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第三十二話 帰還


一方的に、老人に説教かまされたカタチの少年は、

落ち込むことも悔しがることもなく、

冷静に老人の言葉を理解しようとする。

 「いや・・・、そういうことか、

 なるほど、いい勉強になるな、

 だが君のことだ、

 話半分で聞かせてもらうよ。」


老人はこけそうになる・・・

馬鹿馬鹿しくなったのか、片手で頭をボリボリ掻いた。

 「・・・仕方ないのぉ?

 ま、こんなこともあるだろうと思って既に手を打っといたわい。」

 「なんだって!?」

初めて少年に動揺が見えた。

老人、レッスルには予知能力は無いと分析していたのに・・・!?


 「おっと、誤解せんでくれ?

 おぬしの為じゃ、

 人間の心を知りたいんじゃろう?

 ある知り合いの女性に、

 お主のプロフィールを紹介したんじゃ、

 ・・・超心理学的な手段での。

 天使と恋仲に陥れると言うのなら、

 喜び勇んでおったぞ、

 ま、障害は多いじゃろうがな。」


少年はしばらく無言だったが、

そのうち呆れたように口を開く・・・。


 「・・・ちょっと待ってくれ、

 最近、人間として使ってるメアドに、

 やたらとメールを送ってくるマーガレットという女性は・・・。」

 「おほぉ、相変わらず積極的じゃの、

 派手な格好しとるが、気立てのいい女性じゃ、

 まさか天使様がつれない言葉は吐かんじゃろうな?」


少年は頭を抱えた・・・。

一応こういうとき、どういうアクションをとるべきかは学習しているらしい。

 「・・・恐ろしい、本当に恐ろしい存在だよ、お前は。

 この世から消してしまいたいぐらいだ・・・。」


それを聞いてレッスルは、いつもの様にニヤッと笑う。

 「本音かの?

 まぁ、安心するが良い、

 いずれにしろ、この時代ではもうわしの役目はない。

 かつてから胸につかえていた後悔もいまはない・・・。

 このカラダの寿命を待っとっても良いのじゃが・・・。」


 「フン、しらばっくれるのはよしたらどうだい・・・?

 ヴォーダン復活には多くのエネルギーがいる・・・。

 お前の命も例外では・・・あるまい。」

 「・・・ホホ、ご名答じゃよ、

 さて、それではいい機会じゃ、

 とっととこの世からおさらばするかの?」

 「待ってくれ・・・、一つ聞きたい。

 お前は・・・ヴォーダンは完全復活をするつもりなのか、

 この現代で!?」


・・・老人は再びベンチに横たわる。

一度、少年の問いに顔を横に向けたが、

そこまでバカ正直に話すつもりもないのだろうか、

質問には真っ当には答えずはぐらかす・・・。

 「フッフ、安心するがよい・・・、

 『彼』もまた、進化の途中じゃ・・・、

 他の人間たちと同様、悩み、苦しみ、怒り、悲しむ・・・。

 お前さん達からすれば馬鹿馬鹿しく見えるかもしれんが、

 人は母の胎内で、

 過去の進化を繰り返す・・・。

 そうやって産声をあげるのじゃ・・・、

 そして、それは個人の話ではない・・・。

 人は何度も何度も間違え、

 愚かな行為を繰り返し、

 祖父母の代から父母、子供、そして孫へ、

 未来永劫繰り返していくのじゃ・・・。


 そして・・・ヴォーダンの命にも限りはある・・・。

 わしにはわからんが、

 既に我が主は自らの死の光景を見透している筈じゃ、

 そして、その後どうするかは人間自身が決めればいい、

 老兵は去るのみ・・・、

 新しい世界は新しい世界に住む者が作っていく・・・

 お前さんたちはそうは思わんかね?」

 「・・・・・・。」

 

老人は顔を戻して、

たった一つだけ開いていた目を閉じる・・・。

両手は胸の上に組まれていた・・・。

まるで眠るかのように・・・。


「少年」はその姿を見て、

何故かいらつきを覚えていた・・・。

人間の感情など沸き起こるはずもないのに。

そのいらつきとは、

自分で「心」をコントロールできないことによるものである。

ときどき・・・湧き上がるこの衝動。

 いったいなんだと言うのだ!


