念の中の、

その家のそばに近づいた。

・・・何だか嫌な気配がする・・・。


 りじーぼーでんって何?

 人の名前?

 とぅっくあんあっくす?

 えーと、ティクの過去形・・・あっくす・・・ 斧!?

 そういえば、

 こいつは日本語でも歌ってた・・・

 確か、父親と母親を斧で殺したって・・・?

 誰が?

 この男?

 それともただの歌の中の出来事?



 ・・・ギ ャ ア ア ア ア ア ア!!


 え!? 今の・・・悲鳴!?

家の中から誰かの絶望的な叫び声がした。

麻衣は思わず門をくぐりぬけ、

その重い扉をガチャリと開く・・・。

 



 ・・・チック、タック

 チック、タック・・・


家の中には正面に立派な柱時計がある・・・。

玄関は泥だらけで汚ない・・・。

その辺に長靴やスコップなんかが無造作に並べられている・・・。

さっきの叫び声は二階から聞こえてきたような・・・。


・・・もう、この時点で、

麻衣が行っているのは、

「物」や「人」から付随情報を読み取る「サイコメトリー」の領域の境界を超えていた・・・。


これはもはや、

自分のカラダから精神を遊離させ、

他人の意識下に潜る・・・

いわゆる「サイコダイブ」だ。

もちろん、その能力は、

サイコメトリーより遥かに高度な能力で・・・

そしてさらに危険な能力だ。

その訳は・・・。


麻衣はゆっくり階段を上がる・・・。

調度品は立派な・・・

いや、本来立派なものが多かったんだろうが、

汚れていたり、所々破損していたり・・・

向こうの窓ガラスはひびが入ったままだ・・・。

階段の途中で何か聞こえる・・・。


 シクシク・・・ウウ ウッウッ・・・

誰かが泣き続けている・・・

そんな声だ・・・。

 

くぐもって聞こえる女性の声・・・。

麻衣が階段を上がりきった時には、

その泣き声は完全にはっきりと聞こえていた。

・・・この廊下の向こうの部屋・・・。


 (ウッウッ・・・どうして、どうして?

 何故こんなことに?

 パパ、パパァ・・・!)


奥の部屋の扉の、

さらに奥にその女性はいる・・・。

扉は少し開いていた。

麻衣はそおっと、扉の隙間から覗く、

その光景・・・。

一人のうずくまった女性が、

涙を流しながら、

床に転がっている何かに向かって語りかけていた・・・。


 ・・・あれは死体!?

 酷い・・・、

 顔というか頭部は原型を留めていない・・・。


手足も正常な角度でくっついてないし、

何しろ部屋の床は大量の血でびしゃびしゃだ・・・。

うずくまった女性は、

ようやく泣き止んだようだが・・・、

死体は彼女の父親だろうか?

 


部屋の中のその女性は、

ふらふらと立ち上がった・・・。

しばらくうつむいたまま動かない。

だが、

・・・彼女が部屋の出口に向かって振り返ったとき、

この部屋で何が起こったのか、

麻衣は完全に理解した!


その女性の服には大量の返り血がこびりついていたのだ!

・・・そして右手には無骨な柄をした古めかしい斧が・・・!


 彼女がこっちに来る!

・・・これはヤギ声の男の残留思念であり、

現実の出来事ではない。

それはわかっていても、

ついつい身の危険を感じ、

階段の下へ駆け下りて隠れてしまう。


 ゴツ・・・ゴツ・・・

その女はゆっくり部屋を出て、

一歩、そしてまた一歩と確実に階段を下りてくる。

もはや、先ほどのように取り乱したり興奮している様子もない。

麻衣の位置からはその女性の姿が見える・・・。

肩パットの入ったブラウスに、

バルーンスカートを着た、ややふくよかな印象の女性・・・、

しかし、パチクリとした目は、

強すぎるほどの意志の光を帯びていた・・・。


女性は階段を下りきると、

そのまま一階の奥の部屋に向かう。

血だらけの斧を掴んだまま、

いったい、どこに向かおうというのだろう?

 


女は一階の角部屋の奥に消える・・・、

ところがすぐに、

バタバタと慌ただしい音が聞こえてきたのだ。


 ( ・・・ンン! リジッ! ゴギャッ

 ヘルップ!・・・ンハッ グゲ・・・ゲボ

 ドガッグシャァッ!!)


・・・悲鳴・・・いや、

悲鳴なのか嗚咽なのか、

カラダをグチャグチャに破壊してる音なのかは、もう判別しようがない・・・。

ただ、それが悲鳴だとしたら、

その被害者は、

やや年老いた感じのする女性のものだ。


この時点で麻衣は、

あの歌の内容が、完全に事実を元に作られたものであることに気づいていた。

この斧を手にした女性こそ、

「リジー・ボーデン」に違いない。

いま、自分が目前に見ている光景は、

夢でも妄想でもない。

遠い過去において実際に起きた猟奇殺人。

そしてこの事件が世間に広まった事により、

マザーグースの一つの童謡として、

彼女が取り上げられたのだろう。

その女性・・・リジー・ボーデンは、

自らの父親を斧で殴り倒し、

いままた、母親をもその手に・・・!


麻衣は勇気を出して、

その奥の部屋に近づく・・・。

 

 

きっと、

この女性のしでかした事件こそが、

ヤギ声の男に多大な精神的影響を与えたんだ・・・。

・・・部屋を覗くと、

その女性・・・リジー・ボーデンは、

既に動かなくなった母親の残骸を、

今もなおその斧で破壊し続けている。

しかも、なかば狂喜じみた笑みを浮かべ、

執拗に斧を振り下ろすのだ。

一体どんな理由で両親を殺そうと言うのだろうか?


 リジーボーデン、

 斧を手に取り父さんを、40回と滅多打ち、

 我に返ったリジーボーデン、

 今度は母さんを、41回滅多打ち・・・

   

しばらくその恐ろしい姿を観察していた麻衣だったが、

この後さらに信じられないような出来事が、

彼女を待っていたのだ・・・。


・・・女はようやく満足したのか、

息を落ち着かせながら斧の動きを止めた・・・。

腕が疲れたのか、

斧を真下の人間に突き刺したまま、うつむいている・・・。

だが、・・・口はもごもご何かつぶやいているようだ。

しばらくそうしていた後、

なんと彼女は突然、

こちらに振り向いた。


部屋を覗いていた麻衣に向かってニタァ~っと笑いかけたのである!

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRoid版メリーさん幻夢バージョン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