第十六話 卵
あれ、スティーブが先に気づいた?
ちょい、句読点や語句の表記を修正しました。
・・・放送はすぐに切れてしまったようだ・・・。
二人は顔を見合す。
「・・・スティーブ・・・今の歌って・・・。」
「聞いたことがあるような気がしマスね・・・。」
「ヤツは放送施設のある部屋にいるの?」
「・・・恐らくそうデショう、
方向としては、正門側じゃないデスかね?
一階か二階か・・・。」
すると右側に向かうのが正しいのだろうか?
それにしても、
なぜあの男は変な歌ばかり歌うのか?
・・・それも替え歌臭い・・・。
何か共通点でもあるのだろうか?
二人が薄暗い廊下を再び歩き始めた時、
絵美里は、
足元から廊下の先に点在する、白いゴミのようなものに気づいた・・・。
廊下の窓から差し込むわずかな光でもかなり目立つ・・・。
何だろう?
それと同時に、
踏み出したつま先の下にも何か異物感を感じた。
「・・・きゃ・・・?」
「エミリーさん?」
無言で真下を見つめる絵美里は、
硬直したままスティーブに頼み込む。
「・・・ねぇ、スティーブ、足元を照らして?」
ピカッ
光の束が廊下に走る。
すぐにその光は絵美里の足元を浮かび上がらせた。
そしてその瞬間、
二人は息を呑み込んだ。
小さな顔・・・頭?
小さな生き物らしき死骸だ・・・、
まわりにヌルヌルした液体がまとわりついている。
これは胎児というか・・・
いや、孵化する直前のヒナじゃあないか?
では、廊下の白いモノは卵の殻なのだろうか?
懐中電灯の光が再び廊下の先を走ると、
やはり卵の殻らしきものが、
所々落ちているのがわかる。
そしてスティーブは、
呻くように言葉を搾り出した・・・。
「卵・・・? 歌・・・、
さっきの歌は・・・
もしかしてハンプティ・ダンプティ・・・!?」
ハンプティ・ダンプティ・・・?
絵美里の記憶にもそれはある。
「それって・・・『鏡の国のアリス』・・・?」
「私も詳しくはありまセンが・・・
そんな歌がありまセンでしたか?
・・・『不思議の国・・・』の方デシたっけ?」
二人ともそれ以上は追及できなかった・・・。
別にその歌がわかったからと言ってどうなるわけでもないし・・・。
スティーブは明かりを消し、
足元の卵の殻を目印に二人は進み始める。
右手に教室が並んでるが、誰かいる気配はない。
卵は数メートル間隔で、
ほぼ一定の割合で割られている・・・。
光で照らせば、べとついた跡も確認できるだろう。
それにしても、こんな孵化直前の卵なんてどこで仕入れてきたのだろうか?
しかも何のために?
そのうち、卵の殻はある部屋の前で途切れていた・・・。
顔を上げるとそこは教室ではない・・・「放送室」・・・。
ヤツはこの部屋にいる・・・!
二人は顔を見合わせた。
絵美里は直角定規を握りしめる・・・。
しかしこの定規は、
実際、武器として役に立つのだろうか?
スティーブは扉に手をかけた。
片手には懐中電灯を持っている。
放送室の中は電気がついていないので、
いきなり光を浴びせれば、
相手の目を眩ませることはできるかもしれない。
二人は息を合わせ、互いにうなずきあう・・・
せーの・・・
ガラララッ!!
スティーブが電灯を部屋の中に向ける!
絵美里が槍のような素早さで前傾姿勢から突撃する!!
えぃっ! あ、あれ!?
・・・いない。
どこにもいない・・・。
スティーブが懐中電灯を狭い部屋の隅々まで照らすが、ごちゃごちゃした機材だけで誰もいない・・・。
「・・・誰もいナイ・・・?」
絵美里は電気をつけた。
放送用の機材は使い方がわからない。
だが、いろんなスイッチがべっとりと濡れている・・・。
普通に気持ち悪い。
そういえば、
足元にも例の卵の殻が散乱している。
だが、ここにヒナの死骸はない・・・。
「もしかして・・・
孵化直前の生卵が・・・夕飯なのかしら?」
あからさまにスティーブが拒否反応を示した。
絵美里は、麻里と「相談」しながら部屋を観察した。
どこから出てったんだろう?
廊下に出たのなら、
暗いとは言え自分たちも判るはず。
窓は・・・鍵が掛かっている・・・。
部屋の上部に通風孔・・・。
レディ メリーなら十分通れる隙間だが・・・
相手が成人男性なら絶対不可能だ。
スティーブは一度、部屋の外を確認した・・・。
もし、その辺にいて入れ違いになってたら・・・。
ガラガラガラバタァッン!!
何!?
絵美里が首を振り返ると、
いきなり部屋の扉が閉められていた。
「スティーブ!?」
『うわぁぁぁああッ!!』
「スティーブッ! どうしたの!?」
廊下からスティーブの絶叫が響く、
ほとんど同時に、
何か、鈍く床を転がる音、争うような物音、
そして絵美里が扉に向かう直前・・・、
まさにその扉からも、ガチャガチャ音が聞こえた・・・。
扉が・・・っ?
開かない!
・・・いくら力を入れても、
ガタガタ扉が揺れるだけで絵美里の力ではどうにもならない。
・・・そしてすぐ扉の向こうから気味の悪いあの歌声が・・・!
<ンェェェェ!
鍵を受け取り閉じこめろ! 閉じこめろ!
鍵を受け取り閉じこめろ! 僕の愛しいメリーさん!!>