 いや・・・もうここには用はない。

少年は反転し・・・もと来た道を帰ろうとする。


ところがである。

途中、たちの悪いごろつきの二人組みが、

身なりのいい少年に絡んだ・・・。

 「はぁい、ぼっく~!

 どこから来たのぉ?

 お兄さん達といいこといしないいぃぃ!?」

 「お財布があったら、おいてってくれるだけでもいいよぉぉぉ!?」


だが、少年は彼らを一瞥すると、

鼻を鳴らして無視して通り過ぎようとする。


 「ちょっとぉぉ、待ちなさいぃ?

 人が話しかけてるのにその態度はなぁにィ?」

一人が小柄な少年の肩に手をかけた。

おねぇな話し方とは無関係に、かなりの力で掴まれている。


・・・その手をにらむ少年。

やはりと言うべきか、その顔には全く感情が見えない。

だが少年は、

すぐに手をかけた男の顔に向かって口を開いた。

 「・・・放せ、人間・・・。」


その言葉は、せっかくの獲物を弄ぼうとする彼らの悪戯心を更に刺激したらしい。

ごろつきたちは互いの顔を見つめて笑い出した。

 「あっはっはぁ!!

 『放せ人間』ですってぇぇ!

 こっわぁぁい!!」

 「きっと照れてんだよぉぉ、

 たっぷり可愛がってやろうぜぇ?」


少年はため息をついて、首を元に戻す。

 「放せ、と言ったはずだ・・・。」


ごろつきたちは更に下品な行動に出ようとしたのだが、ここで様相が一変する。

二人は、突然自分のパートナーのカラダに起き始めた異常に気付いた。


 ・・・ブクッ ゴボゴボ・・・!


尋常では考えられないほどの急激なる肉体の変貌!

・・・互いのカラダが見る見る化け物の姿に変わっていく!


少年はの方はなんともないのに!?

今の今まで仲間だった者の姿が、

眼球が浮かび上がり、

口からは凶悪な牙が伸び始め、

皮膚はボコボコと膨れ変色していたのだ!

 「ば、化け物ぐぅあああっ!?」


魔界から召還された悪魔!?

或いは異次元から来訪した生物に憑依されたとでも言うのか!?


二人の目は、互いに生理的恐怖をもよおす醜悪な姿に変貌していく姿に釘付けされていた。


もはやこいつは仲間ではない!

自分の身に起きた変化などより、

目の前のおぞましき化け物から身を守らなくては!!


 「グルァオオオォオッ!!」

 「ヴォアアアオッ!!」

二人は刃物を取り出し、

奇怪な叫び声をあげながら、

終には互いのカラダを切り刻み始めた!

耳を塞ぎたくなるような、肉に刃物が食い込む音が絶え間なく続く。

痛みは感じてないらしい。

ただパニックを起こしたまま、

どす黒い体液を身体のあちこちから噴出させ、

互いの命が尽きるまで殺し合いを行い続けたのだ・・・!



それからどれぐらいの時間が経ったのだろう?

いつの間にか、

少年はその場から姿を消していた・・・。

後に地元警察は、

ベンチで死んでいるレッスルと、

少し離れた道端で、ケンカがエスカレートしたのか、

二人のごろつきの流血死体を発見する・・・。

・・・もちろん、その死体は化け物のカラダである筈もなく、

ありきたりの人間そのもののままである。


少年が老人と話している姿、また、

この少年が、

二人のごろつきに絡まれている姿を目撃したという情報はあったが、

複数の証言の一致から、

事件として扱われたのは、この二人のごろつきの仲間割れだけとなった・・・。


これが・・・一年前、

フランスの移民居住区で起きた出来事である・・・。

 



これが


「少年」の能力の一端です。


そして、

ニコラ爺さんこと、レッスルの出番はここまでとなります。


明日よりまた元の中学校体育館での話を。

ついにヤギ声男との戦いにピリオドが。



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