第十五話 矛盾
ぶっくま、ありがとんです!
先ほど、麻衣に携帯をかけたときと同様の現象だろうか?
何らかの原因で、
携帯電話が使用不可能になっている・・・。
どの道、麻里も絵美里も警察など当てにはしていない。
いや、冷静に考えれば、
今度の事件を自分たちだけで解決できるわけもないのだが、
彼女たちにはどうしても「他人任せ」にすることができないのだ。
・・・いつも二人は悩んできた。
”エミリー、あなたはどう思う?
パパさんは優しいし、
麻衣ちゃんもあたしたちを気遣ってくれる・・・、
でも、本当なら私たちは・・・。”
”わかってるマリー、
あたしだってそんな子供じゃない!
それはたしかに・・・パパさんは好きよ?
まるで本当のパパみたいに・・・。”
”あなたの気持ちもわかるわ、エミリー、
でもこのカラダはパパさんの愛しい百合子さんのカラダ・・・、
パパさんの愛してる百合子さんの顔・・・、
本当は・・・私たちと接する時、
とてもつらいんだと思うの・・・。”
”・・・でも、でも!
じゃあ、マリー、
あたしたちはどうすればいいの!?
あたしたちはどこにも行く事が出来ないのよ!!”
・・・そうして二人は、
いつも結論が出せないでいたのだ。
もちろん、家事はすすんでやるし、
この三年間、本当の家族のように暖かい生活をしてきた。
・・・これ以上、
自分たちは何も望むものなんかない・・・!
もし、百合子がカラダを返せと言って来たら、
いつでも明け渡すつもりだ。
・・・あの人たちはそんな事、
考えないだろうけども・・・。
だからこそ、
この温かい家庭を外から壊そうというものは絶対に許せない・・・!
確かに、絵美里も麻里も、
今はレディ メリーではない・・・。
だが、二人には今まで多くの邪まな者達を切り刻んできた記憶はある。
今、自分たちにできること・・・
「彼女」は武器を持つ手に力を込め、
・・・確たる決意を秘して、
教室の出口に向かって歩き始めた・・・。
「「うぅ らぁ らぁ、
・・・私は武器を取る・・・
小さな家族を守るため・・・。」」
「エ、エミリーさん? どこへ!?」
慌ただしく携帯をしまいながら、
スティーブが後ろから追いつこうとする。
絵美里は・・・いや、
もはや麻里とも意識は重なりつつあったが、
ゆっくり・・・そして振り返って小さく、
はっきりした口調で言葉を発した・・・。
「戦うわ・・・、
どんな理由からかは知らないけど、
メリーを狙ってる者がいるのなら、
放って置く訳にはいかない・・・!」
「そんな!? 逃げまショウよ!
これ以上は危険すぎマス!
・・・いったい、アナタは・・・!?」
「・・・あなたは帰っていいのよ、スティーブ、
あなたは狙われる心配はないもの。
でも、私たちは・・・
私たちの家族は違う。
この機会を失ったら、いつどこで襲い掛かかられるか全くわからなくなる。
・・・今しかないの。」
スティーブは、
すぐに何か言い返そうとしたが、
一度、言葉を呑み込んだ。
そして、絵美里の言葉に納得したのか、
興奮したまま覚悟を決めたようだ。
「いえ! 私にもトモダチのメリーさんがいます!
彼女を守るためにも、
ヤツを捕まえないといけまセンね!」
絵美里はその言葉を聞いて、
何も言わず前へ再び歩き始めた。
あせって追いかけるスティーブ。
「・・・で、でも、エミリーさん、
怖くないんデスか!?」
絵美里は、黙って廊下の曲がり角で止まった・・・。
すぐ右手に二階に昇る階段がある。
踊り場だけ、蛍光灯が辺りをうすく照らしている。
絵美里は、職員室のある廊下と、
この二階への階段を窺いながら、
今のスティーブの問いに答えた・・・。
「怖い・・・?
死ぬことなんか怖くないわ・・・。
大いなる主の下に召されるだけ・・・
今度こそ・・・。
でも、理不尽に他人の命や幸せを奪う事だけは・・・
それだけは絶対に許せないの。」
スティーブはそれ以上、口を開くことができなかった。
さらに聞きたいこともあったのだが、
今はそれをする時間もない。
彼女たちの決意と覚悟が、自分の想像以上である事だけはなんとか理解した。
だとするなら、後は本来の目的を果たすしかない。
二人はゆっくり階段をあがる・・・。
特に物音は聞こえてこない。
スティーブは結局、
絵美里の後について、せわしなく懐中電灯をあちこちに向ける。
踊り場でカラダの向きを変えると二階が見えてきた・・・。
やはり廊下は暗い・・・。
ヤツはどこにいるのだろう?
すぐ先にある非常扉の後ろに隠れてやしないだろうな・・・?
そういえば、メリーの時、
あんな所に隠れてた事もあったっけ。
・・・二人とも意識して静かに歩いていたが、
どうしてもわずかな足音と、
衣擦れの音は消すことが出来ない。
ヤツは音に敏感だろうか?
二階へと昇りきった・・・。
左後ろは三階への階段・・・
前は左右に廊下がある。
左はやはり特別教室、右が長い廊下だ。
絵美里は一度、
スティーブの懐中電灯を消させた。
ヤツから、
こちらの存在がすぐに見つかってしまうからだ。
そして、絵美里はゆっくり、
慎重に歩を進める・・・。
扉の後ろにはいない・・・、
開ける視界の中にも誰もいない。
右にも・・・左にも・・・
そして天井にも・・・。
さて、どちらに向かおう?
やはり特別教室をチェックしてから長い廊下に向かうべきか・・・?
その時、二人の耳に異音が聞こえた・・・上?
いや、辺り一帯から?
・・・キュイイイン
これは・・・スピーカー?
校内放送のノイズ・・・?
歌だ・・・
あの乾いたヤギ声が、
スピーカーを通して歌を歌っている?
<メリーさん 塀に座った、
メリーさん 転がり落ちた!
王様のお馬を集めても!
王様の家来を集めても!
・・・メリーさん もう、
再び動かす事はできない!!>
次回、
イギリス生まれの絵美里が何かに気付いたようです。
そして彼らに魔の手が!