第二十六話 策
前日は二話投下したせいか、たくさんの方々が読みに来てくれました。
今後もよろしくお願いします。
・・・小タイトルの話数間違えたのと、
抜け字などを修正したのは内緒です。
麻衣は、
体育館の重い扉をゆっくり・・・
ゆっくりと開けた。
中は非常灯の明かりだけがついていて、
お互いの顔も良くは見えない。
ただ、麻衣は毎日のように見慣れているので、
どこになにが設置されてるのかは大体把握している。
「麻衣ちゃん、どこを探せばいいの?」
「うーん、
まず右手の奥におっきい扉が見える?
あそこにマットとか、
跳び箱とかの道具が置いてあるんだ、
・・・そこになければ、
正面の扉を開けると、地下への階段があって、
降りると先生たちの控え室があるの、
・・・ただ、そこは鍵が閉まってるかも?
どっちかにはあると思うんだけど・・・。」
「・・・じゃあ、まずは近い方から行きましょお?」
二人は体育館の中をゆっくりと歩く・・・。
広いだけに、
気をつけていても靴の足音が響く・・・。
端っこを歩いていてもいいのだが、
真ん中が一番、外の様子を掴みやすい。
絵美里は、ドキドキ警戒しながらも、
体育館の設備に目を向ける。
あれがバスケットボールのネット・・・、
右手には一段高くなった講演台?
天井には、
なんだか細い鉄のパイプみたいのが並んでいる。
明るい所で見てみたいが、
今は照明をつけるわけにもいかず、懐中電灯の光も向けられない。
二人はすぐに用具置き場に着いた。
まさかとは思うが、一応用心して、ここの扉もゆっくり開ける。
静かなだけに、
扉を開ける音も大きく聞こえる。
・・・ヤツは今、どこにいるのだろう?
そういえば、ヤツは裸足・・・
足音を消すにはあたしたちよりかは有利だ。
用具置き場の扉を閉めて、
麻衣は懐中電灯の光をつけた。
その光に、
跳び箱やらバスケットボールの籠やらが浮かび上がる・・・。
・・・ないかなぁ・・・。
あ! これ!?
麻衣は、
円筒状に巻かれたバレーボールのネットを見つけた、
こいつをヤツに巻き付けちゃえば、きっ
( ガチャーンッ !!)
なに、今の音!?
・・・少し離れた所から聞こえてきたように感じるが、
体育館の外だとしたら、
こんなはっきりとは聞こえないんじゃ・・・。
麻衣はしばらくじっとしていていたが、
バレーボールのネットの上に座って、
目をつぶった。
恐らくこれが最後の能力の使いどころだろう。
・・・そしてそのまま絵美里に話しかける。
「絵美里ちゃん・・・やってみる。
透視する間、動けなくなるから、
周りに注意しててね・・・!?」
麻衣ちゃん、平気なの!?
と、絵美里は言いかけようとしたが、既に麻衣は瞑想状態に入っていた。
もはや邪魔するわけにもいかず、
絵美里は黙って辺りの警戒に注意を払わざるを得ない・・・。
・・・基本的に麻衣の遠隔透視には二つのパターンがある。
一つはエリアを対象に絞るやり方・・・
そこから視界を移動させることもできる・・・。
それと、
特定の人物に絞るやり方・・・
ただし、これは相手のことを知っていないとほぼ不可能だ。
任意ではなく、
不意に遠くの出来事が脳裏に浮かぶ事も時々あるが、
これは、リーリトの能力が不安定な時や、
身体や精神面で疲れているときに起こりやすい。
かつて、レッスルが懸念したのも、
そういう事態が最悪の影響を精神面に及ぼす場合である。
今や、自分の能力をほぼ使いこなせるに至った麻衣は、
自分の能力の限界に挑戦するのは今しかない、とも思っていた。
・・・そしてスキャン対象はあの、
裸の男・・・。
視たくはないが、しかたがない。
もはやエリアスキャンで、
時間をかけて透視できる精神力は、もう残ってない。
直接、ヤツを探すだけだ・・・!
麻衣の脳裏には、
先ほどの男の姿が浮かぶ・・・、
今、どこに・・・!?
・・・視える! ヤツだ!
真っ暗な映像の中に、
顔面を血だらけにした男の姿ある。
相変わらず素っ裸で、背中を曲げて移動しているようだ。
あとは透視映像を広げ、
ヤツの背景までがわかるようになれば・・・!
麻衣の顔からは汗が大量に流れ出し、
頬を伝った汗は、
ネットの上や体育館の床にポタポタ落ち始める。
カラダもブルブルと小刻みに震え始めた・・・!
恐らく顔色も青ざめているのだろう、
明るい所なら、唇が紫色に変化しているのもわかったかもしれない。
それでも、麻衣は透視を続ける・・・!
ここはコンクリの通路・・・
アイツはあの腕から生えてる金属の突起物を振りかざして・・・
窓を割った!?
ここは体育館の裏側・・・
先生の控え室に繋がっている外側の通路!?
・・・体育館へ入るには、
自分たちが通ってきた正面玄関から曲がってくる道と、
校庭から地下に降りる階段を通って、
トイレやら控え室・更衣室なんかを通り越して、
また階段を上がって、この場所に来る道と、二通り方法がある。
ヤツはもう一方の道を使ったのだ!
・・・そして麻衣が驚いたのは、
自分の能力が限界いっぱいのせいなのか、
今見た光景は、
先ほど聞こえた衝撃音の映像である事だとわかったことだ。
無意識にスキャンする対象に、
先ほどの音が混入してしまったのだろう、
スキャンしたものは、
現在の光景ではなく、
少し時間が遡った過去の映像になってしまっていたのだ。
・・・すでにヤツは体育館の中にいる!!
もはや、これ以上、
透視でヤツを追うのは危険だ!
視ている間に襲われてしまう!
麻衣の透視映像の中で、
裸の男は顔を歪めながら、けたたましい笑い声をあげていた・・・。
ンェェエエエエ!!
メリーさん、 ここだよぉ・・・、
僕は正気だぁ・・・
さっきはどうにかしてたんだぁ
だから、君の毛皮を41回、
はがさせておくれぇ・・・!
男はそう言って、
窓から侵入した控え室のドアを開けた・・・!
そこは体育館の地下通路・・・。
麻衣は目をかっと見開いた!
ゼーッ、ゼーッ、ゼーッ・・・、
目は空の一点を見つめ、
肩で息をしている。
既に制服の背中や、
鎖骨の辺りは汗でびっしょりだ・・・。
「麻衣ちゃん、だいじょぶ!?」
心配して絵美里は後ろから麻衣に抱きついた・・・。
ああ、こんなに冷たく・・・!
体温が異常に低下してしまった麻衣は、
母親のカラダを暖かく感じるが、
もう、そのぬくもりを味わっているヒマはない・・・!
「・・・はぁ、はぁ、絵美里ちゃん・・・はぁ、
もう、ヤツはこの建物の中にいるわ・・・!
気をつけて!!」
麻衣は自分のカラダにかかった母親の掌だけを握り締める・・・。
今はそれだけでいい!
そして麻衣と絵美里は、
最後の賭けを選択する。
二人は、この用具室に立て篭もるのは不利だと判断して、
決死の思いで、部屋から広い体育館のフロアに躍り出た・・・。
よし・・・まだヤツはここにいない・・・。
麻衣は重いバレーボールのネットを抱えて、
苦労しながら体育館壁際の梯子を登る・・・。
つらいけど・・・、
あとひと踏ん張り・・・!
そして絵美里は、
地下へと続く扉の真ん前で、片手で定規を構えて仁王立ち。
・・・もう片手には懐中電灯を。
どこから来たとしても、
目立つのは絵美里だけだ。
さっきも、ヤツは絵美里(百合子のカラダ)を狙ってきたし。
・・・麻衣がなんとか二階へと登りきった。
二人の作戦は、
男が絵美里に襲い掛かるときに、
頭上から麻衣がネットを落とし男を絡めとるというものである。
完全に行動不能にする必要はない。
男が諦めて観念すればそれでいいのだ。
その気になれば、殺傷能力の無い定規とて、
「目玉に突き刺す」と言えばかなりの脅しになる。
・・・だが、この作戦で本当にいいのか?
けれど、もう彼女たちにそれを振り返る時間も精神的余裕もない。
絵美里はすでに万全の決意でそこに立っていた。
後は・・・閉ざされた扉に向かって開戦の叫びを!
「裸のひとぉーっ!!
あたしは・・・、メリーはここにいるよーっ!!」